タイの子どもの本日記

タイの子どもの本日記

タイの絵本や子どもの本、タイの文化などについてぽちぽちと書いていきます。もと日本人会バンコク子ども図書館ボランティア。ご質問などはメッセージにお寄せください。

 

「この表紙の中心にいる女の子ナナは、色が浅黒く、歯もかけています。

とてもタイ的で親近感がもてますが、色が白いことが良しとされるタイでは、

『あまりかわいくない』

と言われるタイプです。

でも、そのメッセージはひそかなもので、書かれてはいません。かわりに勇気や明るさに焦点をあてています」

 

前回ご紹介した、

「国際交流基金とJBBYの共同企画「アジアからの風~東南アジア絵本との出会い~」

 

で、タイの児童出版社サーン・アクソン社編集者Geeさんからうかがったお話第2弾です。

(第1回『小さな小さな通り」についてはこちらです)

 

この『NANA』という絵本は、2024年にタイで10年ぶりにIBBY(国際児童図書評議会)のオナーリストにタイから提出されたものです。

私は持っていて読み、ブログに書いていましたが(こちらです)

でも、お話をうかがってみると、まあなんて浅い読みだったのでしょう!

 

お話は、NANAという山の村の少女が、初めて学校に行く日、お母さんに見送られ、おにいちゃんや友だちのゴリラに助けられ、山をどんどん越えていき、時には木のつるをつかんでたどり、奇妙な動物に助けられ、やっと登校するまでの道のりを描いています。

 

舞台はファンタジーの世界で、タイ的なものは無いと思っていましたが、実はとてもタイの子どもたちに親しみを持たせる「タイ的」なものが描かれていたのです。

 

もう一つのタイ的なものは、ナナやお母さんたちの身なりだそうです。

それはタイの少数山岳民族に似ているので、共感されるようになっているとおっしゃるのです。

それを、どの少数民族かは特定されないように、ファンタジーの世界にしたのだそうです。

 

そして、ここからが全く私の読み取れていなかったことですが・・・

 

どうして学校へ行きたいのか、それは「歯医者さんになりたいから」とナナは言います。

 

そのあとで、おまけのようなページがありました。

私はそれが、ナナの日常を描いたものと思いこんでいました。

熟読したり、さっと読んで見直したりしていなかったからです。

 

でもそれは、ナナでなくて、「ナナのお母さん」の子どものころの姿だったというのです!

 

そういえば、歯がかけている数も多いです。

ナナのお母さんは、子どものころ、たどりにくい道につるを結びつけていました。

それを、ナナが登校するときたどっていたのです!

 

そして、ナナのお母さんは子どものころからお菓子をつくるのがじょうずでした。

そして、岩の下になって傷ついているファンタジーの動物小さい子どものユックユーチウを助け、自分の作ったお菓子を食べさせて介抱します。

そのかたわらには、包帯をまいた子どもゴリラもいます。

きっとそのゴリラも子どもの頃のお母さんが介抱してあげたのでしょう。

 

だから、ゴリラも、巨大になったユックユーチウもナナを助けてくれたという伏線があったのです!

 

実は最初はこの絵本には、このページはなかったのだそうです。

ところがGeeさんは、作者自身から、ナナの登校をどうして助けてくれたのかこう考えている、という話を聴いて、

「それがかんじんなことじゃない!」

と、おどろいて最後のページを描き足して出版したのだそうです。

 

なんとーーー星星星

 

この絵本には、このように、最後の描き足されたページで、実はナナの登校を助けてくれたのは、「母の愛」だったということが明確なメッセージとなったとともに、もうひとつかくれたテーマがあるというのです。

 

このお話にはお母さんが出てきますが、お父さんは出てきません。

つまり、このお話は「ひとり親家庭の問題」がひそかに描かれていたのです。

 

ですから、この絵本を読んだひとり親のお母さんたちから「ありがとう」というフィードバックが多く寄せられたのだそうです。

 

