妄想恋愛シミュレーション -105ページ目

FRATELLI 第4章ー1

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第4章ー1



(智弥)


月に一度、17日。


どんな仕事が入っていても、必ずこの日だけは、あの場所に行く。


12歳の少女でも抱える事が出来る位の、コンパクトな花束を持って。


ここには都内よりも早く冬が来る。


先月来た時にはもう雪が舞っていた。


そして、今日。


美しく雪が積もっている。


木々はすっかり色を落とし、グレーの空に寒々しく雪枝をからませていた。


電車を乗り継ぎ、田舎の無人駅で降りる。


そこから1日に数本しかないバスに乗る。


バスを降りてから、車では進む事が出来ない細い道を暫く上ると、その橋がある。


ゴウゴウと岩を滑る川の音が、僕の胸を締め付ける。


怖くて、冷たくて、寂しくて、悲しかっただろう。


僕は坂道を登りながら、鈍色の空に向かって呟いた。


「ごめんな、亜弥」


橋が見えた。


車一台通るのがやっとの、細く冷たい石橋だ。

あの橋の中央から、亜弥子は一人で飛び降りた。


きっと泣いていたんだろうな。

泣きながら飛び降りたんだろうな。


橋の全体が見えるところまできて、僕は足を止めた。


誰か居る。


ここで人と会う事は滅多にない。


でも今日はそこに人が立っていた。

橋の中央に。


ずっと下に暴れる川の流れを見下ろしている。


女の人だった。


その人の足元を見て、僕は息をのんだ。


靴が揃えられている。


まさか!


僕は思わず声を出していた。


「あの!」


ビクッとして、女性が僕を見た。


そして慌てて靴を履くと、僕とは反対の方向へと走り去ってしまった。


僕はヨロヨロとその場にしゃがみこんだ。


何もしていないのに、僕の息が上がっていた。




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