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本の虫凪子の徘徊記録

新しく読んだ本、読み返した本の感想などを中心に、好きなものや好きなことについて気ままに書いていくブログです。

【再読】  荒木飛呂彦『STEEL BALL RUN ジョジョの奇妙な冒険Part7』14~16 集英社文庫(コミック版)

 

昨日に引き続き、ジョジョ再読。

ラスト3巻です。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

14巻から、とうとうジョニィ・ジャイロVS大統領戦が始まります。遺体の力のバックアップを受けてより強力になった大統領を相手に、苦戦を強いられる二人。攻撃が無効化されてしまうせいで、どんどん追い詰められていきます。

この大統領ちょっと強すぎです。自分への攻撃を世界のどこかに飛ばせるとか、もうズルですよズル。ジョニィの攻撃のせいで無関係の人々が死んでいく様子が描かれるのも見ていてキツい。

もう勝てない!と弱音を吐くジョニィをジャイロが激励するシーンは、本当に格好良かったです。好きな場面です。

15巻。ジャイロ死亡。
最期までブレずに格好良かった。男の中の男です。
呆然とするジョニィの回想シーンにしれっと挟み込まれる「オレのクマちゃんの…腕がもげた…」にはふふっとなります。
そしてジョニィの鉄球→爪弾の攻撃。
完全な回転を受けた大統領が、D4Cで逃げることもできず何度も生き埋めにされるのは、終わりのない悪夢のようでゾッとするシーンです。ボスの最期を思い出しました。

そしてようやく大統領も死亡。やっぱり信用できない奴でした。
彼は高潔さとゲスさを違和感なく兼ね備えた、何とも言えない味のあるキャラクターでした。共感はできませんが、彼の大義名分自体もある意味理にかなっていたと思います。実際、ジョニィもだいぶ揺らいでいましたし。でも結局最後に撃っちゃうのが大統領なんですよね。
悪人では、まあ、ないのかな。どうでしょう。
彼のパパも大概ヤバい奴です。メンタルが強靭すぎて、一周回って恐怖すら覚えるレベル。

そして最終巻。
ようやくレースに戻って来ました。もうここまで来ると「スティール・ボール・ランレース?ああなんかそんなのの途中だったっけ……」みたいな気になってきます。でもやっぱり、実況が入るとテンションが上がります。

遺体を奪い、最後にジョニィの前に立ちふさがったのは、大統領が異世界から連れてきたディエゴ・ブランドーです。
個人的にディエゴの能力は恐竜化の方が好みですが、「THE WORLD」も格好良い。胸熱。
同じ時止め能力でも、DIO様よりディエゴの方が使い方はこじんまりしてます。トラップや小道具を駆使する感じ。無意味に階段を上らせたり下ろしたりもしません。
ジョニィVSディエゴは、ディエゴの方が一枚上手でした。が、最終的に彼の完全勝利はルーシーの手で阻まれます。
この子の覚悟と度胸は間違いなく作中でもトップレベル。夫のスティールの方もです。この夫婦が最後の最後で良い所をかっ攫っていきました。

レースの優勝者は順当にポコロコ。
遺体はシェルターに保管。
ジョニィがジャイロの遺体を彼の故郷に届けるため、船に乗るところで物語は終わります。

いやー長かった。

久しぶりに読み返しましたが、楽しかったです。
ちなみにジョニィのスタンド、「タスク」はACT1が一番好きです。可愛いので。4までいくと、なんかもう、ごついうえに殺意がすごくて怖い。ナイスデザインですけど。

またそのうちに他の部も読み返したい。
それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

 

 

【再読】  荒木飛呂彦『STEEL BALL RUN ジョジョの奇妙な冒険Part7』10~13 集英社文庫(コミック版)

 

ちょっと時間が空きましたが、ジョジョ7部の続きを。

そろそろ終わりが見えてきました。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

このあたりで登場人物も出揃い、また物語が大きく動きます。

それでは早速、感想の方を簡単に。

10巻はウェカピポ&マジェント・マジェント戦→シビル・ウォー。シビル・ウォーは肉体だけでなく精神にまでダメージを与えてくるタイプの厄介なスタンドで、ジョニィも苦戦します。
ホット・パンツに「必ず助けてやる」と繰り返すジョニィ。以前からも彼はちょくちょくホット・パンツを気に掛けていたように思います。初見時は押し倒した時に完全にそういうフラグが立ったと思っていたので、これ以降二人が特に絡むことなく終わってしまったのには驚いた記憶が。
シスター・ホット・パンツに声をかけたジャイロが地味に420しているのが個人的に好きなポイントでした。

