セイジャク。⑥
⑥
(和弥)
混乱してる。
だいぶ取り乱してる。
ナビに病院名を入れる事さえ上手くいかない。
でも、本人から連絡があったと言ってた。
今朝のメールの事も思い出した。
多分、命に関わるものではないんだろう。
心配かけたくないと思ったんだろうけど
こんな形で知ったら
いい気はしない。
なんでもキチンと話してほしい。
ちゃんとそれを伝えなくちゃ。
病院に付く頃には、僕の気持ちは平常に戻りつつあった。
大きな大学病院だ。
受付で教えてもらった病室は【検査棟】と呼ばれる建物の中だった。
一般病棟を抜けると一気に変わる。
音も、においも、空気も。
静寂の中に機械音と薬品臭。
人の気配さえ感じられない。
ナースステーションまで来て、ようやく人を見つけた。
コンピュータに向かってキーボードを叩いている事務員らしき人。
彼女の名前を言うと
笑顔で部屋まで案内してくれた。
個室のようだ。
部屋の扉は開いていて
覗くと中に看護師の姿が見えた。
「何本も採ってごめんなさいね。これで終わりだから」
採血中だった。
「明日の朝、全部の検査の結果が出ますからね。先生からお話があると思いますよ」
オレは「失礼します」と声をかけて中に入った。
看護師がこちらを見た。
頭を下げる。
「どうぞ。もう終わりますから」
中途半端に閉められたカーテンの向こうに
やっと彼女の姿を見つけた。
驚きと戸惑いが混ざった困惑した顔をした。
「彼氏さん?」
看護師は採血の片づけをしながら言った。
「いえ」
オレが代わりに答える。
「婚約者です」
ゆうを見る。
ウソツキ、そんな目でオレを見てる。
「あら~素敵なフィアンセね~」
看護師はオレの顔をまじまじと見た。
「どこかで会った事あるかしら?」
「いや、ないと思いますよ。オレここ来た事ないし」
「なんかどこかで会った事あるような気がするわ」
多分、テレビの中じゃないかな?
オレは笑った。
看護師も笑って「気のせいね」と言って部屋を出て行った。
