セイジャク。⑦
⑦
(和弥)
ベッドの端に腰を下ろす。
大きな窓のある明るい部屋。
窓の外には都会のビルの波が何処までも続いている。
「・・・びっくりしたよ」
「ごめんなさい」
「支配人さんから聞いた」
「・・・そう・・・」
「ゆうから話して欲しかった」
外を向いてるオレには
ゆうの表情は見えなかったけど
困った顔で俯いてるだろうなって事は想像できた。
「心配するといけないと思って」
「心配したっていいじゃん。当たり前の事じゃないの?彼女が入院したら心配するでしょ、普通」
「・・・うん・・・でも・・・」
ゆうが言葉に詰まる。
「まあ、もういいよ。でも次からは内緒はナシだよ。お互い、なんでも話そう」
ゆうを振り返って笑いかける。
いつもなら笑顔で応えてくれるはずのゆうが、オレをじっと見つめたまま険しい顔をしてる。
「・・・ゆう?」
気持ちがざわつく。
嫌な予感がする。
「もしも」
嫌だ、聞きたくない。
「癌が再発してたら」
のどが詰まる。
「もう、会いたくない」
オレは再び窓の外に視線を移した。
「なんで、そんな事になっちゃうの」
「前にも、話した事あるけど、このままあなたと幸せな日々を送っていたら、死ぬときに絶対『死にたくない』って思ってしまう。そんな想いを残しながら死んでくなんて、私には耐えられない」
「例え癌が見つかったとしても、死ぬなんて限らない」
「この検査で癌が見つかったら、私は間違いなく死ぬよ。私は両親を見てるし、それに自分の事だもん、良く分かるの」
「オレは納得しないよ。絶対別れない」
暫く間があった。
「あなたの気持ちはホントに嬉しい。あなたは私にとって大切な人。一番大切な人。だから、別れて欲しい」
「言ってる意味が分からないよ!」
「あなたには味わってほしくないの。私が死んだ後の孤独感」
「そんなの、今別れたとしても同じ事じゃない。君を失えば、オレは孤独だよ!」
「違う。全然違う。死に別れた後の孤独感は、絶望的に続いてく」
オレはゆっくりとゆうを振り返った。
静かな笑顔だった。
「あなたの想いがとても深い事、すごく分かるから。あなたはきっと苦しむ」
目の前のゆうが滲む。
「お互い、苦しむのが分かってるのに、最後まで一緒にいるのは辛すぎるから」
頬に止めどなく涙が流れた。
とても熱い涙。
「・・・それでも・・・辛くても・・・絶望的でも・・・オレはずっとそばにいる・・・」
やっと言えた。
ゆうがそっとハンドタオルを手渡してくれる。
「私ね、昨日の夜、色々考えたの。もしも死期が近づいたら、まず荷物を処分して、アパートを解約して、口座を解約して、携帯も、PCのプロバイダも・・・そういう色んな身辺整理は自分でできるけど、死んだ後の入院費の支払いとか、骨にしてもらって両親の眠るお墓に入れてもらう事とかは誰に頼んでおけばいいんだろうって。その時、一番最初にあなたの事が浮かんで・・・でもあなたに迷惑かける事だけは絶対いやだって思った。あなたには荷が重すぎるし、そんな時間だってないはず。でも、私と付き合ってたって事がばれたら、あなたにその役が回ってくるんじゃないかって。それだけは避けたいの。どうしてもあなたの重荷にはなりたくないの。だから、癌だって分かったら、あなたとは別れます」
オレは激しく首を横に振った。
もう声も出ない。
ベッドが揺れた。
ゆうが後ろから抱きしめてくれた。
「まだ、癌だってきまったわけじゃないから」
オレは頷いて、ゆうに身を預けた。
