不倫の賞味期限 ≪猫と一緒にぽんちっち≫ -64ページ目

佐藤さん、来てしまいました

ぽん「かすみちゃん、佐藤さん、今夜は来られないって。

頑張って仕事を早く終わらせて家に帰ろうね」

かすみ「えーー

佐藤さん、来ないんですか。

ぽんさん、残念ですね・・・」

火事場の馬鹿力ならぬ不倫の馬鹿力が湧き出た私は、かすみちゃんにさえ嘘をついて、ついに佐藤さんと職場を離れた場所で会うことを決めました。

かすみちゃん、嘘ついてごめんね・・・

お互いあまり土地勘のない駅のホームで、佐藤さんはじっと前を見つめて座っていました。

ぽん「佐藤さん、来てしまいました。

もうね、夢中で電車に乗っちゃいましたよ」

佐藤さんは私の顔を見ると、

ホッとしたような、でも、なんだか困ったような、

あ、ついに来た・・・というような顔をしました。

ぽん「気がついたら、私、事務所の鍵を握りしめていました。

本当は受付のキーボックスの中に入れてこないといけないのに・・・」

佐藤「え・・・大丈夫ですか?」

ぽん「はい。大丈夫ですよ。

なんとかなると思います。

命に別条はないですよ」

佐藤「そうですか?」

ぽん「そうですよ」

これくらいで死んでたまるか。

佐藤「ぽんさんが来る前に、

この辺をずっと歩いてみたんですが、

あまりいいお店がないんです・・・

駅前にファーストフードの店があって、

あとは少し歩いたところに居酒屋が数軒あるくらいで・・・

どうしましょうか・・・」

佐藤さん、こんな寒い中、周辺のお店をリサーチしてくれたんだ・・・

ぽん「どこでもいいですよ。

でも、マックというのはちょっと・・・かもですね。

居酒屋に行きましょうか」

佐藤「はい」

ぽん「こうして二人で並んで歩いていると、

なんだか不思議な感じがしますね・・・

こんなこと、絶対にないと思っていましたから」

佐藤「はい。

そうですよね・・・

ぽんさんの職場以外の場所で、こうして一緒にいることが、

なんだか信じられません・・・」

ぽん「私もですよ。

まさか、こうして職場以外の場所で会うなんて考えてもいませんでした。


だけど、電話であんなことを言われたら、何かが決壊してしまいましたよ・・・」



とにかく寒い夜でした。

もしも季節が夏だったら、違った展開になったかもしれない夜でした。

でも、その時の二人は、その後の展開をまだ意識することなく居酒屋に入って

「まずはビールですよね」と乾杯をして、いろんな話をしました。

切ない嘘

ぽん「どういうことですか?

どうして私にそんな嘘をついたんですか?

そうまでして私とは会いたくなかったということですか?」

佐藤「いいえ・・・違います。

会いたいですよ・・・」

ぽん「どういうことですか?

私には意味がわかりません」

佐藤「・・・とても会いたいですよ。

会いたくてたまらないです。

でも、またお会いしたら、

もっとぽんさんのことが好きになってしまうと思いました。

これ以上好きになってしまったら、

どうしていいのかわかりません・・・」

ぽん「佐藤さん・・・」

佐藤「だから、昨日はあんな嘘のメールを送ってしまいました。

だけど、ぽんさんは何の疑いもなく、

同僚との飲み会だと信じてくれましたよね。

どんな理由があれ、嘘をつくのは最低です。

私は最低な人間かもしれません・・・」

ぽん「・・・・・・」

佐藤「でも、今日の電話で、

ぽんさんのところに伺わなかったら、

もう連絡をしないというぽんさんの言葉を聞いて、

どうしていいのかわからなくなりました・・・

会うのが怖いんです。

これ以上ぽんさんのことが好きになるのが怖いんです。

こんな気持ちになったのは初めてです。


もう、どうしていいのかわからないんです・・・」

こんなに切ない嘘をつかれたのは生まれて初めてでした。

ぽん「佐藤さん、私、どんな佐藤さんでも好きですって言いましたよね?

