ミラー! (555)代役
ここで俺が春希になりすましてがんというしかないと思ったんや。
「沿道秀樹。俺のフィアンセに迷惑をかけてばかりなのはお前や。この前の報道といい、今でも続く嫌がらせ。いくら俺が、彼女と遠距離であろうと、俺は彼女のためなら飛んで行く。俺は彼女を守る義務がある!いい加減にせんと、出るとこ出たる。」
と、俺は胸倉をつかみ、あいつの目をじっとにらみつけて激しい口調で言い放った。
「お前こそ、俺から彼女を奪い取ったくせに!」
「はあ?何勘違いしてるん?俺と彼女が付き合う頃には別れてたくせに。アホかお前は。」
「そんな事ない!ずっと婚約は継続していた!」
ああ、酔っ払いの勘違いを相手にしたくねえ。
「ま、とりあえず、俺と彼女は婚約したんやし、お前の入り込む隙間はねえ!これ以上彼女に色々するんやったら、こちらにも考えがある!お前をいくらでも訴える事くらいできるんや。ただ、彼女が願ってないだけや。ええか!こっちにはいろいろお前についてのネタがある。ばらされたくなかったら、大人しく諦めろ!ええか!!!」
といって俺はあいつを突き放して会場へ戻る。すると春希に出会う。
「春斗・・・。」
「あ、もう心配いらん。もう俺ががんといっておいたし・・・。何かあったら何とかしたるから安心せい。」
「でもさ・・・。」
「ほんとお前はアホかと思うくらい温厚やな。ま、そういうところ、立花さんが好きになったらしいけど。でも言うべきところはいわなあかんで。彼女を守るのはお前や。俺ちゃうで。俺には雅美と玲奈がおるし・・・。とりあえず、がんばれ。」
と俺は春希の肩をたたいて、父さんのところへ向かった。沿道秀樹のやつは、ずっと庭にあるベンチに腰掛けて、雪空を眺めていたみたいやったけど・・・。ま、これくらいでわかるような男じゃないだろうが、あとは春希が何とかすればいいことや。俺は応援しかできひんけどな・・・。
ミラー! (554)騒ぎ
「お、春希。立花さんならおらへんで。」
と、着替えを済ませた春斗が僕に声をかけてきた。
「え?どうして?」
「ここの庭で、婚約会見をするんやって。ちょうどマスコミも集まってるからええ機会やし。」
庭ねえ・・・。ここにはとても綺麗な庭園がある。ガーデンウエデイングができるくらいの綺麗な庭。
「あ、春希、行かん方がええ。取り囲まれても知らんぞ。ま、喜ばしい会見やし、ええやんな?」
と笑いながら、会場へ向かう。
会場からなんとなく見える会見会場。クリスマス寒波の影響か、ちらほら雪が降り出した。きっと彼女は寒いんじゃないかとじっとそちらを見ていた。もちろんそっちを見ていたのは僕だけじゃない。沿道秀樹も。好きで好きでたまらない女性を、この僕にとられたのだから・・・。悔しそうな表情で様子を伺っていたのかもしれない。
無事に会見が終わったのか、会見場所辺りのライトが消えたと同時に、パーティー会場の隅っこで騒ぎが起こっている。騒いでいるのは春斗と沿道秀樹。突っかかっているのは沿道秀樹。春斗は何事かと言うような表情で見下している表情だった。
「遠藤春希!お前、よくもまあ、俺の女を横取りしたよな!」
「はあ?お前酔っとんか?何訳わからん事言ってんねん。」
沿道秀樹は相当酔っているのか、この僕と春斗を間違えている。最低髪型で区別できるのに・・・。
「遠藤春希!どんな手を使ったんだ?立花真里菜はな!俺のフィアンセだった女だ!それをまあ、横から・・・。」
「ああ、そういうことか?ここではなんだ、外へ出ろ。ちょうどいい、話をつけようと思ってたんや。」
というと、春斗は沿道秀樹を引っ張って庭にでる。もちろん僕も気になって外にでる。春斗は何をしようとしているんだろう。春斗はまったく関係ないのに・・・。
ミラー! (553)日本一の嫁
来年のテーマ、ナチュラルをイメージしたオートクチュール。メインデザイナーに抜擢された僕の従兄であり妹の旦那、美濃悠太。昔からデザインに関する才能は天才的。34歳と言う年齢で、ここまで活躍できるんだもん・・・すごいと思った。
そして始まるメイン、立花真里菜。そして兄春斗。さすがカリスマモデルだった立花真里菜。見事にモデルをこなしている。そしてエスコートする春斗。モデルにもってこいの体型とイケメン具合。一卵性なのに、こうも違うものかとため息がでる。
