こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

夢を叶えるのに、歳を取りすぎるという事はない…という言葉ほど、我々中高年層を勇気づけてくれる言葉はないが、実際それを実践した人達が確かにいる…

 

 

この「Nyad」の主人公、Diana Nyadがまさにその1人で、これはなんと実話を元にした伝記物である…ちなみに、どうでもいい事だが、伝記物でタイトルが主人公の姓…といのは先日お話しした「Rustin」過去記事参照)と同じ…Netflixよ、タイトルのアイディアがマンネリ化してないか?!…もっともLenard Bernsteinの伝記物は「Bernstein」ではなくて「Maestro」だが…

 

ここから先はネタバレ警告

 

これも実在人物の伝記物だし、「Rustin」と違って、本人はもとより、その登場人物の大半はまだピンピンしている…おまけに、元になる話はほんの10年前の事なので、ネタバレも何もあった物ではないが、その本人や元の事実を知らなくても全く問題ない…

 

Diana Nyadは、若い頃はオリンピックの水泳選手…30歳で水泳からは引退し、スポーツジャーナリストとして30年過ごすが、60歳の誕生日を迎えた時、これではいかん!と、何とキューバとフロリダ間103マイルを泳ぐ…という、マラソン水泳にチャレンジするのだ?!…実は、彼女は28歳の時に、一度それにチャレンジして失敗しているのだが、その夢が諦めきれず、今度こそ成功する!…と決心する…

そして元彼女で今は親友のBonnieをコーチに、トレーニングを再開する…が、1マイルは約1.6キロメートルなので、103マイルは約165.8キロメートル?!…しかもマラソンと同じで、ある程度の時間内でなければならず、彼女の場合は約60時間?!…その間ずっと水の中にいなければならない(ボートに上がって休めない)し、他の人が触れると失格…という制約がある…なので、食事も排泄も水の中…眠るのも水に浮かんで少し仮眠をとる程度…という、超人的な耐久戦である

 

しかもキューバとフロリダの間のメキシコ湾にはサメがウヨウヨしているというのに、彼女は今回はサメよけの檻なしで泳ぐという?!…これはその道の専門家が、サメの嫌がる高周波数の音を出す装置でシールドを作る…というハイテクな方法を導入し、勿論そのサメの専門家も同行し、万が一それでもサメが襲ってきたら、その専門家は先端にテニスボールをつけた長い棒で追い払う…そして当然医療スタッフも同行する…またそのエリアの海の専門家…後にクラゲの専門家も参加する…泳ぐのは彼女1人だが、その遠泳を支えるサポートチームが必要で、それにかかる費用も半端ない

 

60歳過ぎてからそんな事にチャレンジする…というだけでもすごいのだが、それはやはり1度で成功するような生易しい事ではなかった…しかも彼女は何とそれに4回も失敗するのだ…普通、還暦過ぎて挑戦したら、1度失敗すれば「やっぱり無理やったんやな…」と諦めるのではないか?!…私も諦めが悪い方ではあるが、それでも粘るとしてもせいぜい3度止まりだろう…しかし彼女はその度に、「次こそ!」と挑戦し続け、5度目にようやく成功するのだ!諦めない人が成功するとは限らないが、成功した人は諦めなかった人である…というのは本当の事だと、つくづく思わされる…

 

しかし彼女の偉いところは、単に諦めなかっただけではない…失敗する度に、そこから学び、「そこを直せば次はいける!」とすかさず対策を立てる…猛毒を持つハコクラゲに刺されて諦めざるを得なかった後、彼女は即クラゲの専門家を雇い、クラゲ対策をして次回に臨む…同じことを繰り返して玉砕し続けるのではなく、少しでも夢に向かって前進し続けようとする問題を分析して対応する冷静さと、自分に対する絶対的な信頼…これは見習わなければ…と思う…

 

そしてやがて彼女は気づく…それまで「自分の挑戦」だと思ってきたが、その彼女を支える為に同じように苦労し、犠牲を払うサポートチームの人達の存在何かを成し遂げるには、それを支えてくれた人達の存在を忘れない…これも大事な事だ…

 

また若い頃に信頼していたコーチにレイプされる…というトラウマも示唆される…当時彼女は14歳?!…これってどう考えても犯罪だが、こうしたコーチによるアスリートへの性暴力が明るみに出始めたのは、ごく最近の事である…

 

これは実話なので、ラストがどうなるかはわかっている…というか、私は彼女が2013年に成功した時のニュースを覚えているくらいなのだが、それでもそこに至る道のりは知らなかったので、まるで一緒に彼女を支えるチームの一員になったかのように感無量…実際、そこで劇場から思わず拍手が起こった…

 

このストーリーで感動しない方が無理だが、それをリアルに支える演技陣も素晴らしい。Diana Nyadを演じる為に、1年オリンピックの水泳選手だったコーチについて水泳の特訓をした…というAnnette Beningは見事なストロークで、アスリート並みの安定した泳ぎを見せる…そして、Dianaのコーチ兼親友のBonnieを演じたJodie Fosterが素晴らしい…どちらもオスカーおよびSAG Awardsにそれぞれ主演と助演女優賞にノミネートされているが、当然だろう…

 

上映後、そのAnnette BeningがQ&Aに登場…そしてその対談の相手は、Kathleen Turner?!…なんやこの豪華なメンバーは?!

 

 

ここで撮影裏話や、またモデルとなった本物のDiana Nyadとの交流の話など、興味は尽きない…

あの海で泳ぐシーンは、実際の海ではなく巨大水槽の中での撮影だったそうだが、それでも実際に泳いでいたのは彼女自身その半分以上が泳いでいるシーンだから、これは大変だった事だろう…

 

これは特に、一生懸命生きている50歳以上のオバチャンには、もう号泣間違いなし…機会があったら、ぜひお勧めしたい作品である…

 

 

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