最低でも、軟弱でも、かっこ悪くてもいいんです。

私は、今のそのままの佐藤さんが好きなんですよ」

佐藤「お願いです。

もうそんなことを言わないでください。

どうしていいのかわからなくなって、

涙が出てきてしまいます・・・

あ・・・鼻水も出てきました・・・」

ぽん「佐藤さん、会いましょう」

佐藤「え・・・」

ぽん「今、どちらですか?

私がこれから会いに行きます」

どうして嘘を?

その日も、夕方からはかすみちゃんと二人だけの勤務でした。

ぽん「ねぇ、かすみちゃん、今夜もまた佐藤さんが来たら、へんかな?」

かすみ「いいえ、別に。

佐藤さん、来るんですか?」

ぽん「今日は職場の飲み会があるんですって。

だから、来られるかどうかはわかんないって。

私は来てくださいって言ったんだけどね。

だって、もう会えなくなるんだから・・・

絶対に会いたいわよ・・・」

かすみ「だったら来るんじゃないですか?」

ぽん「さぁ・・・どうなんだろ・・・

いまいちはっきりしない返事だったから、わかんないな・・・

来ないかもしれないな・・・

佐藤さんにはね、今夜来なかったら、もう私からは連絡しませんって言ってあるの。

すごい好きなのに、どうしてあんなこと言っちゃったんだろうな・・・

でも、私からはもう連絡できないように、携帯の電話帳登録消すつもり。

いろんな履歴も全部消さなきゃね・・・」

私はこんなに会いたいのに・・・


必ず行きますという言葉が聞きたかったのに・・・



私は、携帯電話の電話帳から佐藤さんの名前を消しました。

メールの送受信、電話の着信発信、すべて消していきました。


履歴を消している時、佐藤さんから電話が入りました。

ぽん「かすみちゃん、ごめん!

ちょっと席を外させてね。

会議室に行ってきます」

佐藤さん、もしかしたら、これから来てくれるのかな?という期待をしながら電話に出ました。


ぽん「ぽんです」


佐藤「佐藤です。

ぽんさん、実は・・・」


ぽん「はい」


佐藤「ぽんさんに謝らないといけないことがあります」


ぽん「今夜は来られないってことですか?」

佐藤「いいえ・・・」


ぽん「それじゃ、来ていただけるんですか?」


佐藤「いいえ・・・」


ぽん「・・・・・・」


佐藤「許してもらえないかもしれませんが、

ぽんさんに嘘をついていました・・・」

ぽん「えっ?」

佐藤「今夜、職場の同僚と飲み会というのは嘘なんです」

ぽん「え?

それじゃ・・・

本当は、ご家族との大切な約束があるとかですか?」

佐藤「・・・いいえ」

ぽん「それじゃ、どうして?

どうして嘘なんかついたんですか?」

会いたいから来てください

次の出勤日が近づいてきました。


また会いたい。


何があっても会いたい。


絶対に会いたい。


私の思いは募っていきました。



出勤日の前日、佐藤さんにメールをしました。



こんにちは、ぽんです。

明日は私の出勤日です。

佐藤さん、お仕事が終わったら事務所に来てくださいませんか?

お会いしたいです。

良いお返事を期待しております。

それではまた。




佐藤です。

明日は職場の同僚たちとの飲み会が入っています。

自分の都合で日にちを変えてもらったので、欠席するわけにはいきません。

申し訳ありませんが、明日伺うことはできません。

では、また。



そうですか。

先約が入っていたんですね。

職場内のお付き合いも大切ですものね。

あまり無理なことは言えませんね・・・

とても残念ですが、了解いたしました。

それではまた。



メールで了解したとは言ったものの、私は諦め切れずに翌日電話をしました。



ぽん「今夜の飲み会は何時ぐらいに終わるんですか?