11巻で好きなのはルーシーとスティーブンの関係が描かれている場面ですね。この二人の恋人でも親子でもない微妙な距離感が最高にツボ。
大統領の背中の傷跡については小一時間問い詰めたいところです。どうやったらそんな星条旗みたいになるの。

マジェント・マジェントはなー。キャラデザは凄く良いのに中身が小物なのがなー。
でもそこが魅力的で好きです。末路も含めて。

12巻は冒頭のディエゴから始まる人物紹介の画がオシャレ。ポーズとカメラ目線でバッチリキメているウェカピポ(31)と、その後ろで死体のように転がっているスティーブン・スティール(53)の構図が結構愉快です。
本編の流れはチョコレート・ディスコ→D4C。

チョコレート・ディスコはアニメ化したらかなり映えるんじゃないでしょうか。ジャイロの勝ち方にも納得できますし、良いマッチングだったと思います。
ディ・ス・コ本体の印象は若干薄めですが、これは喋らないのに加えて多分服装のせいもあるのかな。奇抜な格好、髪型のキャラが多いせいで、露出度低いまともな服を着ていると一気に影が薄くなってしまうという悲劇。左腕のガチャガチャしたやつは格好良いんですけどね。

そして明らかになった大統領のスタンド「D4C」。いやー強い。パラレルワールドを持ち出してくる辺りがもう完全にラスボス。
ウェカピポ退場は残念です。良い人だったのに。
ディエゴは最初滅茶苦茶焦っていたのにも関わらず、最終的には大統領の能力を理解した上で生還するのが流石ですね。状況把握と判断が早い上に他人を犠牲にすることに微塵も躊躇いがない。邪悪です。

13巻は、もうとにかく、ディエゴとホット・パンツのタッグが本っ当に好き。
即席のコンビとは思えないほどの華麗な連携プレーを見せてくれます。サポートもこなせる肉スプレー、やっぱり優秀。
しかし結果は敗北です。ディエゴの体両断もかなりエグいですが、ホット・パンツの「窓枠が心臓に突き刺さる」はもっと怖い。想像しただけで心臓近くが痛くなってきます。
体がパズルのように組み変わっていくルーシーの方もだいぶ恐ろしい絵面になっていました。

とりあえず本日はここまで。
ホット・パンツ……推しが……。
全然触れませんでしたが、進化していくジョニィの能力やジョニィ、ジャイロの戦いも勿論面白かったです。
13巻のはじめの方、遺体を奪われて咽び泣くジョニィをジャイロが励ますところなんて、本当に良いシーンです。
時々挟まれる癒やしのシーンも好きです。クマちゃんを注文するジャイロとか、秘密を教え合うくだりとか。おまけの「7日で一週間」も。

残り3巻、そちらはまた別の日に。
ドロッドロの甘いコーヒー淹れてきます。
それでは今日はこの辺で。

 

 

 

 

 

【再読】  『グリム童話集 下』佐々木田鶴子訳 岩波少年文庫

 

昨日に引き続き、グリム童話を。

こちらの下巻にも、全部で二十五編が収録されています。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

『赤ずきん』
いくつかバージョンがありますが、こちらは狩人がオオカミの腹を裂いて赤ずきんとおばあさんを助け出したあと、「オオカミと七匹の子ヤギ」同様、代わりに石を詰めるパターンです。


『こびとのくつ屋』
くつ屋さんが夜眠っている間、こびとたちが代わりに仕事をしてくれるお話です。羨ましい。


『灰かぶり』
言わずと知れたシンデレラ。魔法使いは登場せず、ハシバミの木と鳥たちが灰かぶりをサポートしてくれます。姉二人が靴(ガラスではなく純金製)を履くために親指や踵を切り落とすバージョンです。