まったく・・・今日のお話を聴きのがしてたら、どうなっていたことでしょう。

とても、タイの絵本を語る資格などないところでした汗うさぎ汗うさぎ汗うさぎ

 

ほんとうにありがとうございます。泣くうさぎ

 

この『ナナ』という絵本をもしごらんになりたい場合は、「世界の子どもの本展 ~国際アンデルセン賞とIBBYオナーリスト2024」という巡回展示におそらく含まれているので、手に取ってごらんになれると思います。

お近くの方はぜひ、ナナという女の子の元気あふれる登校のようすをごらんになってくださいニコニコ

そして1番最後のページも。

ナナが「歯医者さんになりたい」と言ったのは、おそらく村に歯医者さんがいなくて、おかあさんの歯がたくさんかけているからでしょう・・・おねがい

 

 

 

この絵本が展示品にふくまれているかどうかは、ねんのために各主催者に

「タイの絵本はありますか?」とお問い合わせください。

 

2025年の巡回スケジュールはこちらですが、これからまた更新されるかもしれません。

 
近いところでは、太田市美術館で10月4日から19日まで展示されるようです。
 
なお、最初にあげた『NANA』についてのブログはこれから追記訂正いたします。
 

 

 

 

「いなかの道では、小さい生き物たちがよく乗り物にひかれてぺっちゃんこになっているのよ。

でも、今の子どもたちは車に乗って通り過ぎるから、それを見たことがないの。

だからそれを、絵本にしたらどうかしら?」

 

と、作家シリラックさんが企画をもちこんだのは、タイの児童出版社サーン・アクソン社สำนักพิมพ์สานอักษรの編集者、Gee(ジー)さんです。

シリラックさんは、池のそばに住んでいて、植物にもくわしい作家です。

「え、つぶれた小動物たちの絵をのせるの?」

「それはちょっと・・・よくないかも」

しかし、そのアイディアを形にしようと、ジーさんは、「定点観測」の手法を思いつきます。

そして、さまざまな乗り物が最初、頭だけが見えて、子どもたちになんだろうと思わせます。

その乗り物はタイらしいものです。野菜売りのトラックや、アイスクリーム売りのバイクなどです。

テキストは極力少なく。絵に集中してもらうためです。

(これがタイではあまりできないし、みな知らないのです)

そして、道を渡れないカメを最後に救うのは、子どもです。

大人たちが目に止めないカメに子どもだけが気がつくのです。

ヒーローは子どもなのです。

 

これは、先日私が読んでブログにあげたタイの新しい絵本『小さな小さな通り』ができるまでのお話です。

(『小さな小さな通り』の物語のあらすじや作者紹介のブログはこちらをクリックください)

 

こうした貴重なお話を聴けたのが、昨日参加した、国際交流基金とJBBYの共同企画

 

「アジアからの風~東南アジア絵本との出会い~」でした。

 

 

Xのポストで知って、すぐに申し込みましたラブ

その時のお知らせはこちらです

 

参加したのは、シンガポールからCinnamon Art Publishing シナモン・アート出版社の創業者Laura Pehローラ・ペイさん

 

ベトナムの Crabit Kidbooks クラビット・キッドブックス社 編集者 Le The PhuongQuiynh レー・トゥー・フォン・クインさん

 

マレーシアのOdonata Publishing オドナタ出版社 の編集者ウィング・ヤン・ホイさん

 

そしてタイのSaan-aksorn Publishing サーン・アクソン出版社のディレクターで編集者 Kuerkamol(Gee) Niyomクアカモン(ジー)・ニヨムさんです。

 

モデレーターは絵本についてさまざまなご活躍をされている広松由希子さんです。

もともとこのメンバーは、今年のボローニャ絵本展で、JFとJBBY共催で「フォーラム:東南アジアの絵本(広松由希子他)」を催したとき、広松さんがお声をかけた方々だそうです。