私、待ちますよ。

佐藤さんが来てくれるまで」



佐藤「何時に終わるのかはっきりわかりませんので、

待っていただくと言われても・・・」



ぽん「普通二時間ぐらいで中締めしますよね。

何時から始まるんですか?

始まる時間がわかれば、終わる時間もだいたい見当がつきますよね。

7時から始まったとしたら9時ぐらいでしょうか?」



佐藤「いや、まだ、はっきりとは・・・」



ぽん「待ちますよ。

何時まででも。

だって、来週私が仕事を辞めたら、

もう本当に会えなくなってしまうんですよ。

限られたチャンスを逃したくありません。

どんなに遅くなってもかまいませんから来てください」



佐藤「・・・・・・」



ぽん「私、待ってますから」



佐藤「・・・・・・」



ぽん「今夜来てくれなかったら、

もう私からは一切連絡しません」



佐藤「え・・・

そんな・・・

ぽんさん、困らせないでください・・・」



ぽん「お待ちしていますからね。


それでは失礼ます」





何よ。


困ることないじゃない。


来てくれたらいいんだから。


佐藤さんたら、何をそんなに困るわけ?




その時はまだ、私は佐藤さんの真意を知らずに、必ず来てくれると信じていました。

かすみちゃんとのランチその2

かすみちゃんに佐藤さんのことを打ち明けてから、

私は今までなら話せなかったことも、

かすみちゃんには言えるようになっていました。


ぽん「うちは数年間、主人とは没交渉だったのに、最近復活しちゃった・・・

だってさぁ、私が今までみたいに拒んだら、絶対主人に佐藤さんのこと言われるじゃない。
佐藤さんのことが好きだから拒むのか?って。
佐藤さんと会って話をつけるぞって。
もうね、お腹をころんと出して『服従します』・・・だわよ」



かすみ「ぽんさん、それって負け犬のポーズですよ」



ぽん「え?
そう?
猫だったら超寛ぎのポーズなんだけどな・・・
でも、私、寛いでお腹ころんしてるわけじゃないから

やっぱり負け犬のポーズか・・・

あーあ・・・

佐藤さんのことがなかったら、ずっと拒否権を発動してたのになぁ・・・

主人たら、今までにないくらい躍起になってるわよ。

私が拒まないのをいいことに・・・」



かすみ「佐藤さんのことがなかったら、没交渉歴が続いていたかもしれないんですね?

なんだかご主人、漁夫の利って感じですね」



ぽん「え・・・

こんなところでそんな諺聞くとは思わなかったわ・・・」



かすみ「もしくはご主人、不幸中の幸い

でも、ご主人、佐藤さんと会うって言わないんですよね?」



ぽん「うん。今のところ、負け犬のポーズが功を奏してる」



かすみ「じゃあ、ぽんさんが不幸中の幸いなんですね」




かすみちゃんにはなんでも話せたのに・・・


私は、かすみちゃんにも言えない夜の扉を、もうすぐ開けようとしていました・・・

かすみちゃんとのランチその1

翌日、かすみちゃんと一緒にランチをしました。

ぽん「昨日はなんだか気を遣わせてしまって・・・

ごめんね

かすみ「いいえ。私はあの時間に帰って正解でした。

私が帰ったら、ちょうど主人が帰ってきたんですよ」

ぽん「そうだったの?

かすみちゃんが帰った後、佐藤さんと二人で楽しく飲ませていただきました。

ありがとう」

かすみ「そうですか。

よかったです。

来てすぐに帰るって言ったくせして、

キザなこと言いながら佐藤さんが事務所に戻ってきたときはグーで殴りたかったですけどね。

ぽんさん、なんて言って引きとめたんですか?」

ぽん「もう会えなくなるのにいいんですか?って。

私は一緒にいたいですよって」

かすみ「そうですか。

佐藤さん、幸せ者ですよ。

ぽんさんにこんなに思ってもらえて。

佐藤さんがこんなに誰かに思われるなんて、

彼のこの後の人生で有り得ないと思いますよ。

だけど、どうしてぽんさん、佐藤さんなんかに?って思いますよ。

ぽんさんて、全く外見を重視しないんですか?

