妄想恋愛シミュレーション -9ページ目

セイジャク。⑩

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(和弥)


車の中では、一言も話さなかった。


ゆうはただ窓の外に顔を傾け


動き始めたばかりの生き生きとした街の風景を


ぼんやり見つめてた。


何度となく耳に戻ってくる先生の言葉。


少しでも長く一緒に生きて行きたいというオレの願い。


そして


癌を恐れながら生き続けたくないというゆうの意思。


胸が苦しい。





マンションに到着したのは10時を少し過ぎた頃だった。


幾度となく一緒に歩いた通路、一緒に乗ったエレベーター。


いつもこんなに静かだったのかな。


また切なくなる。


部屋の前まで来た時


突然、隣の玄関が開いた。


尋弥だ。


目が会う。


よッと手をあげようとして、尋弥は表情を固くした。


ゆうの姿を見たからなのか、


それともオレの様子がおかしかったからなのか。


オレはトーンを上げて言った。


「おはよ。もう仕事?」


「今日は全員一緒だろ。2時に加藤さんが迎えに来るんじゃん」


そうだった。


ゆうは俯いたまま尋弥から顔をそむけていた。


「こちら西谷ゆうさん。お初だよね」


「あ、うん。なに?彼女?」


「うん」


一瞬、オレを迷惑そうに見上げたゆうは


尋弥をむき直って頭を下げた。


「一生賭けて、大切にしてくつもりなんだ」


オレは真っすぐ尋弥を見て言った。


いつもなら、冷やかしの一つも入れるところなんだろうけど


今日の尋弥は、やっぱりオレの目をじっと見て、しっかり頷いただけだった。


もう、オレの気持ちは決まっていた。


ゆうを一人にはさせない。


オレも、もう一人にはなりたくない。


君と生きてくと


あの日決めたから。



妄想恋愛シミュレーション-s




セイジャク。⑪へつづく