こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

前回のお話:

 

 

スタント・ダブル & ボディ・ダブル

 

AIに仕事を奪われる危険性があるのは、実はBGだけではない…実は、撮影に欠かせない「スタント・ダブル」「ボディ・ダブル」も、いずれAIに取って代わられる運命にあるかもしれない…ちなみに、スタントの仕事には、アクションシーンで華麗な立ち回りを繰り広げるものと、危険なシーンをプリンシパルの代わりにやるものとの2種類がある…その前者の立ち回りに関しては、香港映画などの、非現実的な程派手なアクションシーンの一部では、すでにアニメーションやCGで代用されているものもあるのだが、それでもまだクリエイティブな部分があるから、この役割が完全になくなる事はないかもしれない…

しかし今後AIに、確実に取って代わられる事が予想されるのは、おそらく後者…つまり撮影中に「プリンシパルの身体の代わり」を務めるスタント・ダブルやボディ・ダブルの方である…この役割をやる人達は、そのプリンシパルと背格好、肌や髪の色などが似通っている人が使われ、時には「双子かい?!」と思う程よく似ている人もいる

 

ちなみに、「スタンドイン」にも、プリンシパルとよく似ている人が使われるが、こちらは撮影前にカメラや照明の設定をする間だけに使われ、実際にその人達の姿が撮影される事はない…ただスタンドインが、後ろ姿や遠景など、撮影の時にそのプリンシパルの代わりに顔を見せずに身体だけ代役を務める、ボディダブルの仕事を兼ねる場合もあるのだが、この2つは基本的には違う種類の仕事で、だからギャラの額も違う…実は日本のサイトで、「Stand-in」を「代役」と訳してあった事があったのだが、これは誤訳もしくは勘違い…「代役」は普通「Understady」を指し、これは舞台でのみ使われる用語である…

 

このボディ・ダブルとスタント・ダブルは、共にプリンシパルの代わりに画面に映る人達なのだが、それこそAIの出番だろう…むしろ、生身の人間の場合は顔が見えない様にしなければならないが、プリンシパル本人の画像を使ったAIならばその必要はないし、どんな危険なシーンでも誰も怪我しないから、保険の必要もない…しかし、その為に特殊な訓練を受けて、長年プロとして経験を積んできた人達が、全て失職する事となる

 

 

 

 

プリンシパル(台詞のある役)

実はプリンシパルも、必ずしも安全…と言うわけではない

まだBGに比べると、一応肖像権の著作料は払われるので、一度スキャンした映像を勝手に使われる事には、何等かの制限が加えられるだろうが、そのスキャンした画像をどの様に使われるか…という事に関しては、これは撮影後の編集過程であるポストプロダクションで、俳優には全くタッチできないところで行われるからだ…

 

例えば、撮影の後で、監督が特定のシーンに関して「やはりあのシーンでは、この俳優に泣く代わりに笑って欲しい…」と思ったとする…普通ならそういう時は、そのシーンはReshoot、すなわち撮り直しで、そのシーンに出ていた出演者はBGに至るまでもう一度呼び戻される…ところが、AIを使えば、その俳優の表情をデジタルで変えるだけで済むと言う?!…その為に一日分の撮影にかかる費用も時間も全て節約できる?!

 

しかしそれでは、表現、すなわちパフォーマンスの責任と所有権は誰に属するのか?!俳優は決して監督の人形ではないのだ…勿論そう勘違いしている監督もいないわけではないのだが、監督と俳優は、本来対等に協力し合う独立したアーティストでなければならない…だからこそ、監督の想像を超えたいい場面ができる事もあるし、逆にそうでなければ、本当にいいものなど作れない

また俳優にしてみても、撮影してから自分の演技が勝手にデジタルで変えられてしまい、それを自分の演技として発表されるって、どうよ?!…いや、それならスキャンした画像だけあれば、本人は最初から撮影所に来なくていい…という事になりかねない?!…これにはちょっと待てや!と言いたくなる…

 

またプリンシパルの中でも、BGに毛が生えた程度の、一発台詞のチョイ役なんかは、それこそ瞬く間にAIで代用されてしまうかもしれない…そんな事になれば、私のような俳優は途端に生活が干上がってしまうではないか?!

 

さらに、例えば昔の人気TVシリーズで、シーズン8ぐらいまで作られた番組があるとする…そしてそのオリジナルキャストの多くは今では高齢化したり、亡くなっていたりする…普通なら、新しいキャストでリメイク…というところだが、実はAIを使えば、その過去のパフォーマンスから、若い頃のオリジナルのキャストのままで、新しいシーズン9を作る…なんて事が実は可能だという?!

こうなると、実際に演技しているのは一体誰なのか?!…という問題になる…画像を使われている若き日の俳優なのか?それともAIなのか?!

 

しかし、そうしてAIに作られた新しいシーズンは、果たして本当に面白いのか?!…という別な問題も生じる…AIは過去のデータを分析&解析する事で学習し、その事に関しては生身の人間なんかよりはるかに優秀ではあるが、全く新しいものを作ることはできない…つまり、AIによって作り出される新しいシーズンは、いわば過去の8シーズンの焼き直しである…そんなものを本当に見たいのか?!

 

しかし生身の人間によって作られた番組にも、過去の作品の焼き直しの様なものも決して少なくないから、これは必ずしもAIだけの問題…とは言えないかもしれない…

つまりこれは受け手の問題でもあるのだ…観客の方が、過去の焼き直しの様な作品を許さない…という姿勢を貫けば、AIのつけこむ余地はない…しかし、それだけ目の肥えた観客が、今やどれだけいるだろう?!

 

さらに、そのうちAIが人為的に「予想できない偶然」を作り出すことを学習し、新しいものを作れる様になったら?!…その事は今は考えたくない

 

その3に続く)