佐藤さんにぽんさんはもったいないって正直思っちゃいます。

ぽんさんは女の私から見てもすごくきれいなのに・・・」

ぽん「そんなことないわよ。

佐藤さんは煮え切らなくイラッとするところもあるけど、でも、本当にいい人よ。

人間としての資質がとてもきれいな人だと思う。

性格は私とは正反対だけど・・・」

かすみ「人って自分にないものを求めるもんなんですかね?

でも、佐藤さんがいい人だって言うのはわかります。

仕事で何度か接してそれは感じました。

なんて言うのかな・・・

人を見下したり差別したりしない人ですよね」

ぽん「え、そう?

そういう観点で見たことなかったな・・・」

かすみ「私、童顔だし、背も低いせいか、

なんだか不当な扱いを受けることが多いんですよ。

クレームとか言っても軽く見られてしまうんです。

役所なんかに行ったらてき面ですよ。


だから、傲慢だったり、人を見下す人のことは敏感に察知できるんです。

佐藤さんは、誰に対しても平等ですよね。

人を見て態度を変えないというか・・・」


ぽん「うん。確かにそうかも。

佐藤さんは誰にでも誠実に対応するよね」

かすみ「さすがジジイキラーですよ。

ジジイと一緒にぽんさんのことまで落とすなんて・・・

侮れませんね」




かすみちゃんは、佐藤さんに対してけっこう辛辣なことも言いますが、

その頃も今も、私にとって大きな存在です。

初めてのキス

電気を消した事務所で言いました。




ぽん「佐藤さんはどうしたいですか?」




佐藤「・・・・・・」




ぽん「私は佐藤さんのしたいことをしたいです。

佐藤さんが望むことならどんなことでもしたいです」




佐藤「いつか電話でもお話しましたが、

私は、ぽんさんと二人でのんびりと一緒に時間が過ごせれば、

それで・・・」


ぽん「それでいいんですか?

