こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

6月頭からのWGA(脚本家のユニオン)のストライキに、この度SAG-AFTRA(俳優のユニオン)もストライキに加わった(過去記事参照)…この規模のダブルストライキは1960年以来だそうである…

 

 

その争点のポイントは、賃金や待遇の改善AI(人工知能)の使用制限で、特にAIに関してが深刻な問題だったりする…というのも、今の内に手を打っておかないと、近い将来かなり大問題になる懸念があるからだ…大問題…というのは、ズバリ「AIに仕事を盗られてしまう」という懸念である…

 

では、本当に我々俳優は、AIに仕事を盗られてしまうのだろうか…?

答えは、YESで、今すぐではないかもしれないが、仕事の種類によっては、今制限しておかないと、いずれはAIに取って代わられる日が必ず来る…と私は思っている…そして、その日は案外早く来るかもしれない

 

実はかなり前から、人工知能に取って替わられている仕事は少なくない…工場のベルトコンベアーの多くはオートメーション化されているし、スーパーなどのセルフのチェックアウトも増えてきた…つまり、技術的な熟練をさほど必要としない業種ほど、AI化されてしまう…といってもいいかもしれない…

 

では、どのような種類の仕事がAIに盗られてしまうのか?!…実は、こういっている間にもAIはどんどん賢くなっているので、今は「大丈夫」と思っているものでも、いずれ大丈夫ではなくなるかもしれないが、今現在の段階で「かなりヤバイ」という予想のできる職種についてお話ししたい…

 

BG(エキストラ)

熟練技術を必要としない…という意味では、我々俳優の仕事の中で、おそらく最初に危機にさらされるのが、BG(Backgroundまたはエキストラ)の仕事である…

 

もっとも、これまでも、例えば何千人もの大群衆のシーンを、百人くらいのBGで撮影し、あとはその画像をCGでカサ増し…というような事はずっと行われてきていたのだが、今回のAIの問題はそれとは桁違いなものである…生身のBGさえいらなくなるかもしれないのだ…

プロダクションが、「BGアクターに1日分だけのギャラを払って、その姿をスキャンし、その画像をそのまま必要に応じて本人の同意なしに無制限に使えるようにする」…という項目を、実は今回の更新の際、AMPTP側は契約書に入れようとしたのだと言う?!

そんな事になれば、BGアクターは1度自分の姿をスキャンされてしまうと、その後そのプロダクションの仕事は一切できなくなる…また、それまでは撮影日が何日か連続した場合は、全部いなければならなかったが、そのAI画像があれば、BGはその撮影場所にいる必要さえない?!…という事は、当然オーバータイムもなし?!…さらに、そのプロダクションだけではなく、他のプロダクションにも無制限に自分の画像を使われてしまう可能性もある…ちなみに、BGは自分の画像を使われても肖像権の著作料は一銭も入って来ない…という事は、1度スキャンされてしまうと、自分の過去の画像に、未来の仕事も全て奪われる事になるわけである…これでは、SAGがブチ切れるのも当然である

 

確かにBGはクレジットもつかないし、著作料も出ないが、その仕事を貴重な収入源にしている俳優は多く、実はかく言う私もその一人である…ユニオンのBGが使われる数は限られているのでその仕事を取るのも激戦で、ギャラの額も時給換算すればはっきり言って安い…しかしそれでも時折複数日のブッキングや、長時間撮影のオーバータイムがあったりするので、それでかろうじて生活できているのだ…だから、もしその仕事が実質的に1度のスキャンで無くなってしまう?!…となると、生活できなくなる俳優達も続出するだろう…勿論、私もその1人かもしれない

 

さらに、1度スキャンされた自分の画像があちこちでBGに使われてしまったら、それが後にプリンシパルの仕事の障害になるのではないか?!…ただでさえ、うっかりBGをやってしまった番組のプリンシパルのオーディションが来てしまった!…と言うような大ボケを、私は何度かやらかしているのだ(過去記事参照)が、今はそのシーズン内だけで、次のシーズンにはご破算になってくれている…はずである…しかし一度スキャンされた画像を、本当にプロダクションが破棄してくれるという保証はない…同じワードローブを別の作品にも使い回すように、おそらく我々の画像もストックされ、必要に応じて使いまわされる事だろう…その内ストックが溜まりすぎて、新しいBGの画像も必要なくなる時が来るかもしれない…

 

このAMPTPの計画がムカつくのは、プロデューサー側が「BGなんか背景や壁紙と同じなのだから、AIの画像で十分」という認識でいる事である…冗談ではない!台詞はなくとも、我々はパフォーマンスをしているのだ!

勿論、画面には背景の一部としてボヤッとしか映っていない…という場合もあるのだが、それでもたとえ画面にはっきり映っていなくても、我々は、プリンシパルの邪魔にならないように細心の注意を払いつつ、生きた人間達のドラマをその場面にきちんと再現しようとしているのだ(過去記事参照)…少なくとも私は現場にいる時は、そういうつもりでいるし、それが俳優の仕事なのだと思っている壁紙の一部と同じにされてたまるか?!

 

しかし、おそらくプロデューサー達の多くは、そんな事は知らない…どころか、そんな風に思った事もないのかもしれない…この様に、実際の現場を知らない人が、実は重要な決定を下している…という事は、世の中には実に頻繁に起こる…実際にはAIの画像ではとても使い物にはならない…という事が判明するかもしれないし、また逆に全然問題ない…という事もあるかもしれないのだが、少なくとも今の段階では、決定する人達が「AIで十分」だと思っている…つまり、BGのパフォーマンスなど全く認めておらず、コスト削減しか考えていない…という事が、何よりの問題である様な気がする…

 

その2へ続く)

 

 

★過去記事★