こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

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アメリカの映画やTVの脚本家のギルドWGAWriters Guild of America:全米脚本家協会)が、5月2日からストライキを決行した…これはWGAの脚本家達と、ショービジネスのプロデューサー連合AMPTPの(過去記事参照)との契約が、5月1日の深夜12時に失効し、その後の契約更新の交渉が決裂した為である…

 

実はここ数週間程ずっと交渉が続いていたのを、我々も固唾を飲んで見守っていたのだが、せっかくコロナ禍も少し収まり、仕事も戻ってきて経済も回り始めたのに、ここでストなんか起こされたら、それこそ洒落にならない…ということは、いくら何でもプロデューサー側もわかっているから、無事に交渉成立になるだろう…と言うのが、我々の希望的観測だった…ところが、交渉決裂?!…って、どこまでアホやねん、こいつら?!…これはWGA(脚本家側)にいうのではない、AMPTP(プロデューサー側)に突っ込んでいるのだ…

 

脚本家達がストに入ると、特にTVの撮影はすぐにストップせざるを得ない…そうなると、またもクルーや我々俳優達は職を失う事となり、結果的にプロデューサーも大損失を被る事になるのだ少しくらいの給料値上げをケチったが為に、結果的にその数十倍の損害となるこれをアホと言わずして何と言う?!…また、もしストはWGAのメンバーだけだから、ノンユニオンの作家を安く使えばいい…と思っていたとしたら、それこそ素人の浅知恵である…実は現在の脚本家達の労働条件は、経験のあるプロでなければ到底無理…と言う過酷なもので、それこそがストの争点でもあったのだから、そう言う経験や技術を持たないノンユニオンでは、時間もお金も余計にかかる少しぐらいギャラをケチったくらいで、到底採算が取れるものではないのだ…

 

大企業寄りの保守系メディアは、ストを悪者扱いにしがちだが、ストライキは憲法でも保障された労働者の権利である…しかしこのWGAのストに関しても「金ばかり欲しがる強欲な奴等」的なイメージを、意図的に植え付けようとする世論操作が、特に玉石混合のSNSでは見られたりするので、ここで基本的な事を明確にしておきたい。

 

そのストの争点は主に3つ…労働環境の改善待遇(給料)の改善、そしてAIの使用への規制である。

労働条件と待遇の改善は、これは全ての労働争議のポイントなので言うまでもないのだが、何も「株主にしろ!」とか「ボーナスを出せ」と言っているのではない…普通に仕事をした時の給料を、せめて生活できるだけの額にしてくれと言うのに、プロデューサー側は「NO」と言ったわけで、どこまでブラックやねん?!と言いたくなる…実際、この構造は日本のブラック企業のそれと全く同じものなのだが、それは特定のプロダクションだけがブラックで、そこを辞めれば解決する…と言う問題でないのが、厄介なところである…AMPTP全体が同じ条件なので、逃げ場がないのだ…また、こういう時に「では低予算のインディのプロダクションはどうするのだ?!」というような事を言い出す人が必ずいるのだが、ここで交渉の対象になっているのは、あくまでハリウッドやニューヨークのメジャーなプロダクション…特に、「Net***x」や 「Ama**n P**me」のように、ネット配信ストリーミングで儲かりまくり、左団扇ででウハウハ言っているプロデューサー達だけであるCEOのボーナスや訴訟に何億ドルも使いまくっている人達が、末端の労働者には生活が成り立つだけの給料も払いたがらないこれがストの原因である…さらに、ネットワークの作品には払われていた作家への再放送の著作料が、現在ストリーミングでは払われていない…それは単に「まだ規則ができていないから」というので払っていないのだが、では「その規則を作って」と交渉したら「NOと言う?!結局払いたくないだけやんか!