今、私は目の前にいるんですよ」




佐藤「ぽんさん、理性を失わせるようなことを言わないでください・・・」




ぽん「理性があったら、私、既婚の佐藤さんを好きになんかならなかったです。

好きになってしまったんだから、しょうがないじゃありませんか。


佐藤さんも、私のこと、好きでしょう?」




佐藤「はい。

好きです・・・」




ぽん「もう会えなくなるんですよ」




本当にそう思っていました。


これが最後・・・という切ない思いと、お酒の酔いがブレンドされて、その日の私は自分の欲望にとても忠実でした。



私は、自分の髪の毛をほどいて佐藤さんの首に腕を回しました。



ぽん「すごく好きです」



背延びをして、佐藤さんにキスをしました。




キスの後、困惑気味の佐藤さんのスーツの上着を脱がせて、ネクタイを外しました。



佐藤「な、何をするんですか?」



ぽん「動かないでください。

動いたらYシャツのボタンが外せません」



酔っている手で佐藤さんのYシャツのボタンを外す私は、何かの実験に臨むような真剣な顔をしていたと思います。




ぽん「佐藤さんの胸に、たくさんキスマークをつけてもいいですか?」




そう聞いた時には、すでにもうたくさんキスマークをつけていました。




ぽん「だって、奥さんとはお部屋が別なんでしょう?」




佐藤「それはそうですけど・・・


でも、子どもと一緒にお風呂に入るので、ちょっとそれは困ります・・・」




ぽん「えっ・・・


それを早く言ってくださいよ。


もういっぱいつけちゃいました・・・」




佐藤さんが終電で帰るまで、何度もキスを繰り返しました。



最初はためらいがちに私を抱きしめていた佐藤さんも、最後は観念したのか、シチュエーションに沿った情熱的なキスをしてくれました。


お互い、もうこれが最後・・・

次はないと思っていました。



今思えば、これが最後じゃなかったわけですが・・・



佐藤さんと私、なんだか、閉店セールと銘打っていつまでも特売を続けるお店のようだったな・・・

事務所での会話その2

佐藤「ご主人は、その後何かおっしゃっていますか?」



ぽん「いいえ。

今のところ大丈夫です。


でもね、毎日祈るような気持ちですよ。

夫が佐藤さんと会いたいなんて言い出しませんように・・・って」




佐藤「そうですか・・・」




ぽん「できるだけ夫の機嫌を損ねないように努力しています」




佐藤「努力ですか?」




ぽん「はい。

夫の前では佐藤さんのことを忘れたふりをしています。

佐藤さんのことがわかってから、夫は・・・・・・


とにかく、夫の前では従順な妻を演じています。

佐藤さんにご迷惑がかからないように」




佐藤「・・・・・・」




ぽん「今回の件で、我が家の夫婦の力関係が逆転してしまいました。

私に拒否権がなくなりました。

だって・・・

拒んだら、佐藤さんのことが好きだからできないの?って言われそうで・・・」




佐藤「そうですか・・・

なんか、辛いですね。

そういうことを伺うと」





ぽん「会議室で佐藤さんと抱き合わなければよかったと思います」




佐藤「・・・・・・」




ぽん「だって、一度でも触れてしまったら、

もっと触れたいって思ってしまいます。


佐藤さんもそう思いませんか?」




佐藤「否定はできません。


でも・・・


それはいけないことですよね?」




ぽん「いけないことなのはわかっています。


でも・・・」




佐藤「そろそろ帰ります」





ぽん「待って、佐藤さん。


まだコートは着ないでください。


電気を消していいですか?」




佐藤さんの返事を待たずに、私は事務所の電気を消しました。

事務所での会話その1

佐藤「ぽんさんと自分は、性格も行動パターンも全く違いますよね」



ぽん「そうかもしれませんね。

佐藤さんは、とても真面目で慎重派で、石橋を叩いて渡るタイプですよね」




佐藤「はい。

私は、小心者で心配症です・・・

ぽんさんは、とても大らかで行動力がありますよね」




ぽん「そうですね。

でも、裏を返せば私は慎重さに欠きますし、大雑把です。

考える前に行動してしまいます。

どんなことでも、どうにかなるんじゃないかなって思うんですよね」




佐藤「羨ましいくらい楽観的ですよね」




ぽん「はい。

佐藤さんと私の性格、足して割ったらちょうどいいのかもしれませんね。

佐藤さんのとても真面目で誠実なところ、好きですよ。

でも、私は、どんな佐藤さんでも好きですよ。

かっこ良くてもかっこ悪くても・・・」



佐藤「どうしてそこまで好きだと言っていただけるのかわかりません。

