FRATELLI 第5章ー12
第5章ー12
(尋弥)
その朝、指示は携帯にメールで届いた。
≪午前10時 ホテルSG 1120号室にてお待ちしております≫
え?部屋?
レストランじゃなくて?
変な脈が胸に立つ。
その脈が、部屋の前に立った時、緊張から来るものだと確信した。
なんだよ。
スウィートルームってさ。
ふとあの人の「必ずいらしてね。逃げずに」の言葉を思い出した。
挑発にも程がある。
俺は胸に溜まった曇った空気を、一気に吐き出してからチャイムをおした。
ガタンと大きな音がして、ドアが10センチほど開く。
そこから覗く鋭い瞳と目があう。
「どうぞ」
まるで高級マンションのようだ。
広い廊下には、油絵が飾られ、その先に広がるリビングルーム。
その右手にフカフカのデカいベッドが置かれた寝室。
心臓が爆る。
「心配しなくてもいいのよ。今日はあちらの部屋だから」
俺の様子をバカにするように、彼女は左手奥の部屋を指した。
何人が座るんだってくらい長いテーブルに、パーティが出来そうなくらい鮮やかな料理が並んでいる。
「すげー」
素直に感嘆。
社長は俺に椅子をすすめながら言った。
「レストランは朝食用しか用意できないって言うし、ラウンジで私と二人でいるところなんて見られたら、あなたの商品価値が落ちるだろうし」
商品って・・・
これも挑発だな。
「それで、スウィートにルームサービスをお願いすることにしたのよ」
「社長は何時まで大丈夫なんですか?」
「私は2時にアポが入ってるの」
「じゃ、食事だけじゃなくて、色々楽しめるってわけだ」
一瞬にして不機嫌な顔になる。
「大丈夫、変な事しないから。安心して」
形勢逆転か?
「あなたにそんな勇気ないでしょ。ここに来るのだって緊張してたんじゃなくて?」
ばれてるじゃねーか。
俺は苦笑い。
「当たった」
社長は勝ち誇った微笑。
かなわないな。
そう思ったら緊張も解けた。
俺は、社長に手を伸ばした。
「皿、取って」
目の前に置かれた、何も乗っていない白い丸皿。
それに視線を落として、社長は言った。
「自分でするからいいわよ」
「いや、俺が取り分ける。取り分けるの、いつも俺の担当なの」
「担当?」
「うん。みんなで食事行った時とか。貸して」
少しの間の後、社長は俺に自分の皿を渡した。
担当って言ったのは嘘じゃない。
兄弟たちと居酒屋なんかに行くと、必ず俺が取り分ける。
店を決める担当は奨弥で、注文する担当は理弥。
いつの間にかそんな流れが出来てた。
サーブ用のスプーンとフォークを片手で持ち、サラダから順番に皿に盛って行く。
こういう所で美的センスを確認されたりするんだろ。
気は抜けない。
あ、ソースが1滴、白いテーブルクロスの上に。
社長の冷たい目線。
笑ってごまかす俺。
