妄想恋愛シミュレーション -101ページ目

FRATELLI 第3章ー2

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第3章-2



(和弥)

ラジオはウィークディの午後3時~4時の生放送。


俺の担当は火曜日。


湾を望むスタジオからお送りする。


火曜日は周辺のショップの情報を、店員に来てもらってリスナーにお知らせするコーナーがある。


あとは俺の好みで音楽を流し、リスナーからの質問や要望に応え、好き勝手なことをしゃぺる。


あっと言う間に1時間なんて過ぎてしまう。


それで今日の仕事は終わり。


マネージャーが時間になると迎えに来て、その車でマンションまで帰る。


ドラマの仕事も入っていたけど、クランクインまで後1カ月もある。


ちょうど新作のゲームをゲットした所だし、早く帰ってテレビの前に座りたい。


ラジオ局のちっちゃな楽屋でPSPで遊びながら、マネージャーの連絡を待っていると、ポケットの中の携帯が振動した。


「もしもし」


「あ、和?」


マネージャーの加藤さんからだ。


「奨の取材がもう上がるから、奨を拾ってからそっちに向かう。悪いけど1時間位待ってて」


「えー1時間も?」


「どうせ、ゲームしてんだろ?じゃ、また連絡する」


加藤さんは俺の言葉を遮って電話を切った。


「くそっ」


奨弥を待つのは全然苦じゃない。


でもあの言い方はないだろ、どうせゲームしてんだろ?って。


ゲーム与えとけば大人しくしてるだろうって思ってるのかよ、子供じゃねーぞ。


俺はPSPや、テーブルの上に広げてた私物をワンショルダーに放り込んで楽屋を後にした。


局を出て、ブラブラと周辺を歩く。


潮風の湿った香りが全身を包んでく。


夕方の空の色。


海に沿って整備された広い遊歩道。


笑い転げながら歩く女子高生。


心地よい足音を残してくジョギングの老人。


携帯でビジネストークするキャリアウーマン。


大きすぎる独り言が止まらない、病んだ中年男。


面白いな。


色んな人がいる。


考えてみたら、こうして外を当てもなく歩くのなんて、どのくらいぶりだろう。


いつもマンションの下まで車が来て、仕事場まで送られて、またそこから次の仕事場に運ばれて、最後の仕事が終わるとマンションの入り口で降ろされる。


だからたまにはいいよな。


こういうのも。


目深にニット帽を被れば全然バレないし。


なんだか、スゲー楽しくなってきた。


しばらく歩くと広い公園に差し掛かった。


芝生が広がり、誰もが自由に座っている。


その先には小さな砂浜もあり、さすがに海に入ってる人は居なかったけど、夏には水着姿も見られるんだろう。


海にせり出したデッキもある。


デッキとはいっても木の手すりが付いていて、簡単に海に落ちる事はなさそうだ。


そのデッキの先端に女性が立っていた。

後姿だったけど、その髪型には見覚えがあった。


いわゆる、フレンチショートといわれるスタイルだ。


すぐに分かった。


ホテルのスカイラウンジの、あの人。


そっと横に立つ。


ハッと上げた顔は、やっぱり彼女だった。


「ども」


驚いた顔から、普段の接客の顔になり、30度の会釈。


「仕事上がり?」


「ええ。お客様は?」


お客様って。俺は笑った。


「ここでは客じゃないし」


「でも、友達でもありませんし。私にとっては何処でお会いしても【お客様】に変わりはないんです」


「固いなぁ。知り合いって事でいいじゃん」


「知り合い・・・」


「うん。和弥でいいよ」


「和弥・・・さん」


俺がまた笑うと、彼女も笑った。


笑顔が少し解れた。


「君は?」


「西谷ゆうです」


「ゆう」


「はい」


俺は手すりに両腕を乗せた。


空の色がまた変わり、海がキラキラと淡い輝きを放っていた。


昼間にラウンジから見下ろした目の奥に残像を残すような輝きとは、全く違う。


こんな風に海を眺める事も新鮮だ。


「初めて来た。こんな公園がある事さえ知らなかったよ」


「東京じゃないみたいですよね」


「ほんと。なんか好きになったよ、ここ」


「私も好きです。早番の上がりの時はつい寄っちゃいます」


そう言って、ずっと向こうの空を眺めるゆうの横顔を、盗み見る。


毛先を軽く遊ばせたショートヘアが包み込むような小さな顔。


そこから伸びる細い首。


制服を着ている時には気付かなかった、華奢な肩。


こんなに小さかったかな。


突然、彼女が僕を見上げた。


「私、そろそろ行きます」


「あ、ああ」


「また、お食事にいらしてください。・・・失礼します」


ニコッと笑って軽く頭を下げた彼女は、スタスタと去って行った。


最後の会釈は接客用じゃなかったな。


俺はそんな事を考えながら彼女の背中を見送った。




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