こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

実はこの映画についても、最初は何も触れないつもりだった…正直のところ、映画そのものは私にはオススメとは到底思えないものだったからだ…

しかし、前にも言った様に(過去記事参照)、そういう映画だからこそいい仕事をしている俳優さん達は、積極的に評価したいと思う…

というわけで、このNetflixのオリジナル映画「Maestro」のスクリーニングに行ってきた…

 

 

この「Maestro」は、アメリカの天才指揮者&作曲家のLeonard Bernsteinの伝記物…だが、多分彼の私生活にフォーカスしたかったのかもしれない…「かもしれない」というのは、実は私には、はっきり言ってこの映画で一体何を描きたかったのか?!というのが、イマイチよく分からなかったからだ…

 

ここから先はややネタバレ警告…

 

「ネタバレ」とはいえ、これも伝記物なので、ほとんどの事実はすでに知られているかもしれないのだが、時系列的には、彼がニューヨークフィルの指揮者としてデビューし、奥さんのフェリシアと出会って結婚し、奥さんの死後何年か後(どのくらい後なのかは不明?)にインタビューに答えている…という形をとる…その若い時から中年、そして老年期のバーンスタインの人生…の中でも、そのキャリアについてはサクッと流す…また彼が実はバイセクシャルであることは知る人ぞ知る…という感じだが、結婚してからもしょっちゅう若い男の子と浮気する…しかしその事で深く悩んでいる様子もないし、あくまで「浮気やからええやん?」ってな感じ?!…奥さんにキレられると逆ギレするが、そもそも自分の生徒に手を出すのはやめろよ!…とこちらも突っ込みたくなる…まさかそういう彼の過去の悪行を炙り出したかった…というわけなのか?!

 

Bradley Cooperは、素晴らしい俳優さんではあるが、特殊メイクでBernsteinそっくりになり、その彼の所作をなぞる事以外に、この映画で何がやりたかったん?!…というのがである…いや、俳優としての仕事だけなら、そのキャラクターに人間性とリアリティをもたらすのが仕事だから、それでも好いのだが、監督としてはそれだけではいけないこの映画で一体何が描きたかったのか?!…という監督のビジョンが明確でないと、単なる再現ドラマであるこの映画に欠けていたのは、そういう監督のビジョン…だったのではないか…という気がする…

 

実は脚本もまた「何が言いたかったんや?!」というのが、イマイチ弱い…その脚本の弱さも映画全体をやや残念な印象にしている一因のような気がする…

ひょっとしたら、別の監督&別の脚本家で、彼が主演だけしていた方が、好い作品ができたのではないか?!…という気もしないではない…

 

事実、俳優としては彼は実に味のある仕事をしており、これだけ自分勝手なキャラクターなのになぜか憎めないところがある…これ故に、奥さんも散々振り回されながら、ついつい引きずられていったんだろうなぁ…と、妙に納得させられるリアリティがあったりする…ひょっとして、これこそが、彼がこの映画でやりたかった事なのだろうか?!

 

この映画中では、何と言っても、その奥さんのフェリシアを演じるCarey Mulliganが素晴らしい…彼女の事は以前「Promising Young Woman」過去記事参照)や「She Said」過去記事参照)でもご紹介したが、可愛いだけではなく、精神も自由で頭も良く、これはレニーが一発で恋に落ちるのもわかる!…また若い頃の魅力もさる事ながら、中年以降の老けメイクでも十分愛らしいものの、そのエクボの笑顔の下に隠された深い悲しみと落胆が、観客にもすぐに伝わる…自分の女優としてのキャリアを諦めて良き妻と母に徹したのに、何やねん?!…とブチ切れるシーンがあるが、その怒りの深さと身勝手な天才に翻弄された妻の悲しみ…これがクロースアップで見たいなぁ…と思うのだが、そのシーンは何故かいきなりワイドショットで撮られているので、観客は「何で?!」と思いながら、遠くに見るしかない…このクライマックスの喧嘩シーンは、結構長いロングカットで一気に撮られており、これも舞台俳優のCarey Mulliganだからこそできた事なのだろうし、おそらく俳優同士にはそこで実際に起こっている事がはっきり見えたのだろうが、観客にはいささかもどかしい…私はこれはすごく勿体無いと思ったが、監督にはまた別のこだわりがあったのかもしれない…

 

それでも、このCarey Mulliganの抑えた表現ながら、必要なことはきちんと伝わり、それでいてリアルな人間味に溢れた演技が、この映画をかなり救っている様に思う…彼女のおかげで、少なくともこれは天才の犠牲になった奥さんの話なのかな…と、観客は「何か見られた」気になれるのだ…

 

実は、私が一番楽しみにしていたのは、この映画の後のQ&Aだったりする…そのQ&Aに参加していたのは、Bradley Cooper (左)Carey Mulligan (中央)、そしてその司会がなんと、Hugh Jackman!(右)

 

 

映画の中では完璧なアメリカ英語を話す生のおHugh様は、ここではオーストラリア訛りバリバリ?!…黒縁眼鏡姿も素朴で、本当好い人感丸出しだった…そんなおHugh様の意外な一面にも驚いたが、彼はインタビューを始める前に、用意した質問カードの束をポイっと捨て、「ここにいるのはみんなアクターばかりだから…」と、そのインタビューを俳優同士の気さくなおしゃべりという形に切り替えた…その観客のほとんどもSAGの俳優達だったからだ…ここで語られた「俳優同士」としても裏話の方が、正直のところ映画より数倍面白かった…何と言っても、オーストラリア、イギリス、そしてアメリカの名優が揃っているのだ…

 

また、Bradley Cooperは芝居にもその人柄の良さが滲み出る様な人だが、このQ&Aでも、つくづくこの人は性格の好い人やなぁ…と思わされ、またそういう人だから、きっと皆が「何とか彼をサポートしてあげよう!」という気になるのかもしれない

映画そのものの出来は微妙だったが、オスカーでは候補作になっているのも、ひょっとしたら、そうした彼の頑張りへの評価…だったりするのかもしれない…

 

 

★過去記事★

 

 

 

 

同じく、Netflixの伝記物の、こちらは傑作