 

そもそも1時間のドラマの脚本を完成させるには、当然のことながら1時間では無理である何時間、あるいは時には何十時間もかかるのだが、「時間かかってもいいからゆっくりやってね」と言うわけにもいかない…そして、それを普通は週に1本、ストリーミングの場合は、まとめていくつもエピソードを撮るので、もっと期間が短い事もある…

 

さらに、脚本家が一旦書き上げた脚本は、その後も撮影が終わるまで何度も手直しを要求される…これは実は我々俳優にとっても、せっかく苦労して覚えたセリフを撮影当日にすっかり変えられたりして泣きたくなる事もあるのだが、書き直す脚本家の方はもっと大変である…テレビの場合、ブルー、黄色、ピンク…と、書き直される度に台本が色の違う紙に印刷され、どの版を使っているのか一眼てわかるようにしてあるのだが、最終稿のピンクになった後でも、撮影現場でいきなり俳優が「これはおかしい」と言い始めたり、監督が「ここを変えろ」と言ってきたりする…おそらく脚本家にとっては「黙って書かれたものを読んでろ!」と言いたくなるだろうが、そういう無理な要求にも応えつつ、作品の質をキープしなければならないのだ…

 

最近は室内での喫煙はできなくなったが、昔なら脚本家達は、タバコの煙もうもうの狭いライタールームに文字通り缶詰…アメリカのドラマのハイレベルは、こうした人々の過酷な重労働によって成り立っている…と言っても過言ではない…

 

さらに、最近のAIの出現で、AIを使えば人間の脚本家などいらないのでは?と考えるプロデューサーもいたりする…まぁ、将来的にはそういう時も来るかもしれないが、実際は、まだまだ今の段階ではそこまでの実用は無理である…このAIについては別の機会にじっくり書きたいが、問題はAIが実際に実用レベルかどうか…という事よりも、「それで十分だと考えて人間の脚本家を雇わない」というアホプロデューサーが出てくる事である…その結果、仕事を失う脚本家が増え、またその尻拭いを残った生身の脚本家がさせられる…人員削減の負担が残った人に押し付けられる…という、これもブラック企業のそれと同じ問題が生じる…そこでその前に、そのAIの脚本への使用規制してほしい…というわけである。

しかし、その規制に「NO」と言う…と言うことは、いずれは全てAIでまかなえると思っている…ということではないか?!…こいつら、クリエーターの仕事を何やと思っとるんや?!

 

実は、ストライキは誰だって嫌なのだ…それはピケットラインにいるWGAの人達だって同じである…できれば皆仕事がしたいのだ…しかし、だからと言って、生活に困っても、ボランティアでもいいからやれ…というのを許しておけば、いつまでたってもクリエーター達は、プロデューサー達に搾取され続ける…実際、この脚本家達がプロデューサー達の無理な要求を飲んでしまうと、それはやがて他の労働者達、クルー達や俳優達も、そういう無理な条件を強いられる事になる…このストライキの決行は、それを将来の為にも防ぐ…という意味もある…

 

前回のWGAのストは15年前で、その時は100日間ストは続き、その為にクローズを余儀なくされたTVの人気シリーズもいくつかあった

少しの間は、書き溜めた脚本を使える…とはいえ、それはそんなに多くない…というか、書き溜めができるような労働条件ではなく、時間ギリギリの中で脚本家達が過重労働させられている…というのが、そもそもの問題なのだ…それに先ほども言った脚本の手直しは一切できない…その結果、その15年前のストの時に、脚本のレベルが低くても何とかなるリアリティショーが爆誕した…が、それによって海外にも上映権がガンガン売れるような良質なTVドラマはクローズを強いられる…頭の悪いケチが返ってお金を失う…という典型的なパターンである…

 

もちろん、我々末端の俳優はそのとばっちりをモロにかぶる…実は先週の無理なブッキングのスケジュールは、このWGAのストを懸念したものだった…ストが長引けば、仕事が全くなくなる日も近いからだ…

私も労働者の一人として、組合(SAG-AFTRA)のお世話になっているので、このWGAのストもできる限りサポートしたい…とは思っている…しかし、そのとばっちりでまた仕事のなくなる日々が、この後どれだけ続くのか…という、終わりの見えないストレスを思うと、目の前が暗くなる1日も早くストが終わって欲しいと願ってやまない…

 

 

★過去記事★