9月23日、タイで活動する教育支援NGOマレットファンさんとバンコク・プロンポンにて在タイ日本人の方対象に音楽や読書活動の場を提供されている団体サロンオドゥタンさんの主催で、タイの代表的絵本作家のおひとり、チーワン・ウィサーサ先生(このブログでもカテゴリーをつくっています)の日本人向け講演会がバンコクで開催されました
マレットファンさんの日タイ逐次通訳でお話をうかがえました。
私もオンラインで参加しましたが、あらためて、チーワン先生はタイのみならず、世界標準でもすばらしい児童文学者でいらっしゃるなあと思いました
チーワン先生とは1995年以来知遇を得ていましたが、今回初めてうかがうお話が多く、驚きました。
こんな貴重なお話をうかがえる機会をつくってくださって、あらためて主催のみなさんに深く感謝いたします。
中でも、有料の講演会ですが、今後タイの絵本やチーワン先生に関心をもつ方々にはぜひシェアしておきたいことを、マレットファンさんに許可いただいて、シェアさせていただきますね。
まず、チーワン先生ご自身から、デビュー作を聴くことができました。
1988年に出版社にもちこまれた3作です。
今回このブログを書くにあたって、昨日いろいろ調べていたら、2022年のチーワン先生のインタビュー記事(タイ語)が見つかって、この3作のことをすでに語っていらっしゃいました。
お写真は、こちらのインタビュー記事の THAI MEDIA FUNDさんのものをお借りしました。
3作ともすでに、色彩やレイアウトがとても美しく、斬新ですね
この中で、『りゅうのしっぽをさがして หาหางมังกร』は、岩の影から見えるものをりゅうのしっぽとかんちがいして、次々と動物たちが伝言していってこわがるんですが、実はウサギさんがさがしていた、なくした凧のしっぽだった、というものです。
これを現代風に改変したものをチーワン先生ご自身が読み聞かせしている動画があります。
結末で、チーワン先生が、りゅうとかんちがいしたのも、ガチョウさんがちょうど竜についての本を読んでいたからだ、その本が今チーワン先生が持っている本ですよ、と、おちもついています
そして残り2冊ですが、
『แข่งไม้เม้า 木のつえ』
『หนูจิ๊ดกินจุ ナンヨウネズミ おなかいっぱい』
を国会図書館オンラインで検索してみたら、なんと!
上野の国際子ども図書館で所蔵していました!
そろそろすずしくなってきたので、10月には国際子ども図書館に行って閲覧してこようと思います。
続いて、たいせつなお話がありました。
チーワン先生の絵本の中でも、タイの子どもたちに最も人気があるのが、この『イーレーンケーンコーン』というガチョウの鳴き声の本です。
毎ページあらわれるこの鳴き声を子どもたちはすっかり喜んで、お話が終わってもずっとまねして歌っているそうです
タイ文学は、日本で言う明治期までは、全て韻文で描かれていて、歌うように読み聞かされるものでした。
だから、チーワン先生もその伝統にのっとって創作したのだ、と思っていました。
ところが、ちがったのです。
それは、松居直先生の示唆によるものだったのです!
1990年当時、チーワン先生が所属していた、タイの子どもの本専門出版部門としてポンアノン・ニヨムカー先生たちがたちあげた「プレーオ・プアンデック」には、日本から当時福音館書店の社長でいらした松居直先生が相談指導役に入っておられました。
チーワン先生がこの絵本のアイディアとキャラクターの下書きを何枚か見せたところ、松居先生は、こうおっしゃったのだそうです。
「イーレーンケーンコーンは音を楽しむ作品だよね」
・・・・・
松居先生はとてもことばが少なく、これしかおっしゃらなかった。
チーワン先生は最初なんのことかわからなかったそうです。
ところが、当時、プレーオプアンデックは日本の絵本の翻訳も手掛けていました。
それがチーワン先生の目を開かせてくれたのです。
その二冊が、五味太郎さんの『みんなうんち』と『おなら』です。
チーワン先生は気がつきました。
『みんなうんち』は形を楽しむ絵本、『おなら』は音を楽しむ絵本だ、と。
そこから、キャラクターのガチョウのレーンくんの絵も定まりました。
音を聴いてもらうために、シンプルなものに、と。
松居先生は、『私のことば体験』という本の中で、幼いころに「読んだのではなく聞いた―それが、私のことばへの感覚を開いてくれました」
と書いていらっしゃいます。
こういう気持ちをお持ちだからこそ、松居先生からこういう示唆が出たのではないでしょうか
それともう一つ、チーワン先生がやはりタイの代表的絵本作家のおひとりクルーク・ユンパン先生文、プリーダー・パンヤーチャン先生キャラクターデザインでチーワン先生が絵を描かれた共作の、
『グラドゥック・グラディック・グラドック・グラデック(バッタがぴょんぴょん)』という絵本があります。
このお話は私たちバンコク子ども図書館でも大型ペープサートにおこして、何度も上演しました
私がいた当時は私がぴょんぴょんはねるバッタ役で、バッタをやらせたら右に出るものはいないとか(冗談です)。
あくびをした瞬間にバッタをのみこんでしまったおばあさんが、バッタを止めようと次々いろいろな動物をのみこんでいくのに、バッタは全然やられないで、
「グラドゥック(ぴょん!)グラディック(ぴょん!)グラドック(ぴょん!)グラデック(ぴょん!)」
とおなかの中でとびはねるのです。
(バッタの棒をもってとばしている私の手と頭の先が映ってます)
この絵本は、もとはイギリスの童謡『ハエをのみこんだおばあさん』だったのを、タイふうに改変したと、絵本のあとがきに書いてあったのですが、なんとそのもとの絵本を見せてくださいました。
タイふうに改変というので、人物や風景のことかと思っていましたが、なんと原作には最後はいろんな動物をのみこんだおばあさんが死んでしまうのだそうです。
それを、タイ版では、おばあさんが水を飲んで、どばーっとみんな最後にあふれ出てしまう。という終わり方にしたそうです。
チーワン先生は原作を読んだとき、
「えっおばあさんが死ぬ必然性がないんだけど。聴いている子どもたちも楽しい気分にならないだろう」
と思われて、最後はおばあさんはあくびをするときに、手で口をおさえるようになった、という終わり方にしたそうです
私たちのペープサートでは、最後に演じ手が自分の手を出しておばあさんの口をおさえます。
というふうに、ほかにもたくさんのお話が聴けました。
研究目的などで、アーカイブをご覧になりたい方は、マレットファンさんにご連絡くださいとのことです。
(最後にマレットファンさんのウェブサイトをご紹介します)
このほか、チーワン先生が現在とりくんでいらっしゃる「旅する図書館(移動図書館活動)」は若いころ参加していたポータブルライブラリー活動がヒントになっている、ということをご自身からおうかがいできたこともよかったです。
日本語にもなっている『じいちゃんのながいひげ』の原画を2008年のブックフェアのブースで見ました。
チーワン先生が絵本の絵のレイアウト、表現方法や伝え方についての姿勢が決まった1冊だそうです
私のブログのこちらもよかったらご参考になさってください。
チーワン先生とポータブル・ライブラリーの関わりについて
このブログに関連した本です。