FRATELLI 第5章ー14
第5章ー14
(理弥)
先日のエレベータの一件で、お礼に食事に連れて行ってくれると言うので甘える事にした。
ホントは全然、お礼なんて要らないって思ってるんだけど。
それじゃ気が済まないんだって。
それで≪僕の食べたいものでもいいですか?≫って聞いたら≪もちろんそのつもりです≫って返ってきたので、行くことにした。
こないだ、尋クンがホテルで食事をしたって言うから、それは勘弁!って思ってさ。
僕、マジでマナーとか駄目なの。
緊張するし、美味しいものも美味しいなんて感じなくなっちゃう。
待ち合わせは「ジュ・ルーテ」の入ってるビルの1階で11時半。
僕が時間通りにそこへ到着すると、ゆうさんはもう居た。
あ、そうなの。
社長ってなんか、とってもよそよそしいでしょ。
それで、ゆうさんって呼んでもいいかってメールで訊ねたら、いいですよって言ってもらえた。
「待ちました?」
「いえ、今来たところですよ」
「じゃ、行きましょう」
僕がリードする。
「近くなの?」
「はい。ここから歩いて10分掛かんないと思います」
実際、僕たちが歩いたのは6分くらい。
その店の前に着いた時、ゆうさんは固まった。
「ここ?」
「そう。ここのところずっと食べたくて。時々無性に食べたくなるの、牛丼」
僕は牛丼屋の扉を押して、ゆうさんを招く。
とまどいながらも、ゆうさんは店内に入った。
テーブル席につく。
「ゆうさんも牛丼でいいでしょ?」
困ったような表情で小さく頷く。
僕は水を持ってきてくれた店員さんに「牛丼二つ」と注文した。
お昼前なのに、店内は一杯だった。
2、3人で来ているサラリーマンや、OLさんたち。
一人でカウンターに座って、ご飯をかき込んでる学生風の人。
化粧もヘアースタイルもバッチリな売り子さん風の女性。
ホントに色んな年代の、色んな職業の人が、座っていた。
「ここでは・・・」
ゆうさんの声が小さく聞こえた。
「ここでは、先日のお礼に値しません」
「え?どうして?」
「余りに安すぎます」
1杯=280円
「値段じゃないでしょ」
僕は言った。
「こないだのエレベータの事、僕にとってもお礼をしてもらうに値しないって思ってます。でも、ゆうさんにとってはお礼をしたいって思うほど、嬉しかったって事でしょ?この牛丼も一緒です。僕にとっては、とっても嬉しい事なんです。これ、世間では価値観っていうんでしょ?自分にとって、ではなくて、相手にとってどんな価値があるか、そこが大切なんですよね?お互い、そこを大切にできたら、価値観の違いって生まれないと思うんだけどな」
僕の顔をまじまじと見ていたゆうさんは、僕が話し終わるとストンと視線を落としてしまった。
牛丼が運ばれてくる。
「いただきます!」
牛丼をかきこむ。
「うめぇ!これが食べたかったの!」
落ちていたゆうさんの視線が僕に戻ってくる。
何か、信じられないものでも見るような顔。
「どうかしたの?」
僕の問いかけに、ハッと我に返る。
「いえ、なんでも・・・」
ゆうさんは、気まずそうに視線をそらした。