そして今回、みなさんが研修で日本に来られ、一般のひともお話を聴ける機会を作ってくださったのでしたおねがい

 

みなさん、働き盛りの女性の方々で、それぞれの絵本に対する見識はとても高くていらして、それを自国に普及するために絵本づくりだけでなく、さまざまな活動をされているお話をしてくだいました。

照れ

 

それがとてもおもしろく、しかもタイのお話は、私もタイの絵本を調べるうちに心あたりのあることが多く、証明された気持ちでした。

またすでに読んでいた『小さな小さな通り』や『ナナ』について、隠れたテーマや本作りについてうかがえて、理解が深まり、視野が広がりました。

 

ということで、無料のイベントでしたので、報告をかねて、何回かにわけて、ブログに書いていきますねニコニコ

よく知っているタイのことが中心になりますが、随時ほかの国のみなさまのお話も入れていきます。

それぞれ3冊ずつ絵本を持ってきてくださいましたが、ほかの国の絵本もおどろくような作品ばかりでした!

 

そして・・・うれしかったのは、たくさんのサーン・アクソン社の絵本を展示に持ってきてくださっていたことです。

 

 

『ローニン』2025年タイ良書賞3-5才部門の最優秀賞作品です(ブログはこちら)。

 

このまんなかにある、鬼の顔のような絵本は『バーバー』。

その下に『小さな小さな通り』もありますね。

 

 

そして『ともだちのうちにいくのはほんとうにたのしいな』

 

2020年タイ良書賞3-5才部門の最優秀賞作品です(ブログはこちら)

 

この3冊、私前から読みたいなと思っていたのです。

そして今回、本文は全部読めました!星星星

うれしいです~ラブラブ

なお、『ともだちのうちにいくのはほんとうにたのしいな』はチェンマイが舞台だそうですよ。

だから、チェンマイふうの夕食風景やたくさんのゾウさんたちが出てくるそうです。

 

このトークイベントですが、参加者はみなさん英語で話され、それを2人体制で同時、逐次通訳されましたが、ほんとうにたいへんだったと思います!ありがとうございました。

 

サーン・アクソン社のホームページはこちらです。

 

つづく

 

2025年にサーン・アクソン社から出版されたタイの絵本

 

『小さな小さな通り』

 

前記事『韓国へ行くタイの絵本』(こちらです)で、ソウルIBBYアジア大会でディスプレイに受け入れられた5冊の絵本の一冊です。

 

この絵本も、『塩の話』(こちらです)といっしょに、タイ絵本仲間でブログ「今日も一歩の足あと」のらくちゃんさんが、今年4月のタイブックフェアに行かれた時購入されたものを貸してくださったのです。それを訳させていただいて、らくちゃんにはお送りして、私のブログで紹介させていただくお許しをいただきました。

今回もありがとうございます!お願い

 

お話じたいは小さい子どもでもわかりますし、絵もとてもいいものです。

そしてあとがきに、高学年でも学べる小動物が道を渡るときどのような事故にあいやすいかが書かれています。

さらに大人向けに、前書き(謝辞)と、あとがき「おとうさんとおかあさんへのお話」があり、その内容は「家」はあたたかく休息や避難できる場所であり、人にとって家を得るのは生涯の目的である、そしてそれは地球上のどの生き物にとっても同じだ、ということが書いてあります。

ということで、こちらも訳すのに思ったより時間がかかり、お借りしてよかったですニコニコ

本文だけならその場でも読めますが、タイの絵本について情報を得たり研究するためには、この前書きとあとがきがキモになるんですよね。ニヤリ

 

登場する生き物は、細い道を渡ろうとする、カエル、ヒキガエル、田カメ、シロハラクイナ、ミズオオトカゲです。

 

村の奥の小さな小さな通りを渡ろうとするのですが、この通りにもけっこう乗り物が通るのです。

これ・・・日本の私の夫の実家もそうです。

まわりは舗装されたあぜ道なんですが、ここがのどかどころか、耕運機から自家用車まで車が通る、通る。

歩道がないぶん、かえってひやっとすることがあります汗うさぎ

 

