妄想恋愛シミュレーション -5ページ目

セイジャク。A-2

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A-2



(尋弥)


その理由が、なんとなく分かった。


和弥と二人で取材を受けてる時。


和弥の姿をテレビで見ない日がないっていうフリが記者から出て、それに和弥が答えた。


「オレが必死で生きてる姿を見せたい人がいるんです」


あの時と同じ目をしていた。


「今はどこにいるのかも分からないけど、もしオレの姿を見ててくれたら、ちゃらんぽらんな自分は見せたくない。どんな事も真剣に逃げずに取り組んでるオレの姿を、その人の糧にしてほしいとおもってるんです」


今はどこにいるのかも分からないけど・・・


彼女が去って行ったんだな。


でも和弥はまだ彼女を強く思っていて、彼女が見ていてくれると信じて仕事をしてる。


俺はまた身震いした。


和弥って、そんなヤツだったんだな。


兄弟として、もっと和弥を好きになった。




その仕事帰り、俺は自分の部屋に戻らず和弥の部屋に上がり込んだ。


自分でもビックリだけど、和弥の部屋にあがるのは初めてだった。


まったく味気ない部屋だ。


必要なものしかない。


必要なものも足りない、みたいな。


「ごめん。最近、酒、やめてるの。なんにもないんだよ、うち」


と言って、小さく笑んだ。


「うちから持ってくるわ。たまには飲んだっていいんじゃないの?明日、午後からでしょ」


「そだね。じゃ、貰おうかな」


俺が部屋から持ち込んだ缶ビールで、和弥はあっという間に酔っ払った。


酔っ払った勢いで、彼女が消えてしまった事を告白した。


彼女が癌で、手術をしたくないと言い張って、死ぬときに迷惑かけたくないと姿を消したと。


泣きながら。



苦しいよ。今頃、一人ぼっちでポツンといるんだろうなって思うと、苦しくて辛いよ。


なんでオレ、引き留められなかったんだろ。


どうか死なないでいてくれって、それだけがオレの願い。


どんな姿でもいい、生きているゆうと、もう一度会いたい。


会って、抱きしめて、もう絶対離れずに、ずっとずっとそばにいてやりたい・・・



泣きながら、和弥は、小さく丸まって眠りに落ちて行った。




あれ以来、和弥はコラムやインタビューの最後に必ずこう付け加える。


「オレの言葉が君の糧になりますように」


これはファンに向けた言葉じゃない。


あの人に、今、どこにいるのかわからないあの人に。


でも


一生賭けて大切にすると誓った人に


届けたい言葉。


雑誌の片隅に、この言葉を見るたび、


俺は胸が熱くなる。


どうか、生きていてくれ。


俺もそう祈ってる。



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