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進撃の庶民に投稿したコラム。投稿先はこちら、及びこちら
増税+社会保障維持の理論およびその批判
今回、安倍氏自身が「消費税増税確約」を主張して総選挙に臨むことになり、これまで先送りを重ねてきた消費税増税が決行されてしまう危険が高まっている。
ここで、「増税+社会保障維持」という財務省の路線が、なぜ日本の経済学者に支持されるのかについて、簡潔に整理しておこう。
まず、日本の経済学者は、今の政府債務は維持不可能なまでに大きく、財政赤字の削減によって安定化させるか、高インフレによって減価するかのいずれかしかない、と考えている。
(これは横断性条件の考え方で、最近では経済学的財政破綻論の批判的検討というnoteコラムで解説した)
そして、現行の社会保障は、国民の厚生上は維持すべきものである、と日本の経済学者の多くは評価している。
こうした議論前提を置くと、高インフレを避けつつ、社会保障を維持するには、増税する他ないという結論が導かれるのである。
(経済学者にとって)少なすぎる課税は、社会保障の維持の不安にもなり、そうした将来不安こそが消費低迷の原因である、とまで論ずるのである。この枠組みをもとに、増税による社会保障の安定化は、現在の消費を回復することができる、とさえ主張する。
こうした理論の問題は、「現行の累積財政赤字が、放置によって高インフレを起こすほど過大かどうか」について、本当に正しい客観的評価が出来ているのか、というところにある。
先述のコラムでも触れた部分なのだが、累積財政赤字とその増加スピードはこの2、30年ほど大して改善する様子はない。であるにも関わらず、日本の経済学者が予想したような高インフレには全く至っていない。
この事実は、「累積赤字が過剰である」という命題に対して疑問符をつきつけることになる。
むしろ、長期不況においては、政府は大きい財政赤字形成を要請されるのであり、現在が低インフレである以上、むしろ現行の財政赤字は小さすぎる、と考えることも出来る。
もしこの考えが正しい場合は、財務省ないし経済学者の現行の政策志向(増税+社会保障維持)は、財政赤字の水準を"過少"にしてしまうことになり、不況を確実に悪化させることになってしまうだろう。
減税を主軸にした財政政策論がだめな理由
減税を主軸にした財政政策の問題の一つは、どうしても財政(赤字)拡張が頭打ちになることである。
そうなると、名目GDPへの効果も漸減していき、望ましい名目GDP成長経路に乗ることが出来ない。
NGDPを恒久的成長経路に乗せるには、恒久的な財政拡張が基本的に必要である。
そのためには、支出が主軸の財政政策が必要になるのだ。
リフレシンパには少なからず、減税主軸を称揚する向きがある(支出拡大よりも、減税を強調しがち)のだが、彼らがそう主張する理由としては、「減税は恒久的拡張を実現できない」という事実に対する無知が理由である場合と、「そもそも財政刺激は一時的で良い」という見解が理由である場合がある。
例えばクルーグマンもRethinking Japanで見るように、短期的な財政拡張による流動性の罠脱却を主張している。
しかし、クルーグマン自身の流動性の罠論を「内生的貨幣供給」の観点から展開すれば、不況下でマネーサプライを追加するのはあくまで財政赤字である(中央銀行ではない)ので、将来のマネーサプライの水準予想は、財政赤字の予想に依存することになる。
したがって、一時的な財政刺激は、クルーグマンの理論における「一時的なマネーサプライの追加」と同じで、経済への効果が極めて小さくなる。(クルーグマンが「財政出動は一時的で良い」という誤った結論を導いたのは、「貨幣外生説」という誤った前提を置いてしまっているからだ)
内生的貨幣供給に則った調整インフレ政策のためには、将来に渡る恒久的な財政政策が必要不可欠になる。
「なぜ異次元緩和が失敗に終わったのか」でクルーグマンの不況モデルを解説したのだが、その中の提案は、「将来のマネーサプライを引き上げることで、インフレ予想を引き上げる」というものである。そして、信用創造の罠の中で将来のMSにアクセスできるのは財政政策しかない。
リフレシンパの多くは「信用創造の罠の中では将来のMSにアクセスできるのは財政政策だけ」ということが分かっていない(信用創造の罠という言葉を広めた井上智洋先生の本を読んでも理解していない…)ので、減税主軸の姑息的財政政策を論じてしまうというミスを犯しているのである。