妄想恋愛シミュレーション -108ページ目

FRATELLI 第1章-1

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第1章-1



(尋弥)


月に一度、この編集室を訪れる。


女性月刊誌【FEBR】に連載をもらってから、もう半年になるかな。


【尋弥の尋問ROOM】←連載のタイトル。


尋弥の尋と尋問の尋をかけたんだろうけど、どうよって気もする。


色んな人と対談する。


それを記事にしてもらう。


俺の感想なんかも入れてもらうし、もちろんスチルも載る。


今月は皮膚科の女医さん。


やっぱり女の人は誰でも、シワとかシミとか毛穴とか気になるでしょ。


それを男の俺が、男の視線から気になる事を探ってくってわけ。


これでいいのか?って思う事もあるけど、


お前じゃ駄目だって言われるまでは、俺なりのやり方でキチンとこなせばいいと思ってる。


「お疲れ」


対談した先生を見送った後、編集長の風間さんが肩をポンとたたいた。


「お疲れ様です」


「尋弥の連載、すごい人気だよ。売り上げもあがってる。ありがとうな」


「いや、俺のせいで売上上がってるわけじゃないっしょ」


「絶対、お前のおかげだって!やっぱり女性はイケメンが好きなんだなぁ」


自分じゃわかんね。


イケメンがいいなら、他にもっといるだろ。


そう、近場でいえば、間違いなく奨弥の方が見かけがいい。


「そもそも、なんで俺だったんですか?」


風間さんがニヤリと笑う。


「エロそうだからだろ?」


「はぁ?」


「お前は5人の中で一番エロかっこいい。【FEBR】の読者層は30~40代。


この年代はカッコいいだけじゃ駄目なんだ。軽くエロっぽさもないとな」


「はぁ。。。」


軽くエロそうに見えるのかよ、俺。


ちょっと反論しておこうと風間さんを見ると、


風間さんはガラスの向こうの編集室にヒラヒラと手を振っていた。


風間さんの視線の先を追って、俺は思わず目を凝らした。


長い黒髪の女が、風間さんのデスクの横に立っていた。


それがなんだか不気味なんだ。


大きなアーティストバッグを抱えて、口元まで隠している。


その上、うつむき加減の顔は、長い前髪で殆ど表情が見えない。


どこか怯えているようで、手を振る風間さんから、そっと顔をそむけた。


「誰っすか?」


「イラストレーターのゆうだよ、ほら、そこの絵」


風間さんの指差した壁の絵を見て、俺は「ああ」と頷いた。


テレビのCMでも良く目にする優しいタッチのイラスト。


人気のイラストレーターだ。


それにしても・・・なんだろ、この不気味さは。


とてもこんな癒し系のイラストを描く人には見えなかった。


「紹介するよ、尋弥もおいで」




風間さんと一緒に彼女の前に立つ。


彼女は露骨に俺たちから視線をそむけ、バッグの中から大きな茶封筒を取り出し、風間さんに突き出した。


「おお、サンキュ。変わりはないか?お、さすがだな。急がせたのに完璧だ」


風間さんは茶封筒を覗いて、満足げに頷いた。


彼女はその言葉を聞くと、背中を丸めて下を向いたまま、俺たちの前から立ち去ろうとした。


「待てよ、ゆう、紹介しとくよ、フラッテリの尋弥クン。こちらはイラストレーターのゆう」


「宜しくお願いします」


俺は頭を下げた。


けど、ゆうさんはかすかに頭を動かしただけで、相変わらず表情も見えず、声も聞こえなかった。


「一緒に昼、どう?」


風間さんはゆうさんに声を掛けた。


軽く首を横に振り、ゆうさんは俺たちの前からそっと立ち去った。


ガラスドアの向こうに小さくなってくゆうさんの背中を、俺たちは暫く見送った。


「変わった人です・・・ね?」


風間さんはちょっと笑った。


「俺の奥さんの大親友なんだよ。でもって、俺の元・大親友の元・奥さん。意味分かる?」


軽く頭を整理して、はい、と言った。


「俺の元・大親友が、ゆうをあんなにしてしまったんだよ。人間不信、っていうのか。対人恐怖症っていうのか」


風間さんは、ゆうさんが消えていった方向をまだ見つめていた。


「あれでも、家から出れるようになっただけマシになってきたってことなんだ。


ホントはイラスト、取りに行ってもいいんだけどさ、なるべくあいつを外に出させようと思ってさ」


頷いて、風間さんと同じように彼女の去った方向を望んだ。


「もし嫌じゃなかったら、見かけた時に声かけてやってくれや。返事はしないと思うけどな」


風間さんは、あはははと笑った。


どうってことないみたいに。



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