セイジャク。A-2
A-2
(尋弥)
その理由が、なんとなく分かった。
和弥と二人で取材を受けてる時。
和弥の姿をテレビで見ない日がないっていうフリが記者から出て、それに和弥が答えた。
「オレが必死で生きてる姿を見せたい人がいるんです」
あの時と同じ目をしていた。
「今はどこにいるのかも分からないけど、もしオレの姿を見ててくれたら、ちゃらんぽらんな自分は見せたくない。どんな事も真剣に逃げずに取り組んでるオレの姿を、その人の糧にしてほしいとおもってるんです」
今はどこにいるのかも分からないけど・・・
彼女が去って行ったんだな。
でも和弥はまだ彼女を強く思っていて、彼女が見ていてくれると信じて仕事をしてる。
俺はまた身震いした。
和弥って、そんなヤツだったんだな。
兄弟として、もっと和弥を好きになった。
その仕事帰り、俺は自分の部屋に戻らず和弥の部屋に上がり込んだ。
自分でもビックリだけど、和弥の部屋にあがるのは初めてだった。
まったく味気ない部屋だ。
必要なものしかない。
必要なものも足りない、みたいな。
「ごめん。最近、酒、やめてるの。なんにもないんだよ、うち」
と言って、小さく笑んだ。
「うちから持ってくるわ。たまには飲んだっていいんじゃないの?明日、午後からでしょ」
「そだね。じゃ、貰おうかな」
俺が部屋から持ち込んだ缶ビールで、和弥はあっという間に酔っ払った。
酔っ払った勢いで、彼女が消えてしまった事を告白した。
彼女が癌で、手術をしたくないと言い張って、死ぬときに迷惑かけたくないと姿を消したと。
泣きながら。
苦しいよ。今頃、一人ぼっちでポツンといるんだろうなって思うと、苦しくて辛いよ。
なんでオレ、引き留められなかったんだろ。
どうか死なないでいてくれって、それだけがオレの願い。
どんな姿でもいい、生きているゆうと、もう一度会いたい。
会って、抱きしめて、もう絶対離れずに、ずっとずっとそばにいてやりたい・・・
泣きながら、和弥は、小さく丸まって眠りに落ちて行った。
あれ以来、和弥はコラムやインタビューの最後に必ずこう付け加える。
「オレの言葉が君の糧になりますように」
これはファンに向けた言葉じゃない。
あの人に、今、どこにいるのかわからないあの人に。
でも
一生賭けて大切にすると誓った人に
届けたい言葉。
雑誌の片隅に、この言葉を見るたび、
俺は胸が熱くなる。
どうか、生きていてくれ。
俺もそう祈ってる。
