セイジャク。B-2
B-2
(和弥)
支配人に「ここで待ってて下さい。ここから出てきますから」と案内されたのは
スタッフだけが入ることのできるエリア。
スタッフオンリーのドアの内側。
まるで倉庫。
あの優雅な世界の裏側。
オレは壁に寄りかかり、そっと目を閉じた。
生き続けてほしい。
それがゆうの幸せにも必ず繋がるはずだ。
冷たい銀色の扉が開く音がした。
「必ず良くなって戻ってきてくださいね!」
「ありがとう」
見ると、スタッフに囲まれたゆうが、大きな花束を抱えて出てきた。
支配人に耳打ちされたゆうが、オレの存在に気が付く。
肩でため息を吐いたのが分かった。
オレが支配人に頭を下げると、彼もまた丁寧に会釈を返してくれて、スタッフを連れて銀の扉に消えて行った。
「そろそろ観念してくれてもいいんじゃない?」
オレの言葉に、ゆうはもう1度ため息を吐いて言った。
「困った人ね」
「困った人はゆうの方だよ」
ゆうが笑った。
胸を震わせてた小さな恐怖が、スッと消えた。
「今から病院?」
「うん。入院するの」
「じゃ、送るよ」
「遠いわよ」
また、涙があふれた。
ゆうの選んだ病院は、狭山湖のすぐそば。
看護師に案内された入院棟は、やさしいピンクに包まれていた。
壁には穏やかな絵が飾られ、どこからともなくアロマの香りが漂う。
「こちらですね」
そう言って看護師が開けてくれたドアの向こうには、ホテルを思わせる部屋があった。
看護師が「また後で参りますね」と去って行った後、ゆうは大きな窓から外を眺めた。
「ここさ・・・」
その背中に問いかける。
「もしかして・・・」
「うん。ホスピス」
呼吸を忘れる。
ゆうがくるりと振り向いた。
「簡単に出した答えじゃないよ。ホントに一生懸命考えて決めたの。色んなこと想定してみた。
想定外だったのは・・・あなたとここにいる事くらいかな。支配人が絡んでるなんて思わなかったもの」
ゆうが笑う。
その笑顔はすぐに消えてく。
「上手く姿を消せる予定だったのになぁ」
「治療、しないの?手術、しないの?この先、何年も生きられる可能性いっぱいあるのに、諦めちゃうの?」
「そこの選択権は、私にちょうだい。あとは全部あなたにあげる。もう、二度とここに来なくてもいいし、来てもいいし」
「ずっと来るよ。言ったでしょ。一生賭けるって」
ゆうがまたため息を吐く。
「今度来るまでに、よく考えて。あなたも色んなこと想定してみて。その上で、もう来なくても全然構わないし」
ゆうは再びオレに背を向けて、少しはしゃいだ声を上げた。
「見て、湖が見えるよ。ラッキーだなぁ。この部屋になって」
