妄想恋愛シミュレーション -6ページ目

セイジャク。B-1

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B-1



(和弥)


とにかく毎日メールを送る。


毎日説得する。


火曜日に仕事を入れなくなったゆう。


オレ、避けられてる。


それでも説得し続ける。


別れるなんて言わせない。


認めない。


手術を受けさせる。


一緒に闘う。


ゆうは完全無視だ。


あの日みたいに、マンションの前、雨の中でずぶ濡れになって待っていても


一瞬困ったような表情を見せるだけで


決してオレを受け入れない。




収録待ちの楽屋で、携帯が振動した。


ラウンジの支配人から着信。


心臓が大きく鳴った。


【何かあったら知らせてください】


そうお願いして電話番号の交換をした。


何かあったんだ。


慌てて電話に出る。


「西谷が、仕事を辞める事になりました」


来週の月曜日が最後の出勤。


その足で、入院する予定のようだ。


支配人の声は暗かった。




月曜日か。。。


ゆうが上がる時間、オレはスタジオの中だ。


その時にゆうに会えなければ、ゆうの入院先も分からず、多分、もう、会うチャンスはなくなる。


あの病院だろうか。


問い合わせてみようか。


いや、やっぱり、ゆうに会いに行こう。


もう一度ちゃんと向き合って話をしよう。


このままでは後悔する。


きっとそれが【絶望的な後悔】になる。


やっぱりオレ、行かなきゃ。


自分でも気付かない内に加藤さんの前に立ってた。


「どうかしたのか?」


「来週の月曜日・・・」


「来週の月曜日?」


「午後の仕事、キャンセルさせてください!」


頭を下げる。


「は?カズ、何言ってんの?月曜日は毎週、お前がメインの仕事だって分かってるだろ?」


頭を下げたまま叫ぶ。


「わかってます!でも、今度だけ、今度だけなんとかお願いします!」


「わかってなんかないじゃないか!5人の内、一人休みます、じゃないんだぞ!お前が休んだら穴があくんだよ!穴があいたら二度と仕事はこないぞ!」


「お願いします!オレ行かなきゃならないんです!お願いします!」


「どこへだよ!」


答えられない・・・いくら加藤さんでも、彼女の所だなんて話は聞いてくれないだろう。


かと言って嘘なんか吐きたくない。


オレはただ頭を下げたまま言い続けた。


「お願いします!」


「そんな事・・・」


「俺が代打になるよ。たまにはそれも新鮮じゃね?俺がカズの代わりにその仕事に行く」


加藤さんをさえぎって、尋弥の声がした。


顔を上げて声を見る。


「カズは風邪ひいたとか、なんとか言っとけばいいじゃん。納得させるくらい、加藤さん、お手のもんだろ?」


「お前な、そういう事じゃないんだよ。仕事ってのは・・・」


「分かってるよ。カズだって充分分かってるよ。こいつ今まで、仕事に穴開けた事ある?さぼった事ある?
 寝ずに次の仕事行くくらい真剣にやってんじゃん。加藤さんだってそれ見てんじゃん!」


尋弥の声が大きくなってく。


「あー僕もいくわ。和弥の代わりに」


「じゃ、ぼーくも!なんか楽しそうだなぁって思ってたの!」


「いや~残念!俺、無理だわ。生の仕事が入ってるから。でもそれ終わったら即効駆けつけるからさ」


智弥、理弥、そして奨弥。


みんながオレを囲んでいた。


半分、臨戦態勢。


加藤さんが舌打ちをした。


「こういう時の団結力がやっかいなんだよな、お前たちは」




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