こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

前回のお話:

 

 

VO(声優)

実は、VO(声優)の契約書は、同じSAGの契約書でも、TV映画のそれとはまた全然違うものなので、映画やTVの一部でない限りは、今回のストの影響は受けずに済む…とは言え、声優の世界もAIの脅威に晒されていないわけではない

そして、その声優のギルド、NAVA(National Association of Voice Actors)も、SAG-AFTRAのストライキが発表されると、真っ先に支持を表明した

 

実は、声優の仕事がAIにとられる懸念については、ChatGPTが登場するはるか前から、既に語られていたし、私もその脅威は身近に感じていた

 

というのも、コロナ禍以来、レコーディングスタジオが閉鎖されたりしたので、多くのプロの声優達は、自宅にホーム録音スタジオを作り、声の仕事はそこで収録してきた過去記事参照)のだが、少し前から、そのホームスタジオを使って「AIをトレーニングする仕事をやらないか?」というオファーが、時折舞い込む様になったからだ…それ等は、通常長時間の録音を必要とするので、それなりにギャラも良いのだが、実は私は、「AIのトレーニング」の仕事は全て断る様にしているそりゃそうだろう?!もし私がその仕事を引き受けて、AIに私の声や話し方を覚えさせたら、その後は声の仕事はそのAIによる私の声を使って行われ、私には一銭も入ってこなくなるのだ?!…これはまさに自分で自分の首を絞めるような行為である…それに、そのAIによる私の声が他の別のプロジェクトに無断で使われても私には全く知る由もないのだ?!

 

勿論、私がやらなくても、多分他の誰かがやるだろうその行為がいずれは自分の首を絞める…という事を理解せず、ギャラに釣られて何も考えずにやってしまう奴は必ずいると思う…しかし、少なくとも私は、その手助けを積極的にするのはどうしても嫌だった…

 

声優の仕事は、アニメのアフレコや映画の吹き替え、オーディオブックやラジオのコマーシャルだけではない…実は企業ビデオや研修ビデオ、またはオンライン・コースのナレーション…という、どちらかと言うと地味ぃな仕事も、重要な声優の収入源だったりし、事実私がホームスタジオで録音するのもそういう仕事が多い

これ等のナレーションは、ひたすら説明を続け、しかも長い!…そのビデオの長さにもよるが、通常最終的には1時間くらいのビデオ…というのが多いのだが、通常1時間のビデオが1時間で録音出来る事などなく、どうしても2~3時間はかかる…その間ずっと正確な発音とトーンをキープしなければならないので、中々体力勝負でもあるのだが、これらのナレーションの仕事は、おそらくいずれは全てAIに取って代わられる事だろう…AIは何時間喋っても、疲れて滑舌がレロレロになる事など決してないからだ

 

それでも、それ等のナレーションには「アナウンサーっぽくならない様に」つまり「全くの無表情で機械的に読むのではなく、親しみのある口調」と言う無茶なリクエストをされる…自動車のエンジンの部品や機能について延々と説明するのに、どこをどうやったら親しみのある口調になるねん?!…と、突っ込みたくなる事も多いが、逆を言えば、それが私の「最後の砦」でもある…そこで私はそういうナレーションにも、できる限り「人間性」を入れる事にしている…その多くは「髪一筋ほどの僅かなニュアンス」というようなものだったりするのだが、「〇〇することはできません。」というのに「すいませんねぇ…」というニュアンスをほんの少しだけ入れたり、「ありがとうございました。」という挨拶は、たとえ顔は見えなくても、必ず笑顔で言う…そういう「人間性」こそが、我々生身の声優がAIに勝つ方法ではないか?!…と、思いたい…

 

もっとも、いずれAIもそう言う「人間的なニュアンス」まで学習するようになるのかもしれないのだが、その事は考えたくない

 

 

その4へ続く)

 

★過去記事★