FRATELLI 第5章ー9
第5章―9
(理弥)
気が付くと、社長様の乱れた呼吸は聞こえなくなっていた。
「ありがとう・・・落ち着きました。いい話を聞かせてもらえて」
小さな声がした。
「いい話じゃないけど・・・落ち着けたなら良かったです」
その時、エレベータ内に電気が付いた。
と同時に、ゆっくりと動き始めたのが分かった。
僕は立ち上がり、社長様に手を差し伸べた。
僕の手を取り、社長様は立ち上がった。
服の乱れを直し、ハンカチでそっと汗をふき、「助かりました」とつぶやいた。
「みんなに、恥ずかしい姿、晒さずにいれます。体裁が保てます」
そう言って、扉の前に立ち、背筋を伸ばした。
社長様って、大変なんだな。
弱い部分は見せちゃいけないんだな。
僕は彼女の後ろに立ち、扉が開くのを待った。
「お礼がしたいので、いつでも結構ですから、メールをください。先日お渡しした名刺に、書いてありますから」
「お礼なんて・・・」
「いえ、必ず連絡をください」
彼女が背中できっぱりとそう言いきった時、エレベータは停止し、扉がスーッと開いた。
待ち構えていた人たちが、僕たちを取り囲んだ。
