FRATELLI 第3章ー1
第3章ー1
(和弥)
俺たち5人が曜日ごとにパーソナリティを担当しているラジオ局に来るお陰で、ほぼ毎週、このホテルの32階スカイラウンジでランチを食べる事が出来る。
って言ってもフレンチじゃない。
いや、フレンチの一種か?
俺の大好物、ハンバーグ。
ここで仕込んだフォンドボーを使ったデミグラスソース。
これが半生状態のビーフハンバーグに絡まって、めちゃくちゃ旨いの。
パンとサラダとスープとコーヒーがついて3000円。
ちょと高いけど、週1回の贅沢。
スカイラウンジだからね、もちろん眺望もいい。
東京湾が見渡せて、眼下にはショッピングモールやアミューズメントパークや映画館、それにレストランモールなどを備えたレジャーエリアが広がる。
仕事以外で来た事はないけどね。
彼女とか出来たら来てみたい。
なんて嘘。
多分、彼女は一生作らない、っつうか出来ない。
一人でいい。
コーヒーが運ばれてくる。
たいていいつもこの人。
誰よりも接客が上手い。
歩き方も、話し方も、笑顔も。
全て接客業のノウハウを固めたよう。
決してミスもない。
運んできたコーヒーを置く時、コーヒーも揺れず、全く音もさせないのはこの人だけだ。
ソーサーに乗せた銀のスプーンさえ、カチャリとも言わない。
女性、男性問わず、仕事に完璧な人は好きだし、尊敬する。
俺もそうありたいと思っている。
「お待たせいたしました」
「あれ?」
僕は思わず首をひねった。
「コーヒー変わった?」
彼女は口元を緩ませた。
「さすがですね、お客様。今週より、春のブレンドに変わりました。先週のまでのものよりも、少し酸味が利いたコーヒーとなっております」
「やっぱり」
「ではごゆっくりとお過ごしくださいませ」
彼女は会釈をして去って行った。
いつもよりも香りが甘い。
味は・・・確かに酸味が増したかな?
俺って鼻が利くらしい。
コーヒーを飲みを終えて、席を立つ。
他のテーブルに食事を運び終えた彼女と目が合う。
キチンと計られたような角度の会釈、30度。
俺はそれには答えず、横を通り過ぎた。