FRATELLI 第5章ー11
第5章ー11
(尋弥)
俺が提案して、次回号の【FBRUR】の対談相手は河西社長になった。
何度かの交渉でようやくOKが出たらしい。
ジュ・ルーテの社長室で行う事が条件。
俺、相当嫌われてるみたいだ。
あんな挑発的な態度を取ったからだろう。
あの時は、本当に嫌な女だと思っていた。
でも、あれから数回、ジュ・ルーテの事務所に行き、女性社員に囲まれて笑っているあの人を見ていたら、悪い人じゃないんじゃないかって思えてきた。
内山さんの話も気になる。
社長室。
真っ赤な革張りのソファが、黒いタイルの床に映えている。
そのソファに向かい合って座る。
最初の数分、スチールを撮影し、カメラマンは社長室を出て行った。
マイク付きのレコーダーをセットし、対談を始める。
二人きりとはいえ、オフィスからは大きなはめ込み窓をはさんでいるだけで、丸見え状態だ。
別に構わないけど。
「対談、OKしてくれてありがとうございます」
「いえ」
「俺が頼み込んだんですよ。どうしてもちゃんと話をしたくて」
「そうですか」
「俺、多分、嫌われてますよね?」
社長は鼻で笑っただけで、答えなかった。
それから、一通り、会社の事、男性下着の昨今の事情、事業を始めた理由、など、コラムの基礎になる部分を聞き、その後で、軸となる彼女の生き様に迫って行く。
「経営者として、女性であることにハンディを感じた事はありますか」
この質問で、彼女はしばらく考えた。
「ハンディを感じる事は良くあります。でもそれは私の卑屈な感性のせいかもしれません」
「卑屈な感性?」
「そう、女性だから甘く見られてるんじゃないかとか、逆に、女性だから甘やかされてんじゃないかとか。自分が作り出したハンディかもしれない、ということです」
意外な気がした。こんな風に、自分の核心をさらけ出すなんて、思ってもみなかったから。
「素直なんですね」
「だって、これを読んで下さるのは間違いなく女性の方でしょう?その読者のみなさんに、嘘を付くことなんてできませんから」
あくまでも、女性にはまっすぐに当たっていく人だ。
対談が終わり、俺はレコーダーのスイッチを切った。
「もう暫くいいですか?ここからはオフレコで」
社長の目つきが鋭くなる。
途端にだ。
今からは対・読者ではない。
対・俺。
警戒してるな、間違いなく。
「今度、食事でもどうですか」
暫く俺を見据えた後、形のいい唇がゆっくりと開いた。
「そんな時間、あなたにはないでしょう?」
「そんな事ないですよ。時間なら作ります。いつにしますか?」
「じゃぁ・・・」
斜めに俺を見る。
「今度の水曜の午前10時に。そこのホテルに席を用意しておきます。どうかしら?」
窓から見えるシティホテルを指差した。
あくまでも挑戦的だ。
俺は携帯を開いてスケジュールを確認する。
「その日は夜の生放送だけですね。ラッキーだ。食事は1対1ですよ。逃げないで下さいね」
「逃げる?どういう意味?」
俺も顎を上げて社長を見下ろした。
「仕事が入ったとか、急用が出来たとか、いざとなるとそんな言い訳しそうだから」
社長の表情がさらにきつくなる。
「そのままそっくりお返しするわ。言い訳は男の本領でしょ?あなたこそ、必ずいらっしゃいね。逃げずに」
ったく、可愛くない人だ。
