FRATELLI 第1章ーE
第1章ーE
(ゆう)
「ゆうさん?智弥さんが来てくれたよ」
リョースケの声の後に智弥クンの声も聞こえた。
「ゆうさん。風間さんのとこで、イラストの話し聞いて。来ちゃったよ」
智弥クンの声は、どこか間が抜けてて、でもホッとする。
「風間さん、ものすごく怒ってて、今、どうにかしようとして走り回ってる」
あーやっぱり。
急激に申し訳ない気持ちになる。
私がもういいよ。って言えば、全てが丸く収まる。
「僕も見たけど、驚いた。話と全然ちがうから」
うん。
私も、やっぱり驚いた。
何かの間違いじゃないかって思った。
「やっぱりこういうのは汚いと思う。こういうやり方は嫌いだよ。正しくない」
柔らかな声が、ちょっと沈んだ。
一生懸命に私の気持ちになってくれてる智弥クンの心遣いが、ホントに嬉しかった。
「でもね」
智弥クンの声に強さが重なった。
「僕は、このイラストもゆうさんそのものだと思うんだ」
私そのもの?
「僕は街のあちこちで、あなたのイラストを目にするたび、あなたの微笑んでる顔を思い出す。あなたには、イラストのような温かさとか優しさとか、優雅さとか愛らしさとか、全部備わってる。このイラストは間違いなく、あなただから描けるもので、あなたそのものだと思う」
呼吸を忘れる位、智弥クンの言葉に驚いた。
「ホントだよ、このイラスト集の表紙の横顔、あなたが落書きしてる時の笑顔にそっくりだよ」
頬づえをついて、微笑んでる、お団子頭の女の子。
確かに家に居る時の私はいつも、お団子頭。
でもあんな風な優しい笑顔なんて作れるわけない。
「あなたのイラストを見るたび、僕は必ず、あなたのその横顔を思い出して、それで僕も笑顔になれる」
「だからね、ゆうさんのイラストは、ゆうさんの心をしっかり表してるんだよ」
「つまり、このイラスト集、あなたの名前で出版されても、あなたが恥じる事は全然ない。むしろ胸を張って、私の心を見てくださいって言ってもいい」
智弥クンは、ゆっくりと、柔らかく、力強く、私にメッセージを送ってくれた。
私のイラストは私そのもの。
気付かない内に、私の心に立っていた波はすっかり落ち着いて、さらさらと気持ちのいい音を響かせていた。
私は立ちあがり、そっと扉を開いた。
智弥クンの笑顔があった。
声と同じ、柔らかくて温かい笑顔。
私をスッと癒してくれる。
「ありがと」
「いや。いつか伝えたいと思っていたから」
「あたし、あんな風に笑顔作れてる?」
「うん。いつも優しく笑ってるよ。作品作ってる時だけはね。人ごみを歩いてる時は暗ーいオーラが出てるけど」
私たちは声を立てて笑った。
久しぶりにおなかの底から声を出した気がする。
その後で吸い込んだ夕方の冷たい空気が、体の隅々まで綺麗にしてくれる気がした。
「あ、そうだ!これ」
智弥クンが思い出したように足元の荷物を拾い上げた。
「一緒に油描かない?ロール買ってきた」
そう言って油絵用のキャンバスのロールを私に見せた。
「大きいの描きたいんだけど、枠ある?」
「うちにある一番大きい枠は120号のスクエアよ」
「120号ってどのくらい?」
「約2m」
「おお!描きたい!」
智弥クンが子供みたいに目を輝かせた。
「じゃ、張ろうか?キャンバス」
「張ろう!」
「あ!その前に・・・」
私が制止すると智弥クンは何?と首を傾げた。
「風間さんに連絡するわ。もういいよって」
The Happy End