ぴいなつの頭ん中 -22ページ目

ぴいなつの頭ん中

殻付き。そにっくなーすが言葉を地獄にかけてやる



ねえ、ジョア、ねえ、
初めての外の世界はどう?
人の流れは早すぎて、時に追いつけなくなったりもするね。

ねえ、ジョア
君の持ち主は誰だったんだろう
こんなに甘くて可愛い君を置いて電車を降りてしまうなんて
こんなに甘くて可愛い君を愛したぐらいだから
たぶんとてもかわいらしいひとだったんだろうね
ストローについた噛み跡が愛されて飲み干されたあかしであるかのように君はこちらに自慢げに見せつける

ねえ、ジョア
外の景色は楽しいかい?
自販機で落ちてくるのは怖かったかい?
不思議の国のアリスみたいに、
新しい世界に行くべく選ばれて大きな穴を覗き込んだのだろう?

ねえ、ジョア
このままここにいても駅員さんに捨てられてしまう
わたしといっしょにいかない?
襟を削って、噛み跡だらけのストローの代わりに、きれいな水と小さな白い花を入れてあげる
ねえ、ジョア

ジョアは首をかたむけて、
知らない人には、ついていかないってママと約束しているから。
と、微笑んだ
何もかもが中途半端ならば
最後の人類になれるわけがない
小さな輪の中でクルクル回って
ちょっと面白い人、で終わる

職場内で昔ふった男が
わたしの後継者と結ばれていた
お互いが幸せの中にあり
わたしは二次会にも招かれなかった

生きていく力がこの手にあるうちは
だいたいいつまでが期限だろう
目の黒いうちは許さないと豪語し
白目を作って簡単に許す
白衣から食パンのにおいがして
頭の中の神に祈り
ちぎってそれを口にした

毎日来て同じとこにいるのに全然知らないことがある
毎日見て同じ景色なのに全然知らないひとのうわさが
濁流のように遠い景色へ向かってどんどん流れていく
私の前を通りもしないで、私のことを見もせずに

暗闇を味方にしたならもう悪口言わせない醜さも未熟さもカバーできるよ。

爪を噛む夢をみた。噛んで噛んで真ん中の部分は剥げ落ち、道が出来ていた。真ん中の道を手入れしていると、『そんなになるほど我慢してたんだね』と声をかけられた。

大人数でうちの1階でパーティをしていた。早めに寝に行ったが、朝起きたらV系の人たちはもう目覚めていて、掃除を手伝ったり布団に寝っ転がったりしていた。そこへ行こう(そこから戻ろうと?)と思ってエレベーターで行こうとすると、エレベーターの床がぐにゃぐにゃでこんにゃくみたいになっているので立つので精一杯。小さな男の子を一緒に乗せている。行きたい階は2階なのに、2階はドロドロエリアみたいになっていて決して行かれない。


恋人に、うちの使ってない畳の部屋を見せる。こんなんあるよ!と。本置けるね!居間もこっちにつくってさ!とか言ってる。ほんと広くて、居酒屋の2階お座敷ぶぶん、みたいな、でも誰も使ってなかったから、忘れられていたから、がらんとしている。
息が詰まりそうになる。毎度毎度、古本を買うたびに。
古本屋でくしゃみが出ると、いつも10回くらい連続でくしゃみしてるあの子のことを思い出す。

気付いたんだ、あの子、私が首をふるとくしゃみをするって。
『私アレルギー』なんだ。
他の人と話すときは彼女、くしゃみをしないのに、おどけて笑ってたりするのに、私と話すときは、くしゃみをする。

ーーーー

周回回って、ようやくスタート地点に戻ってきた。それまでは緊張をごまかす笑いと顔の下の部分を隠すしぐさと探るような沈黙がわたしたちを囲んでいた。彼女は私にドア付きの壁を作ってくれていたのに、私は『せんぱい』という表札をつけた分厚い壁を、ドアのない壁をずっと向けていた。嫌いだというわけではないけどパターナリズムが見え隠れする高圧的態度や何かを隠したみたいな笑い方が気に入らなかった。パッと見そうは聞こえづらいような意地悪ばかり言って、彼女の反応を探っていた。

出会った当初はそんなんじゃなかったのに。私はむしろ彼女のことを特別に好きで、私と似た価値観を持っているのではないかと思っていたぐらい、私の仕事のあとつぎは彼女に任せようと思って、いろんなことを毎日教えまくっていたのに。

そもそも私が『崩壊』して彼女の前で失態をおかしてから、私たちの間には異様な壁ができてしまった。私はおもにそのことで悔いた。私からは話しにくかったし、彼女のほうは無言で目をそらすのみだった。あとから、私の仕事を彼女が代わってくれていたことを知った。きゅうにおかしくなった私を責める声が多かった中、彼女だけが、本気で心配してくれていたことを、知った。

彼女は、彼女よりも先にそこにいた私よりも、どんどん、信頼されるひとになっていった。

ーーーーー

そんな彼女に負い目や嫉妬やなんかを感じつつ、大きな壁を背負いながら、同じ匣の中で一緒にいさせられ、ふたりでひとつのパズルに取り組まされていた。
そのパズルを取り組み始めてそろそろ1年ほどになる。大体が組みあがってきて、順調であることや長い時間の共有でなんとなくいつもと違う気分になっていた。

私が彼女に何気なくこれからの目標と現状の悩みをうちあけたとき、ごまかし笑いが消え、彼女のくしゃみが止んだ。


彼女がずっと、くしゃみしながらごまかし笑いでこちらをうかがっていたのは、なにも深い意図があったわけではない。私を陥れようとしているわけでもない。
彼女自身人と関わるのが好きなのに、私だけが彼女へ心を開いていなかったからだ。
なんの気なしに私が言った言葉に真剣に耳を傾け、フォローしてくれた彼女をみて、出会った頃のなんのこだわりもなかったわたしたちの関係を思い出した。
『自信持っていいと思います。目標があるのは素敵なことだし。私にはそういうのがなくて。』
なんでもラクにこなしてるように見える彼女が、口に手を当てて言った。このひとはふわふわしているように見えながらいつも恥をかかえている、と以前から思っていた。その居づらさがどうしようもなく仕草としてあらわれてしまう彼女をどうにか支える方法ぐらい、考えてあげればよかったのだ。私がそれをしなかったから、私がすべきことをしなかったから、一番のパートナーになるはずの私たちは、ものすごく無駄な遠回りをした。
『きみは、やさしいね』
恥ずかしくなりながら、やっとの思いでそう伝えた。目を見て話すことはできなかった。
ゴミあさりを終えてから
全開のドアの隅にこびりついてる
出たいかと言われると頷くのに
背中を押されると怖じけづく

赤い血の付いたゴミが好きよ
生のまま乾かずにどろどろが残ってる
きちんと分別しないから
ほらね?またあたしの指に
針が刺さっちゃう

ゴミあさりを終えてから
大好きなシロップをおじいちゃんにもらうの
ゴツゴツした手の指先だけがひんやりと
やさしく包むんだよ

使えそうな歯ブラシ拾った
きょうからあたしのひとりだけのお友達
かびのついたくまちゃんとは
今日でお別れ
ばいばいね
おこらないで

ゴミの中でゴミに生かされる
やさしいあたしの大きな手を離れたなら
あたたかなひかりがまぶしい
遠く咲くハイになる夢の島にいけるらしい……

ゴミの注射針に残されただれかの
真っ黒な血液を舐めてみた
思ったよりも古臭い味がした