こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

前回のお話:

 

 

 

SAG-AFTRAのストライキに先駆けて、脚本家のWGAのストライキが行われていた過去記事参照)が、その脚本家達の要求も、基本的にはSAG-AFTRAのそれと近いものである…が、我々パフォーマーとはまた違った懸念も、実は存在する様な気がする…

 

脚本家

少し前の話だが、世の中に「Google翻訳」が登場した時これで翻訳家は全て仕事を失う?!と言われたりした…実は私も生活の為、時々翻訳の仕事をしたりしているので、その時は暗澹たる気持ちになったのだが、いざ蓋を開けてみると、欧米言語間はともかく、少なくとも日英語間のGoogle翻訳は話にならない程のお粗末さ…それだけでギャグネタになる程酷く、とても商品として使える代物ではなかったので、当時の私もホッと胸を撫で下ろした…という事があったので、私のGoogle翻訳に対するイメージはすこぶる悪く、自分では使った事はなかったのだが、割とよく使っているという友人の話では、最近は、文学的な文章はともかく、公文書のような「硬い文章」ならほぼ問題ないレベルになっていると言う…つまりそういう「硬い文章」の翻訳は、すでにAIに盗られているのかもしれない…

 

なので、「AIが今どれだけの事ができるか」…という事だけが問題なのではない…今できなくても、近い将来できる様になる事もあるし、またその学習速度もどんどん速くなっていると言う…そして、そのAIの未熟さ故に、生身の人間が新たな被害を被る事もある…

 

そのグーグル翻訳が出てしばらく後のこと…当時私はまだノンユニオンだったのだが、声優として、日本語の声の仕事をする事が時々あった…ある時、渡された日本語の台本が、「これGoogle翻訳使ったんちゃう?!」と言いたくなる程酷かった…そこでその事を指摘すると、「では少しAdjustment(微調整)してくれないか?」と頼まれる…まぁ、それまでにも長すぎる文章を短くしたり、不自然な言い回しを別の言葉に変えたり…というような「Adjustments」は録音の際にもやってきたので、その時も引き受けたのだが、これは到底「微調整」で済むような生易しいものではなかった…実際、酷い文章を生じっか手直しするより、新しく一から翻訳し直した方が遥に易しかったと思う…結局その台本も、大半は私が翻訳し直した形になったが、勿論私には翻訳料など一銭も支払われない…その台本の翻訳直しにかなりの時間を取られ、結果的にかなり長いセッションとなったが、これもフラットレートだったので、はっきり言って私には金銭的メリットは何もなかったユニオンの仕事ではこういう事は禁止されているが、ノンユニオンの世界は無法地帯…ただ、私も最近は、もし台本の翻訳に問題があっても、それを指摘はするものの、本当の「微調整」以上のことはせず、そのまま正確に録音する事にしている…プロの翻訳家をちゃんと雇って適切な台本を提供するのは、これはプロダクション側の責任なのだ…我々パフォーマーの仕事は、与えられた台本を忠実に読む事…そしてその分のギャラはきっちり請求する学習できるのは、AIだけではない

 

おそらく、脚本家達が心配しているのも、実はこの手の問題の方ではないか?!…という気がする。

現時点でAIの作り出すものが、本当にプロレベルの商品になりうるものか?!…という事については、正直のところ私は疑問に思っている…もっとも、AIの学習能力は高く、いずれはAIもそのレベルに追いつく可能性はゼロではない…が、やはりAIが得意とするのは、あくまで情報の分析と再現なので、AIが作るのは所詮焼き直し…つまり多かれ少なかれ「どっかで見たような?!」というものになるのではないかと思う…もっとも、実際に「どっかで見た」ものをベースに再現しているのだから、それは当然の事で、それでAIを責めるのは気の毒である

問題は、雇い主すなわちプロデューサー側がそれをわかっているかどうか?…という事である。

 

たとえば、プロデューサーが「AIに脚本を書かせればいい」と思って、人間の脚本家の大半をクビにしたとするしかし、さすがに全てをAIに任せるのはリスクが大き過ぎると思いもしそう思わない奴がいたら、それはよっぽどのアホである)、念の為に人間の脚本家も1人くらい雇う…ところが、実際AIに脚本を書かせてみると、それはとても使い物にならない…そこでもし即座にAIの使用を断念し、元の人間の脚本家を雇い直すなら問題はないのだが、おそらくそうはならないだろう…おそらく人間の脚本家に、AIの作品が使い物になる様に「微調整」させるのではないか?!…そうなると、先ほどお話しした私のケースと同様人間の脚本家は自分の仕事に加えて、AIの尻拭い…という余分な負担をかけられる事になる…そしてその結果本当にいいものができるならともかく、負担が大きい割にはメリットがない…という状況になるのは容易に予想される…しかも人間の脚本家達に、その負担に対して余分なギャラが払われるとは思えないただでさえ、脚本家達の労働条件は悪く、その報酬も労力に対して極めて低い…という事が改善要求の1つなのだ…AIの尻拭いという余分な仕事が入ったところで、それがすぐに報いられるようなシステムになっているなら、そもそも誰がストなどやるものか?!

 

遠い将来、いつの日かAIに仕事をとられる懸念もさる事ながら、比較的近い将来に脚本家達が直面するのは、おそらくこの「AIの尻拭い」問題である…つまり、実際にAIにどれだけの事ができるか?という事よりももっと大きな問題は、プロデューサー達が「AIで十分」と思い込む事である…つまり、前にも言った様に、実際の現場を知らない人が、得てして現場に影響する大きな決断を下す…という事が問題なのである…そして、その決断の根拠は、得手してコスト削減である事が多く、結局作品のクオリティもその犠牲になる

 

コスト重視の決断により、多くの脚本家達が職を失う…そして、かろうじて職をキープ出来た数少ない脚本家はより負担の大きな環境で重労働を強いられる…そしてその結果できた作品の質は低下するばかりそれが脚本家のせいにされ、その為に脚本家達はさらに失職や過重労働を強いられる…これはまさにブラック企業のそれと同じもので、「そうなる事を避けたい…」と願う事の、一体どこが自分勝手で欲深なのだ?!

 

6月にWGAがストライキを決行した時、SAG-AFTRAも即座にそのサポートを表明した

 

*画像はウェブからお借りしました。

そして現在継続中のWGAとSAG-AFTRAのダブル・ストライキの理由は、そういうAI使用の遠い将来への懸念と共に、近い将来直面する問題も含んでいる事を忘れてはならない…

 

その5へ続く)

 

 

★過去記事★