不倫の賞味期限 ≪猫と一緒にぽんちっち≫ -67ページ目
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佐藤さんのあだ名は・・・

愚直とも言えるほど真面目で誠実な佐藤さんの人柄は、次第に地域の人たちの心も動かしていきました。


「役所の人間の言うことなんて信用しないから」と言っていた、地域一番の辛口のご意見番のBさんが、1年後には佐藤さんの一番の味方になっていました。


先日、Bさんとお話する機会がありました。



ぽん「Bさんから見て、佐藤さんはどうですか?」


Bさん「彼はいい人だよ。

私も町会長として、役所のいろんな人間を20年近く見てきて、さんざん喧嘩もしたけど、佐藤さんのような人は初めてだね。

こんなに真面目で誠意のある人はいなかったよ。

彼は信用できる」


ぽん「そうですか。

だけど、ちょっと不器用で要領が悪いと思いませんか?」


Bさん「そこがまた佐藤さんのいいところじゃないか。

佐藤さんをいじめる奴は私が許さん!」


ぽん「他の町会長さんも同じことを仰っていました。

佐藤さんをいじめたら許さないって。

佐藤さんて、そんなにいい人ですか?」


Bさん「ああ、いい人だね。私は大好きだよ」


佐藤さんは、私の心を掴む前に、地域の長老たちの心をがっちり掴んでいました。

そんな佐藤さんについたあだ名が「ジジイキラー」


佐藤さんに惹かれていった私の感性も、もしかしたらジジイなんでしょうか?

佐藤さんの気持ち

佐藤「自分の勘違いだったら申し訳ありませんが、私は、ぽんさんが自分のことを応援してくれているように思っていました」



ぽん「そうですね。確かに、私は佐藤さんのことを応援していたかもしれません」



佐藤「それが、自分にとっては、仕事の大きな励みになりました」



ぽん「そうでしたか」



佐藤「はい。気の重くなるような会議の時も、ぽんさんがいたから乗り越えられたように思います」




ぽん「そうだったんですか。

私が佐藤さんにとってそんな存在だったなんて知りませんでした。

でも、そう言っていただけると嬉しいです。
確かに、事業立ち上げの会議は、最初の頃は大変でしたよね。

いきなりBさんに『私は役所の人間の言うことなんて信用しないから』とガツンと言われて暗礁に乗り上げて…

その後の数ヶ月は、見事にグダグダでしたものね」



佐藤「はい。あの頃は、本当にどうなることかと思いました・・・」

二人きりになった時に、佐藤さんは・・・

佐藤さんと、職場の重鎮今日子さん、私の三人で、備品の買い物に行った日も雨でした。

梅雨時だったんですね、今思うと。


今日子さんは、備品の購入が終わった後、用事があるからと言って帰りました。

佐藤さんと私は、二人で事務所や他の部屋に備品を運び入れました。

その日は休みの日だったので、他のスタッフは誰もいませんでした。

私は、佐藤さんのことを「なんだか目が離せない人」だとは思っていましたが、異性として特別に意識している段階ではありませんでした。

なので、二人きりの作業と言っても、格別ときめくわけでもなく、淡々と荷物を運んでいました。

帰り際、佐藤さんが「今日はお休みのところ、買い物にお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。大変嬉しく思います。心よりお礼と感謝を申し上げます」と言いました。

なんて丁寧なお礼を言うんだろう。

つーか、お前は皇族か?


実は、この日、佐藤さんは二人きりになった時に、私を後ろから抱きしめたい衝動に駆られたと、親しくなってから聞きました。



ぽん「えーーーーっ!

そうだったんですか?」


佐藤「・・・はい。

あの日、ぽんさんは髪の毛を下していましたよね。

いつもはきっちりまとめているのに」


ぽん「はい。そう言えばそうでしたね」


佐藤「とてもきれいだと思いました。

それで・・・できることなら後ろから抱きしめたいって思いました。

すいません・・・」


ぽん「別に謝らなくてもいいですよ。

だけど、意外でびっくりです。

私もあの日のことは覚えていますが、まさか佐藤さんがそんな気持ちでいたなんて思いもしませんでした」


佐藤「すいません・・・。

あの頃、すでに私は、ぽんさんのことを素敵な人だと思い始めていたように思います。

いつも優しく接していただいて、ぽんさんの茶目っ気のある明るさにだんだん惹かれていきました。

でも、あくまでも仕事の関係者の一人として接していかなければいけないのだと自分に言い聞かせていました。

だけど、初めて会議室で二人きりになった時、ぽんさんのことを抱きしめたいと思いました。

あの日のぽんさん、本当にきれいでしたよ。

すいません・・・」



ぽん「そうだったんですか。知りませんでした。

でも、どうしてですか?

