妄想恋愛シミュレーション -36ページ目

FRATELLI 第1章ーE

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第1章ーE




(ゆう)


「ゆうさん?智弥さんが来てくれたよ」


リョースケの声の後に智弥クンの声も聞こえた。


「ゆうさん。風間さんのとこで、イラストの話し聞いて。来ちゃったよ」


智弥クンの声は、どこか間が抜けてて、でもホッとする。


「風間さん、ものすごく怒ってて、今、どうにかしようとして走り回ってる」


あーやっぱり。


急激に申し訳ない気持ちになる。


私がもういいよ。って言えば、全てが丸く収まる。


「僕も見たけど、驚いた。話と全然ちがうから」


うん。


私も、やっぱり驚いた。


何かの間違いじゃないかって思った。


「やっぱりこういうのは汚いと思う。こういうやり方は嫌いだよ。正しくない」


柔らかな声が、ちょっと沈んだ。


一生懸命に私の気持ちになってくれてる智弥クンの心遣いが、ホントに嬉しかった。


「でもね」


智弥クンの声に強さが重なった。


「僕は、このイラストもゆうさんそのものだと思うんだ」


私そのもの?


「僕は街のあちこちで、あなたのイラストを目にするたび、あなたの微笑んでる顔を思い出す。あなたには、イラストのような温かさとか優しさとか、優雅さとか愛らしさとか、全部備わってる。このイラストは間違いなく、あなただから描けるもので、あなたそのものだと思う」


呼吸を忘れる位、智弥クンの言葉に驚いた。


「ホントだよ、このイラスト集の表紙の横顔、あなたが落書きしてる時の笑顔にそっくりだよ」


頬づえをついて、微笑んでる、お団子頭の女の子。


確かに家に居る時の私はいつも、お団子頭。


でもあんな風な優しい笑顔なんて作れるわけない。


「あなたのイラストを見るたび、僕は必ず、あなたのその横顔を思い出して、それで僕も笑顔になれる」


「だからね、ゆうさんのイラストは、ゆうさんの心をしっかり表してるんだよ」


「つまり、このイラスト集、あなたの名前で出版されても、あなたが恥じる事は全然ない。むしろ胸を張って、私の心を見てくださいって言ってもいい」


智弥クンは、ゆっくりと、柔らかく、力強く、私にメッセージを送ってくれた。


私のイラストは私そのもの。


気付かない内に、私の心に立っていた波はすっかり落ち着いて、さらさらと気持ちのいい音を響かせていた。


私は立ちあがり、そっと扉を開いた。


智弥クンの笑顔があった。


声と同じ、柔らかくて温かい笑顔。


私をスッと癒してくれる。


「ありがと」


「いや。いつか伝えたいと思っていたから」


「あたし、あんな風に笑顔作れてる?」


「うん。いつも優しく笑ってるよ。作品作ってる時だけはね。人ごみを歩いてる時は暗ーいオーラが出てるけど」


私たちは声を立てて笑った。


久しぶりにおなかの底から声を出した気がする。


その後で吸い込んだ夕方の冷たい空気が、体の隅々まで綺麗にしてくれる気がした。


「あ、そうだ!これ」


智弥クンが思い出したように足元の荷物を拾い上げた。


「一緒に油描かない?ロール買ってきた」


そう言って油絵用のキャンバスのロールを私に見せた。


「大きいの描きたいんだけど、枠ある?」


「うちにある一番大きい枠は120号のスクエアよ」


「120号ってどのくらい?」


「約2m」


「おお!描きたい!」


智弥クンが子供みたいに目を輝かせた。


「じゃ、張ろうか?キャンバス」


「張ろう!」


「あ!その前に・・・」


私が制止すると智弥クンは何?と首を傾げた。


「風間さんに連絡するわ。もういいよって」




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The Happy End