この村の通りを行くのは、野菜かごを乗せたバイク、アイスクリーム売りのバイク(タイに住んでいた人には郷愁さえ感じる、バイクの横にアイスクリームボックスがついていて、のんきな?電子音のテーマソングとともに通ります)、ショベルカー、野菜を積んだバン。

 

カメさんだけは、足が遅いので、いつも乗り物が通ると手足をひっこめて道のまんなかで「石」になってしまって、なかなか渡れません。ガーン

友だちがひかれてしまうのではと心配して見守っていると、最後のバンから、男の子が降りてきて、カメを抱きあげて、道を渡してくれました。照れ

 

生き物たちがぶじに着いたのは蓮の花咲き、蒲の穂がゆれる美しい池でした。

そうです、そこがみんなの家だったのです。

自転車にのった三人組の人間の家族もそれを見ています。

 

というところで終わります。

 

そして、次にそれぞれの動物からふき出しが出て、登場する生き物たちがどのような事故にあいやすいか書かれています。

 

タイ沼ファンならみんな大好きミズオオトカゲ。バンコクではルンピニー公園に行くとたくさん見られます。

体は大きいのですが、自動車のブレーキがまにあわないと、しっぽが切り落とされてしまうそうです。

 

田カメは、甲羅があるから、ひかれてもだいじょうぶかと思うかもしれないけれど、実は甲羅は背骨の一部なので、損傷すると内臓まで傷ついてしまうとか。

田カメを見つけたら、そっと抱き上げて道を渡るのを助けてほしい、そのとき頭がどちらを向いているのか観察すると、カメの行きたい方角がわかる、と書いてあります

 

なお、この本に出てくる田カメとシロハラクイナは、2019年の野生動物保護法で保護されている野生動物だそうです。

 

作者は、文がシリラック・プッタコート

タイの薬草サムン・プライの研究をして、庭でも育てているそうです。

学校の先生から転身してサーン・アクソン社と仕事をしているそう。

サーン・アクソン社からは、「いのちを伝える総合教材」シリーズなどの本も多数出しているそうです。

 

クォリティの高い絵を描いたのはポンポート・ロートクロ。

シーナカリンウィロート大学卒業後、アメリカに留学し、3Dアニメーターを経て、ストーリーボードアーティストおよびイラストレーターの仕事をしているそうです。

 

また前書きの謝辞を書いているのは、Sueb Nakhasathien(スーブ・ナーカサティアン財団)という財団の取締役で、この財団はタイの自然保護の象徴的存在であるスーブ・ナーカサティアンの遺志を継ぐ目的で設立されたそうです。

財団のミッションは、広大な森林や自然環境、野生動物を保護しつつ、生物多様性維持のために活動を推進することだそうです。

公式サイトはこちらです。

 

美しいかわいらしい絵本のようですが、その中にはたくさんの自然保護と共生への思いと情報がこめられているのですねニコニコ

 

(追記)この絵本について、9月17日「アジアからの風~東南アジアとの絵本の出会い」というイベントで、来日されたサーン・アクソン社でのこの絵本の編集者の方から、この絵本ができるまでのお話を聴けました。ブログのこちらに書いてあります。あわせてどうぞニコニコ

 

 

8月30日と31日、韓国でIBBY(国際児童図書評議会)の2024年アジア太平洋地域大会が開催されるそうですひまわり

 

その中で、「Living in Harmony with our Planet (私たちの惑星で調和して生きる)」というテーマのディスプレイに、タイからは5冊の絵本が受け入れられたそうです。

ThaiBBYのFacebookページにあがっていましたので、調べてご紹介しますね。

 

まず、最初の画像、『4人のなかまと100本の木』

 

精力的に仕事をしていて、たくさんの国内の賞を受賞しているクリッサナー・ワチラワンカップルユニットの絵本です(このお二人についてはカテゴリーをつくっているのでご興味のある方はご参照ください)