どうして私のことを?」


不器用で要領が悪くて真面目な佐藤さん

冷たい雨が降っていた日の夕方、佐藤さんが事務所に顔を出したことがありました。


お茶を淹れようとした私に、佐藤さんは「すいません、今日は地域の方と話し合うために来ました。すぐにここを出ますからお構いなく」と言いました。


ぽん「もしかして、Bさんと待ち合わせですか?

あの方なら、もっと遅い時間にならないと来ませんよ。

佐藤さん、事務所でお茶でも飲んでゆっくりなさったら?」


佐藤「すいません、でも、6時30分には見えると思いますので、もう出ます」



ぽん「まだ6時ちょっと過ぎですよ。

それに、Bさんは7時にならないと来ないですよ」



佐藤「でも・・・すいません、門のところで待ち合わせをしていますので、もう出ます」


ぽん「まだまだ来ませんってば!

それに、外は寒いですってば!」


佐藤「すいません、でも、やっぱり、行きます。

失礼します。すいません・・・」



7時近くになって、私が仕事を終えて帰るとき、佐藤さんはまだ門のところでBさんを待っていました。


なんて要領の悪い人なんだろう。


佐藤さんは、真面目を通り越して、馬鹿なのか?と思いました。


こんな不器用で要領が悪くて真面目な人、初めて見たかも。

んもーーーーっ!


もっと適当にやればいいじゃん!


風邪ひいちゃうわよ。

佐藤さんの馬鹿・・・

佐藤さんから目が離せない

ぽん「佐藤さんと初めてお会いした時、佐藤さんが『すいません』と言った瞬間、私、笑いをこらえきれなくなってしまって・・・

大人になってから、笑ってはいけない場面であんなに笑ったのは初めてです。

本当に申し訳なかったです。

ごめんなさいね」



佐藤「そうだったんですか?

実は、私は、ぽんさんと初めて会った時のことをよく覚えていないんです。

とにかく緊張していて・・・」



佐藤さんは、私に対してだけ緊張していたわけではなくて、とにかく接触するすべての物に緊張していたようでした。

佐藤さんの仕事は、役所が新しく立ち上げた事業を、地域の人たちの理解を得ながら軌道に乗せることでした。

どんな人に会う時も、産まれたての仔馬のようにプルプル震えて緊張する佐藤さんが、果たしてちゃんと仕事をこなせるのだろうか?

私は、いつしか佐藤さんから目が離せなくなっていました。



佐藤さんの口癖は「すいません」

「今度の役所の担当者佐藤さんは、前任のAさんとは真逆のタイプですよ」



去年の4月、職場のスタッフが、佐藤さんの目撃情報第一弾を私に伝えてくれました。


「へーえ。じゃあ、とりあえずは真面目そうな人なのね?」


「真面目なんてもんじゃないですよ!

どうしてそんなに低姿勢なんだ?って感じでやたら腰が低いし、

言葉の前後には必ず『すいません』って言うし。

絶対にオヤジ狩りに遭いそうなタイプですね。

とにかく、ぽんさんも会えばわかりますよ」


「ふうーん。

役所もずいぶん懐が深いわねぇ。

超チャランポランなAさんから、オヤジ狩り被害者要員まで抱えているなんて。


よし、了解!

佐藤さんに会ったら、まず『跳べ!』って言ってみるね。

『オラオラ、小銭出せよ』って」



若い男性スタッフが「オヤジ狩りに遭いそうなタイプ」と称する佐藤さんとはいったいどんな人なのか?

会う前から、私は佐藤さんにものすごく興味を持ちました。

それは、珍獣のような物に対する興味でした。



終わったとは言うものの・・・

年齢や経験を重ねると、人の嗜好は変わるものなんでしょうか?

食べ物や洋服の好みに止まらず、異性の好みまで。



とにかく、私は、以前なら絶対に恋愛対象にならなかったであろう男性と出会って恋に落ちました。



独身者同士の恋愛ならば、成就するかどうかはともかく、結婚という目的地に向かって恋愛が進むことでしょう。

それならば、既婚者同士の恋愛は、いったいどこに向かうのか?

そして、いったいどれくらいの賞味期限なのか?

それが知りたくて、ブログを書いてみようと思い立ちました。



ところが、ブログを開設したときには予想もしていなかった展開になり、私の恋は一応終わった形になりました。

恋愛がうまくいっていた時には、相手にばかりエネルギーを注いでしまい、開設はしたもののずっと放置していたブログですが、相手に受信&着信拒否されてしまった今、はけ口のないエネルギーをブログに注ごうかと決意している次第でございます。



終わったとは言うものの、気持ちの整理がまだまだつきません。

恋の残り火がちゃんと消えて終焉を迎えるのか、それともまた再燃して燃え尽くすのか・・・

草食動物のような佐藤さんと、雑食動物のような私ぽんの不倫の行方はまだわかりません。



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