「この表紙の中心にいる女の子ナナは、色が浅黒く、歯もかけています。
とてもタイ的で親近感がもてますが、色が白いことが良しとされるタイでは、
『あまりかわいくない』
と言われるタイプです。
でも、そのメッセージはひそかなもので、書かれてはいません。かわりに勇気や明るさに焦点をあてています」
前回ご紹介した、
「国際交流基金とJBBYの共同企画「アジアからの風~東南アジア絵本との出会い~」
で、タイの児童出版社サーン・アクソン社編集者Geeさんからうかがったお話第2弾です。
この『NANA』という絵本は、2024年にタイで10年ぶりにIBBY(国際児童図書評議会)のオナーリストにタイから提出されたものです。
私は持っていて読み、ブログに書いていましたが(こちらです)
でも、お話をうかがってみると、まあなんて浅い読みだったのでしょう!
お話は、NANAという山の村の少女が、初めて学校に行く日、お母さんに見送られ、おにいちゃんや友だちのゴリラに助けられ、山をどんどん越えていき、時には木のつるをつかんでたどり、奇妙な動物に助けられ、やっと登校するまでの道のりを描いています。
舞台はファンタジーの世界で、タイ的なものは無いと思っていましたが、実はとてもタイの子どもたちに親しみを持たせる「タイ的」なものが描かれていたのです。
もう一つのタイ的なものは、ナナやお母さんたちの身なりだそうです。
それはタイの少数山岳民族に似ているので、共感されるようになっているとおっしゃるのです。
それを、どの少数民族かは特定されないように、ファンタジーの世界にしたのだそうです。
そして、ここからが全く私の読み取れていなかったことですが・・・
どうして学校へ行きたいのか、それは「歯医者さんになりたいから」とナナは言います。
そのあとで、おまけのようなページがありました。
私はそれが、ナナの日常を描いたものと思いこんでいました。
熟読したり、さっと読んで見直したりしていなかったからです。
でもそれは、ナナでなくて、「ナナのお母さん」の子どものころの姿だったというのです!
そういえば、歯がかけている数も多いです。
ナナのお母さんは、子どものころ、たどりにくい道につるを結びつけていました。
それを、ナナが登校するときたどっていたのです!
そして、ナナのお母さんは子どものころからお菓子をつくるのがじょうずでした。
そして、岩の下になって傷ついているファンタジーの動物小さい子どものユックユーチウを助け、自分の作ったお菓子を食べさせて介抱します。
そのかたわらには、包帯をまいた子どもゴリラもいます。
きっとそのゴリラも子どもの頃のお母さんが介抱してあげたのでしょう。
だから、ゴリラも、巨大になったユックユーチウもナナを助けてくれたという伏線があったのです!
実は最初はこの絵本には、このページはなかったのだそうです。
ところがGeeさんは、作者自身から、ナナの登校をどうして助けてくれたのかこう考えている、という話を聴いて、
「それがかんじんなことじゃない!」
と、おどろいて最後のページを描き足して出版したのだそうです。
なんとーーー
この絵本には、このように、最後の描き足されたページで、実はナナの登校を助けてくれたのは、「母の愛」だったということが明確なメッセージとなったとともに、もうひとつかくれたテーマがあるというのです。
このお話にはお母さんが出てきますが、お父さんは出てきません。
つまり、このお話は「ひとり親家庭の問題」がひそかに描かれていたのです。
ですから、この絵本を読んだひとり親のお母さんたちから「ありがとう」というフィードバックが多く寄せられたのだそうです。
まったく・・・今日のお話を聴きのがしてたら、どうなっていたことでしょう。
とても、タイの絵本を語る資格などないところでした
ほんとうにありがとうございます。
この『ナナ』という絵本をもしごらんになりたい場合は、「世界の子どもの本展 ~国際アンデルセン賞とIBBYオナーリスト2024」という巡回展示におそらく含まれているので、手に取ってごらんになれると思います。
お近くの方はぜひ、ナナという女の子の元気あふれる登校のようすをごらんになってください
そして1番最後のページも。
ナナが「歯医者さんになりたい」と言ったのは、おそらく村に歯医者さんがいなくて、おかあさんの歯がたくさんかけているからでしょう・・・
この絵本が展示品にふくまれているかどうかは、ねんのために各主催者に
「タイの絵本はありますか?」とお問い合わせください。
2025年の巡回スケジュールはこちらですが、これからまた更新されるかもしれません。