2025年の良書賞3-5才部門最優秀賞『ローニン』や、

 

 

2024年IBBYオナーリストにタイから選定された『ナナ』の作者です。

 

 

『4人のなかま』はオンラインのブックショップの解説によると、「小ブタ、小トラ、子犬、こぐま」だそうで、シリーズもののようです。

この絵本は、この4人がブラザーベアに頼まれて、森に100本の木を運ぼうとする冒険物語だそうです。

 

2019年タイ良書賞6-11才物語部門で最優秀賞を受賞しています。

 

続いて、『ミミズのおまつり』

 

タイの代表的絵本作家のひとり、チーワン・ウィサーサ先生の作品です。

チーワン先生については、「チーワン先生とプリーダー先生の絵本」というカテゴリーをつくっています。

 

この絵本は、読み聞かせページがあったので、内容がわかりました(公式かどうかわからないのでリンクははらないでおきます)

 

サルのおじさんのバナナ農園でバナナがとれて、そこでバナナのお菓子をつくって、子ザルたちや動物たちにふるまいます。

バナナの葉をつかって包んで蒸したり、揚げたり。バナナのココナツミルク煮(カノム・ブアッチー)もあります。

あつあつでいい匂い、みんなはごちそうでお祭りです。

みんなのお祭りが終わったら、バナナの皮やココナツの皮、ごみくずなどを今度は地中のミミズたちがいただきます。

ミミズたちにはごちそうで、ミミズのおまつりが始まった、という絵本です。

チーワン先生にしてはカラフルに塗り重ねられた、エリック・カールのような絵でちょっと異色です。

 

なお、この絵本は、2020年タイ良書賞3-5才部門 奨励賞を受賞しています。ニコニコ

 

もう一冊、チーワン先生とお嬢さんのワードダーオさんの作品。

 

『北極星からの歌』

 

 

この絵本は、FaceBookにあらすじをあげている方がいましたので、紹介させてもらいます。

 

北極星とクジラのコンパスは仲良しで、コンパスはいつも北極星の歌を聴いていました。

ところがある日、コンパスのようすも海のようすもおかしくなりました・・・

 

この物語をチーワン先生が描こうと思ったのは、2018年5月にタイ南部のソンクラー県で起きたコビレゴンドウクジラの死という事件からだそうです。

その原因は、大量のプラスチックごみを食べてしまったことによるものでした。

 

この絵本は、そうした海洋プラスチック汚染について子どもたちに考えさせる絵本だそうです。

紹介ページを見た感じでは、わりと長そうな絵本でしたにっこり

 

そしてこの方もタイの代表的絵本作家のおひとり、クルーク・ユンパン先生。

野間絵本原画コンクールで二回入賞され、タイ国内の賞も多数受賞しておられます。

シーナカリンウィロート大学で教鞭をとっておられたこともあり、チーワン先生やプリーダー先生の盟友でもあります。

 

『おじさんは木を植えるのがすき』

 

ユンパン先生についてはこの絵本のこちらでご紹介しています。

この絵本も、読み聞かせ動画がありました。

 

調子のよいかんたんな文で、木を植える喜びを表しています。

 

最後に『小さい小さい通り』

 

 

この絵本、実は『塩の話』と同じく、フォローしあっているブログ『今日も一歩の足あとを』のらくちゃんさんさんからお借りしていますお願い

今読み終わったところなので、清書をらくちゃんさんに見ていただいて、お許しあれば、このブログでもご紹介します。

 

小さい通りをわたろうとする、小さい生き物たち。

ところが小さい通りも、たくさんの乗り物が通ります。

生き物たちが安全に渡るにはどうしたらよいでしょう?