僕と春斗は瓜二つ。横にこの僕がいるように錯覚してしまう。父さんはそれを狙っているのかな?そして横でこそっと話す父さん。
「春希。2月のウエデイングフェアで、彼女が着るデザイン。3月のお前の結婚式に使ってはどうかな?お前のためにデザインさせたタキシードも春斗に着させてみるし。もちろん春斗のお古はお前に着せないから。」
「あ、彼女はいいとして、この僕は制服にしようと思っているから。ちょうど礼装があるし・・・。節約結婚式にしようと思って。お互い子持ちだしね。ただし、彼女にはドレスは着て欲しいと思っている。だからタキシードは要らないよ・・・。」
「そうか・・・せっかく悠太に彼女のものと合わせてデザインさせていあるのになあ・・・。もしどこかで披露宴をするのであれば、使ってくれ。父さんからのプレゼントなんだけどね・・・。」
「ありがとう、父さん。あまり派手にしたくないからね。気持ちだけ・・・。」
父さんは苦笑しながらため息をつく。せっかく僕のために色々手配してくれているみたいだけど、僕は決めたんだもん。彼女にはドレスを着せるけれど、僕は第1種礼装にする。せっかく3佐に昇任するし、それに伴って、帽子も礼装階級章も変わるんだしね。
「しかし、本当に立花真里菜のナチュラルさはすばらしい。」
「え?」
「春希、本当に日本一の女性を嫁にもらうんだから、大切にしろよ。あ、ちなみにお前の母さんも日本一の女性だったよ。美人で気立てもよくて・・・。」
「はいはい。母さんは本当に綺麗で素敵な人だと思うよ。面食いな父さんが惚れこんだ女性だしね。」
と言うと照れる父さん。いつまで経っても母さんの事が忘れられない父さん。一番愛していた母さんだもんね。ま、母さんが生きていたら、きっとこの僕は弐條のままだったろうけど。そして、この僕と彼女の事をどう思うんだろう。
ミラー! (552)イベント
クリスマスイブ。今日は子供たち3人を統合幕僚長である大叔父さん宅に預けて、実父の経営するブランドのイベントへ出席する事になっている。予定がなければ出席しているイベント。プラチナチケットといわれるほど、このパーティーの招待券は価値がある。ネットオークションで高値がつくくらいだから。だって、招待を受けることができるのは、顧客リストの中でも上お得意さまだけだし、有名人も一流の有名人しか呼ばない。
世界中からセレブが集まるこのイベント。今年は横浜にあるリュヌグループウエデイング部門で使用する邸宅にて行われる。邸宅ウエデイングで超人気のこの邸宅。昔、僕の養父母がここで挙式披露宴をしたらしくて、もちろん二人も夫婦で招待を受けているから出席。懐かしそうに、この邸宅を散策していた。横浜らしいすばらしい洋館。きちんと手入れされているから、築100年を超えているようには見えない。そうそう、今日は養夫婦の誕生日でもある。確か結婚記念日も、今日だったか明日だったか。結婚して30年以上経っても仲睦まじく羨ましい夫婦像って感じ。
ふと、父さんと一緒に招待客への挨拶回り中にとんでもない人物と遭遇する。それは、美里のストーカーであり元彼の、沿道秀樹。
「父さん、沿道秀樹は招待客リストに入っているの?」
「あ、みたいだね。うちのスポーツブランドは、彼のスポンサーだし・・・。だからじゃないか?スポンサー契約してから、ずっとリストに入っている。」
「え?」
「何か不都合でもあるのか?春希。」
あるだろ?父さんは知らないのかなあ・・・あいつは美里のストーカー。未だに身辺をウロウロしているらしい。
「ちょっとね・・・美里のさ・・・。この前テレビで騒がれたでしょ?復縁とか何とか、結局僕と勘違いされてたんだけど・・・。」
「ああ・・・。そんな事があったね。ま、とりあえず挨拶でもしないといけないよ。」
と、父さんは沿道秀樹の前へ。僕は渋々ついていく。まあいう、美里の新旧彼氏の対面なんだよね。
「沿道秀樹君、こちらはね、この私の次男だよ。今はわけあって、遠藤代議士の養子になっているが・・・。」
嫌だけど、お互い握手を交わす。
「遠藤春希です。」
「沿道秀樹です。昔モデルをされてた方ですよね?存じ上げてますよ。今は?」
と、なんともいえない表情でこの僕を見る。多分美里の彼氏がこの僕である事は知らないはず。知っているのかな?
