FRATELLI 第5章ー13
第5章ー13
(尋弥)
朝食を取ってこなかった俺には、嬉しいブランチだった。
軽すぎず、重すぎないメニューと、珍しい食材。
「うめぇ」
「まじ、うめぇ」
「なんだ、これ?スゲー旨いんだけど」
俺がイチイチ感動するので、彼女はため息を吐きながらフォークとナイフを置いてしまった。
「あれ?食べないの?」
「だって、うるさいんだもの」
「美味しいって言いながら食べると、もっともっと幸せになれるって死んだ母さんが言ってたんだけどな」
社長が笑んだ。
珍しく優しい微笑みに見えた。
「あなたたちの亡くなったお母様って、ホントに素敵な方だったのね」
「なんでそう思うの?」
「先日も理弥さんから思い出話をうかがって」
「どんな?」
社長は暫く考えてから言った。
「いろいろ」
そんな言葉を選ばれると、それ以上聞いてはいけない気になる。
ま、いいけど。
あとで幾らでも理弥から話は聞けるから。
「実は俺、あんまり母さんの事って覚えてないんだ。俺が一番手がかからない子だったみたいで、それで俺だけ親戚じゃない他人の家に養子に行った。大切にしてもらったから文句はないけど。でも、唯一、親が困ったのは好き嫌いが多かった事だったんだって。それで母さんが、俺が嫌いなものを泣きながら食べる時横で「美味しいね、美味しいね」って呟いてくれたんだと思う」
そんな風に母の話をしながら食事をするうちに、彼女からの視線が少しずつ暖かくなってくるのが分かった。
食事が終わると、社長がコーヒーを入れてくれた。
冷蔵庫に冷やされていたフルーツのデザートと一緒に出してくれる。
「内山さんが、心配してたよ」
俺の言葉に彼女の手が止まる。
「なんでも一人で抱え込んじゃってない?」
「あなたには関係のない話よ」
「そうだけどさ。多分、内山さんは社長を同志だと思ってるんじゃない?」
「分かってる。でも巻き込みたくないのよ。最悪の事態の時に」
最悪の事態・・・
「会社、のっとられそうなの?」
直球すぎたかな?
社長は笑った。
「ストレートね。良い事じゃないわよ、人の会社の内部事情に立ち入るのは」
そう言って視線を反らした彼女の表情は、間違いなく曇っていた。