美しい絵の物語です。

 

このブログでお名前を出したタイの絵本作家さんたちの絵本で、日本語訳が出ているものをご紹介しておわります。

 

 

 

 

 

 

 

 

今年開催された、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア。

板橋区立美術館では、8月11日まで、2025イタリア・ボローニャ国際絵本原画展が開催されていました。

ウェブサイトはこちら

その中での企画イベントのひとつ、

ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア総復習のレポートが公開されました。こちらです。

 

この中で、

「今年のBCBF全体のテーマである「サステナビリティ」は、ラガッツィ賞の特別部門ともなりました。世界中から集まるラガッツィ賞の応募作から選ばれた150冊をショートリストとして紹介する「アメイジング・ブック・シェルフ」という試みは毎年行われていますが、今年はサステナビリティ部門の応募作のなかからもショートリストとして選ばれた150冊が展示され、2025年を象徴するものとなりました」

 

とありますが、このサステナビリティ部門に、タイから1冊だけ選定されました!

それがこの『塩の話』です。

 

 

この絵本、今年の4月に絵本セラピストで、ブログ「今日も一歩の足あとを」 を書かれている「らくちゃん」さんが買ってこられていたのです!

さすが、絵本の選球眼はたいしたものですねキラキラ

そしてそれを貸してくださったので、私が家でせっせと翻訳してあとがきまで全部読んだので内容をご紹介しますニコニコ

(全訳はらくちゃんさんにお送りしており、ブログに書くこともご了承ずみです)

 

タイのバンコクから南西へ77キロのところにあるサムットソンクラーム県は、メークローン川の河口にあり、アンパワーの水上マーケットや、蛍鑑賞ツァーで有名な場所です。

わがやも駐在中、夜の水路を舟でめぐる蛍ツァーに行って、木いっぱいにかがやく蛍たちを鑑賞したことがありますキラキラ

 

そのサムットソンクラームを通ってリゾート地ホアヒンに行く途中でいつも見えていたのが塩田です。

 

この絵本は、塩になることにあこがれた海の水のしずくが、塩田に入って長い長い間をかけて塩になるまでの物語です。

内容は科学絵本で、レベルとしては日本の福音館書店から発行されている「たくさんのふしぎ」レベルで、幼児向けより少し専門的なことをわかりやすく描いています。

この絵本は、塩田で塩がつくられるようすを、「塩目線」で描いているところがとてもおもしろいのです。

 

タイの塩田はとても美しいのですが、私はいつも通過するだけで写真を撮っていなくかったので、このたびแอปเปิ้ลさんという方にご好意で提供していただきました。転載は不可でお願いたします。

 

 

遠くに海水を塩田にうつすための揚水車も見えますし、三角にもられた塩で白い海のような特徴的なようすがよく表れていますね。かごにもられた塩も、この絵本の内表紙に描かれたままです。

ありがとうございましたお願い

 

では、長い内容をかいつまんでお話しします。

 

海のしずくはある日、年上の海のしずくおじさんから、

「伝説の海の塩の大地」の話を聴きます。

そこは「白い天国」สวรรสีขาว サワン・シーカーオと呼ばれ、そこでは海のしずくから塩になれるチャンスがあるのだと。

 

なぜ塩になりたいかとおじさんに尋ねると、塩になると、今の倍も生物の役にたつようになるからだ、とおじさんはほこらしそうに教えてくれました。

塩は万物の長である人間もふくめて、生物に必要なミネラルだと。

ミネラルがないと生きることもできない、過去には塩は金と同じ価値があった。

調味料から薬品、信仰の儀式に使ったり、工業用、保存食にまで使われる。

「もしそうなら、私も塩になりたい」

海の水のしずくが将来の夢をみた一歩になりました。

 

長い間海を旅して、水のしずくは、タイ湾のごみの間で浮いていると、クルマエビのお母さんが

「塩になりたいなら、あっちに塩田が塩づくりを始めるために水をひきいれる溝への水路を開いているわ、

塩になりたいなら急いで入りに行かなきゃ」

 

風の助けも借りて、しずくはがんばってたどりつくと、巨大な暗黒の力に吸い込まれ気絶してしまいました。

 

