こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

それはとある映画のBGの仕事だった…前日は土砂降りに翻弄され(過去記事参照)、その朝には地下鉄内でホームレスさんと同車せざるを得なかった日過去記事参照)の出来事である…

 

朝ごはんを食べた後、サテライト・ホールディングに移動する…

 

 

その日のシーンは、葬式…の後のレセプション…まぁ、精進落としの様なものだが、アメリカでは葬式の後、さすがにケーキやシャンペンは出ないものの、軽食とアルコールを出すちょっとしたパーティを行う事が多い…そのレセプションに出ている故人の知り合い…というのが、我々BGの役柄だった…

 

その日呼ばれていたBGは50人ほどで、そんなに多すぎるわけでもなく、まぁ、パーティのシーンとしては妥当な人数だと思う…そのレセプションはテーブルが設置されており、最初そのテーブルに座る「メインの客」役のBG達が30人程ピックアップされていった…ちなみに私はそこには含まれず、そのままサテライト・ホールディングで待つ…その時、ふと残っている人達の顔ぶれを何気なく見回して、思わず冷水をぶっかけられた様な気がした

そこに残っていたメンバー…つまり、メインとしてピックアップされなかったメンバー十数人のほとんどが、黒人とアジア人の有色人種のBG達だったからである…

 

ちなみに、その日呼ばれていたアジア人BGは5人黒人のBGは5~6人…つまり総BG数の約10%にあたるわけで、おそらくInclusionの取り決め過去記事参照)で、そうしなければならない…つまり10%はマイノリティ人種を雇わねばならない…という事になっているのかもしれない…しかし、雇われても、それが実際現場に使われるとは限らない…というのが、またトリッキーなところである…そのメインとしてピックアップされた中には、アジア人1人と黒人2人…と、実は全くゼロではないし、白人の中にもピックアップされていない人達は何人かいるのだから、それは必ずしも人種のせいではなく、選ばれなかったのは、お前に魅力がないからだ…と、プロダクション側は言うだろうし、そう言われれば、こちらは「さいでっか」と言うしかないが、そんな事を信じる人など誰もいない…これはもはや「暗黙の了解」の範疇なのだ…

まぁ、考えようによっては、以前はこういう時マイノリティは雇われもしなかったのだから、まだ雇用の機会が得られただけでもマシ…と言えるのだろうが、「Inclusion」という建前に潜む本音を垣間見た様な気がして、心が冷えた

 

やがて、残りの我々も皆現場に呼ばれる…席には座れないが、その隙間に立っていたり、テーブル間を歩き回ったり…という人達もパーティにはいるからだ…

その時私は、別のアジア人BGとパートナーを組まされた…これもステレオタイプアジア人はアジア人同士固まっておれということか?!…そして「ここに立ってて」とセカンドADに言われたのは、カメラから遠く離れた1番後ろ…って、これってフレームに入ってんのかい?!

 

別に積極的に映りたい…とは思わないが、居てもいなくてもどうでもいい…というのは辛い…しかも、その付近には誰もいないので、2人でずっと立っているしかない…また、私にとって不幸だったのは、そのパートナーは典型的な「エキストラBG」台詞はなくともちゃんと演技してその場にふさわしい役割を演じる事ができる「BGアクター」ではなく、こちらから何をしかけても、ただそこにつまらなそうにボーッと突っ立っているだけ「エキストラBG」だった事…また、こういう時に限って、えらく長いシーンだったりする…のだが、カメラからあまりにも離れているので、何が起こっているのかさっぱりわからない…これは辛いな…と暗澹たる気分でいると、ファーストADがやって来て、パートナーと共に真ん中辺りに移動させられた…やはりあそこでは余りに遠すぎて無意味だったのかもしれない…

 

今度は、周りに人も居るし、プリンシパル達に近いから少なくとも様子はわかる…相変わらず私のパートナーは、あくびを噛み殺しながらそこにボケっと立っているだけ…せめて喋っているフリだけでもしろよ!と言いたくなるが、たとえBGといえども、他人の芝居に口出しするのは御法度である…しかし私はパーティのシーンでずーっと突っ立っているだけ…というのが気持ち悪くでならない…実際のパーティでは、よっぽどそこで話が盛り上がっている…というのでない限り、まず1カ所にずっと立っている…というのはかなり不自然だからだ…

 

大抵パーティでは共通の知人を探して、喋りに行く…そこで、すぐ前に立っているカップルの所へ話しかけに行ったら、その人達はちゃんとしたBGアクター達だったので、すぐに「知り合い」という感じで、仲間に入れてくれた…これは嬉しい!…というのも、実はBGの中には、私のパートナーのような「エキストラ」タイプの方が大多数だったりするからだ…

 

その時、私と「会話」していた女性が「彼女、故人の元愛人よ。」というような事を囁き、意味ありげな目配せを送る…その先にいるのはその映画の主役の女優さん…あぁ、そういう事か…と、私も即座に納得し、そこからいきなりゴシップが始まる?!…勿論、全て無言だが、目配せや口パクといった表情だけで、十分「会話」は成り立つのだ(過去記事参照)…これは「マイズナー・テクニック」の1つだが、それができるということは、この人もシアター俳優だ!…と、私も嬉しくなり、しばしゴシップに興じて、タイミングを見計らって、その仕入れたゴシップを自分のパートナーに言いに行く…のだが、エキストラBGの彼は欠伸しながらボケっと立っているだけで全然乗ってこない…仕事しろよ!…仕方なく、今度はその横の別のカップルに挨拶に行く…幸いその黒人カップルも、2人とも芝居のできるBGアクター達…そこで新たなゴシップを仕入れ(?)、私の知っているゴシップを広め(?)、しばし「無言の会話」を楽しんで、また頃合いを見計らって元の位置に戻る…おそらくその時私はカメラのフレーム外だったのだろう…ADにも何も言われなかったので、そのままその「ゴシップ」の段取りをキープする事にした…もし差し障りがある様ならADが「やるな」と言うだろうし、そうでないなら「OK」もしくは「どうでもいい」というわけで、それならこちらも間が持ち、少なくとも退屈しないで済む方がいい…実際、それがカメラに映っているかどうかは、この際私にはどうでもいい事だったりする…私にとっては、やる事もなくずっと立っている…という方が辛かったのだ…それに、それらのシアター俳優のBG達とのやり取りは、実に楽しいものだった

 

その時、最初に話しかけたBGアクターから、意外な事を言われた?!

 

(その2へ続く)

 

 

★過去記事★