セイジャク。⑧
⑧
(和弥)
翌日も朝早くからゆうの病室に行った。
仕事に入る時間まで一緒にいようと思う。
面会時間外だったけど
検査棟って事もあってか誰にも咎められなかった。
ゆうが先生に呼ばれたのは午前8時。
外来の診察が始まる前に説明をしてくれるという。
看護師が呼びに来て、ゆうはスリッパを履いた。
「オレも行く」
「あなたはここにいて」
「嫌だ、オレも一緒に聞く」
「だめ、私一人で聞く」
「だめだ、オレも一緒に行く」
結局ゆうが根負けして、二人で病室を出た。
手を繋ぐ。
久しぶりのゆうの指は氷のように冷たくて、思わずギュッと握りしめた。
通されたのは、会議室のような部屋。
楕円のテーブルとホワイトボード。
オレたちが席に付くとすぐに先生が入ってきた。
「あれ?こちらは?」
「婚約者の大倉と言います」
ゆうよりも先にオレが答える。
ゆうが小さなため息を吐く。
「そうですか。良かった。そういう方がいらっしゃるなら安心だ」
先生は手元のノートパソコンを開いて電源を入れた。
プロジェクターからホワイトボードにパソコンの画面が映し出され、先生がクリックしたフォルダからゆうのレントゲン写真らしき画像がいくつも現れた。
ゆうは全くそれをみようとしない。
うつむいたまま。
膝の上に揃えられた手が震えている。
オレはそっと手を重ねた。
「採取した細胞の病理検査の結果を言ってしまうと、悪性でした」
心臓がバクッと大きく震えた。
ゆうがそっと目を閉じる。
先生が赤く光るポインターで画像の部分を示しながら、癌だと思われる黒い影を説明してくれた。
「画像で確認できるのは全部で7つです。何度かに分けて手術でその周囲から取り除き、その後X線治療を行うのが一番有効です」
先生の言葉が終わるか終わらない内に、凛としたゆうの声が響いた。
「手術はしません」