気が付くと、最初のたまりの「海水溜」に入っていました。

風が揚水車が水を田に入れてくれると教えてくれました。

 

海水溜で1週間静かにしていると、水のしずくは表面についていた汚れが沈殿していき、清潔に透き通ってきました。

そこでしずくは、次の田の「蒸発池」に移されました。

水の底はよくかきまぜられなめらかでかたく、しずくがしみこまないようになっていました。

 

しずくはそこで5日間眠りました。

体からは汗がぽたぽたと流れ、日光に当てられてひりひりしました。

体が重くねばねばとしてきました。

そこへ製塩農夫がやってきて、器具で塩味の濃度を測り、うなづきました。

 

私は調節池に移されました

ところがそこで寝ていると、「ダン!」

という恐ろしい音がしました。

チドリが教えてくれました。

「製塩農夫は毎年塩を売っても赤字になるから、借金を返すために塩田を売るんだ。

買い主も、土地代が高いから遊ばせておかないで収益のあがる建物をつくる。

将来どれくらいの塩田が残っているかわからないよ。」

 

私の体はねばついて太っちょになりましたが、私は心配していました。

将来白い天国はなくなってしまうのではないかと。

 

となりにある「結晶池」を見ると、小さい小片がキラキラと浮かんでいて、水の表面に白い膜をつくっていました

製塩農夫がかごにすくいあげました。

「塩の花」です。そして倉庫に運んでいって収納しました。

 

ついに私も結晶池に移されました。

ところが、2月というと乾季なはずなのに、突然黒い雲がわいて、大雨が降り注いできました。

「地球温暖化のせいでおかしくなってしまった!」

と製塩農夫がさけびました。その頬に伝う涙に雨粒がまじりました。

私も悲しみました。

私の体の塩もほとんど溶けてしまったのです。

1か月の待ち望んだ忍耐もむだになってしまいました。

 

雨のあとの空は晴れ上がり、私が状況をうけいれ、静かに寝ていました。

すると、日光さんがささやきました。

「心配いらない、私が助けてあげるよ」

日光さんにだかれ、昼と夜がすぎ、ある朝突然、私は水の上に浮かぶ小片になっていました。

私は完全に白い天国の塩になれ、万物の役にたつ永遠の命をもったのです。

 

・・・・・・・・・・・

 

海水から塩になるまでの、長い道や、塩田がへっていること、気候変動、製塩農夫のみなさんの苦労がよくわかりますよね。

「白い天国サワン」という表現にもタイらしさを感じました。

裏表紙には製塩農夫のみなさんも。

 

あとがきによると、この白黒版画のイラストは、リサイクルとして粉砕されるのに適しない、ご飯を入れたあとの発砲スチロールの箱をゴミ集積所から集め、清潔に洗われて絵を描かれ、版画の版下とされたそうです。

 

この本がつくられたのはソーソーソーสสส(タイ健康促進局)の支援をうけ、サムットソンクラームの「The Monrakmaekrong」ザ・モンラック・メークローン」という地方の安定した職業のためのプロジェクトの一貫だそうです。

 

このプロジェクトの末端の方々は、メークローンの中の自然資源から食品を生産する人々で、

ナンプラー、砂糖ヤシ、海水塩、ガピ(エビみそ)

などが含まれています。

 

しかし、塩の生産に多大な労苦をはらう製塩農夫の価値は見落とされており、世間並みの暮らしができるようになる機会がなかったそうです。

裏表紙には、その製塩農夫たちの姿が描かれていますね。

 

自然から得られる食品は子どもたちの未来にとって、さらに重要で得難いものになる。

この塩の物語を本の中のことだけにするのではなく自然への愛を導いてほしいと解説は結ばれていました。

 

タイの塩田の絵本には『ペーンラムと塩田』という絵本もあり、このブログのこちらでご紹介しています(クリックください)。

 

 

最後に日本の塩田の絵本も参考にどうぞ。