「今は、陸上自衛隊医官をしています。まあいう医者です。年明けの冬季オリンピック、出場されるようですが・・・練習は?」
「あ、何とか。年明けから本格的に合宿に入りますし・・・。」
何気ない会話だけど、なんとなく火花が散っているように思える。やはり、こいつ、この僕が美里の婚約者と言う事を知っているみたいだ。ま、ストーカーまがいのことをしていたらわかるよね。
とりあえず、何事もなくわかれ、一通り挨拶回りを済ますと、イベントが始まる。
ミラー! (551)息子の進路
「はあ、楽しかったね、春希さん。」
「うん、そうだね。」
子供達とお風呂に入ったあとの僕は、美里にお風呂を勧める。
「うん、ゆっくり入ってくるね。楽しかったけれど、疲れたし・・・。」
「じゃあ、僕が戸締りして、先にベッドへ入っているから、ゆっくりお風呂入ってね。」
美里は頷き、バスルームへ向かう。戸締りを済ませ、主寝室のベッドに横になる。サイドボードにおいてある医学雑誌をとり、読む。美里が寝室に来ている事を気付かないくらい夢中で読んでいた。気付いたのは美里が、クイーンサイズのベッドへそっと入って来たとき。読んでいた雑誌を美里に取り上げられて、いつの間にかじゃれあう。
「もう!春希さんったら。」
「いいじゃん。」
と、まあなんていうのか、キスを交わし、夜の営みに突入する。
あんなに夜遅くまで起きていたのに、朝早くに起きて、家族みんなの朝食準備を済ませ、その上、洗濯も済ませた美里。今日は最終リハーサルのためにきちんと仕事へ行く準備も済ませている。
「美里、今日は帰るの遅い?」
と僕は声をかける。
「う~~~ん。わからない。また連絡するね。今日は未来たちのこと頼んで大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。何とかなる。優希も手伝ってくれるって言うし、未来もきちんと自分の事くらい出来るだろ?心配なのは美紅かな?」
すると美紅はプウッと頬を膨らませて怒る。こういうところはやはり母親の優奈に似ている。優奈もこれくらいの時にからかうと同じ表情をしたものだ。
「パパ。美紅だって一人でいろいろできるもん。美紅は春から大きい組さんなんだもん。」
そうだね。と僕は笑う。すると優希が、この僕に珍しくお願い事をする。
「ねえ、パパ。僕ね、塾へ行ってもいいかな?」
「え?塾?通信教育じゃだめなの?そのほうが優希の自由な時間ができるのに・・・。」
「だって、クラスのみんな塾へ行っているし・・・僕ね、青学じゃなくて、慶應か、パパが行っていた麻中へ行きたいんだ。麻中なら家から歩いて行けるし・・・。慶應だって自転車で行けるし・・・。電車で通学ってあまり好きじゃないんだ・・・。」
ふうん・・・もうそんな時期か・・・。4年生だもんな・・・。春には5年生。そろそろ中学受験準備をしないとね・・・。
「うん・・・そうだね。優希が行きたいようにすればいいよ。できれば大学まである慶應のほうが楽でいいと思うけどね・・・・。優希は大きくなったら何になりたい?」
「僕はね、絶対自衛官にはなりたくない。あ、でもパパの仕事はすごいと思っているけど、あっち行ったりこっち行ったりでね、僕はやだ。普通の医者か、おじいちゃんのように政治家かな?」
ふうん・・・。まあ・・・ね。優希にもいろんな考えがあるし、優希がなりたいようになればいいんじゃないかと・・・。前田家や遠藤家の親戚たちは、優希が将来政治家になるように望んでいるみたいだけど・・・。とりあえず、年明け早々に行われる、入塾テストを受けさせる事にした。優希がどれくらい出来るかわからないけど・・・。ちょっと心配・・・。今の小学校でもトップクラスとはいえない成績だからね。