共通の趣味や経験があるわけではないのに・・・

どうして、こんなうだつの上がらない中年サラリーマンを・・・」




ぽん「そんな・・・

佐藤さん、ご自分のことをそんなふうにおっしゃらないでください。

そんなふうに言ったら奥さんにも失礼ですよ。

奥さんは、佐藤さんのことを、この人だ!って思って結婚したんですから」




佐藤「そうですか?」




ぽん「そうですよ」




佐藤「こうしてまたぽんさんと二人だけでお話できるなんて、思ってもいませんでした。

もう電話もメールもしてはいけないと自分の中でけじめをつけたつもりだったんですけどね・・・

ぽんさんは、私が思っていた以上に・・・」





ぽん「強引でしたか?」





佐藤「そうですね。

ぽんさんがこんなに真っすぐに気持ちをぶつけてくる人だとは思っていませんでした」




ぽん「手に負えませんか?」




佐藤「いや、そういうわけではないんですが・・・

自分とはあらゆる面で正反対ですよ。

正反対だと思うんですが、こうしてお話していると、今まで以上に惹かれていきそうです・・・

ぽんさんが仕事を辞めることになってしまったことにとても責任を感じているのに・・・

いいんでしょうか・・・」




ぽん「そうですね。

私も、仕事を辞めなければいけなくなったことは、とても辛いですね」




佐藤「私が自分の思いを打ち明けずにいたら、ぽんさんは仕事を続けられたんですよね・・・」




ぽん「そうかもしれませんね・・・」



佐藤「これから仕事でお会いできなくなることを思うと、気持ちを打ち明けるべきではなかったのかなと思います」




ぽん「そうですね・・・


でも、私はこうなってしまったことを後悔はしていません。

だって、好きになってしまったんですもの。

しょうがないですよ」




佐藤「そうですか?」



ぽん「そうですよ」

一緒に飲みましょう

佐藤「ぽんさんの気持ちを、もっとちゃんと考えるべきでしたね。

顔だけ出せばそれでいいと軽く思っていたわけではないんですが・・・


ここ数日仕事で帰りが遅くなってしまったので、妻に今朝夕食のことを聞かれたときに、つい今日は家で食べると言ってしまったんです。


家には、これから遅くなると電話を入れます。


ぽんさん、先に事務所に戻っていただいていいですか?

かみさんとの会話を聞かれるのは、なんだか恥ずかしいです・・・」




ぽん「わかりました。先に戻ります」




どんよりと曇っていた私の心が、ぱぁーっと晴れました。




ぽん「かすみちゃん、佐藤さん、帰らないって。

仕事が終わったら一緒に飲みましょうね!」



かすみ「そうですか。

ぽんさん、よかったですね」




仕事を急ピッチで進めているところに佐藤さんが来ました。




佐藤「ぽんさんの魅力に負けて戻ってきてしまいました」




かすみちゃんが私に小声で「佐藤さんてすっごいキザなことをさらーっと言うんですね。ぶっとばしたいです」と言いました。



仕事を終えたあと、かすみちゃんが佐藤さんをぶっとばすこともなく、三人で楽しく飲みました。



9時前にかすみちゃんが帰りました。




初めて事務所で佐藤さんと二人きりになりました。




ぽん「かすみちゃん、可愛いですよね。

私、かすみちゃんと一番気が合うんですよ。

私の場合、気が合う合わないの基準は笑いのセンスが同じかどうかなんですけど、かすみちゃんとはその点でもすごく合うんです。

かすみちゃんと私、怒りのツボは違いますけどね。


この間はかすみちゃんと愛の流刑地の話で盛り上がりました」




佐藤「ぽんさん、映画を観に行かれたんですよね」




ぽん「はい。


主演の寺島しのぶは、体当たりで頑張っているけど、ビジュアル的にぶち壊し・・・って感じでした。

ごついんですよ。

何から何まで。

ごっつい顔したお前が言うなーーっ!って感じで、最後までヒロインに感情移入できませんでした。


ヒロインの冬香が、眩しさを遮るために手をかざした仕草を見て、初めて会った作家が『もしや、その手の動きはおわら節・・・』って恋に落ちるのもねぇ・・・

渡辺純一大先生ワールドにはついていけませんでした。


その話をかすみちゃんにしたら、秋田出身のぽんさんが手をかざしたら、『もしや、その手の動きはナマハゲの・・・』ってことですかね?って。

二人で爆笑してしまって、しばらく仕事になりませんでした。


そう言えば、佐藤さんと初めてお会いしたときも、私、笑ってしまって・・・」




佐藤「私は、ぽんさんと初めて会ったときのことを覚えていないんですよね・・・」



ぽん「私ははっきり覚えていますよ」




二人きりになった事務所でお酒を飲みながら、二人が出会った頃の話やお互いの気持ちの変化など、いろんな話をしました。