『ワラと炭とそら豆』
ワラと炭とそら豆が旅に出る話。ワラと炭は死にます。


『ヘンゼルとグレーテル』
こちらも有名ですね。ケーキの屋根に砂糖の窓、絶対ベッタベタだと思います。


『金のガチョウ』
こびとに親切にした男が、金のガチョウを手に入れ、幸せになるお話です。


『ミソサザイとクマ』
ミソサザイとクマの喧嘩が、鳥や虫VS獣の戦争に発展するお話。勝ったのはミソサザイ。


『森の中の三人のこびと』
継母にいじめられていた娘が、こびとたちに親切にした結果、王妃にまで出世するお話です。


『ガラスびんの中のばけもの』
賢い若者がガラスびんのに封じられていた魔物(メルクリウス)とうまく取り引きし、傷を治したり物を銀に変える力を持つ不思議な布切れを勝ち取りました。『アラビアン・ナイト』にも似たような話がありましたね。


『三枚の羽』
国王の三人息子のうち、ぼんやり者の末王子が、羽の導きとヒキガエルの助けで父王の試練を突破していくお話です。


『ヨリンデとヨリンゲル』
ヨリンゲル(美青年)が、魔女に連れて行かれた恋人のヨリンデ(美女)を取り返しに行くお話。


『三つのことば』
スイスの伯爵子息が、犬語・鳥語・カエル語を駆使して法王になるお話です。


『金の鳥』
金の鳥の他、金の馬や金のお城も出てきます。
誠実、と見せかけてキツネの言いつけをことごとく無視して窮地に追い込まれていく末王子にはビックリです。それでも助けてくれるキツネ(中身は別の城の王子)にもビックリ。私だったら怒っちゃいそう。


『まずしい人とお金持ち』
神様に親切にした貧乏な夫婦は祝福を受けて幸せに暮らしましたが、けちな金持ちの方は欲のために散々な目に遭います。


『名人の四人兄弟』
それぞれ泥棒、星占い師、狩人、仕立て屋としての道を極めた四人の兄弟が、協力して竜にさらわれた姫を救い出し、褒美として国の半分を貰って仲良く幸せに暮らすお話です。


『ロバの王子』
ロバの姿で生まれた王子のお話です。最終的には人間の姿に戻ります。


『悪魔のすすだらけの兄弟』
ある兵隊の男が、七年間地獄で悪魔の下男として働き、その後出世して王様になるお話です。地獄なのに働いたぶんのお給料は出るんですね。しかも結構高給です。


『千匹皮』
亡くなった妃に似ているからと、実の娘を後妻にしようとした王様には驚きます。それを聞いて逃げ出した姫が、別の国の王妃になるまでのお話になります。千匹の獣の毛皮で出来たもじゃもじゃマントがトレードマーク。


『ゆうかんな仕立屋さん』
ハッタリで大男を倒したり一角獣を捕まえたりする仕立て屋さんが強すぎる。肝の座りようが尋常じゃないです。


『六羽の白鳥』
呪いで白鳥に変えられた六人の兄王子と末のお姫様のお話です。兄たちの呪いを解くため、何年も沈黙を保ち続けていた姫の健気さが立派。メンタル強いなあ。


『かしこいお百姓の娘』
頭の良すぎる百姓娘のお話。これは王様が惚れるのも納得です。イイ女。


『ハチの女王』
三人兄弟の末王子が、命を助けたアリやカモ、ハチの手助けを受けてとあるお城の石化の呪いを解くお話です。


『マレーン姫』
愛する人への操のために真っ暗な塔に七年間も閉じ込められ、出てからも貧しく苦しい暮らしを強いられたマレーン姫。一途で健気すぎて泣けてきます。幸せになってくれて良かった。
偽の花嫁が首を刎ねられたのはちょっと可哀想でした。


『星の銀貨』
信心深い女の子のお話。天涯孤独でお金もなく、着ているものの他には貰い物のパン一つしか持っていないのにも関わらず、乞われれば何でも人にあげてしまい、最終的には肌着まで他の子どもにあげてしまいました。
降ってきた星が銀貨に変わり、彼女を助けます。


『ふたりの兄弟』
少し長めです。双子の狩人の冒険話。弟は竜を退治してお姫様と結婚する王道主人公で、兄はそんな弟の窮地を颯爽と救う役回りです。お供の動物たちのわちゃわちゃした感じがかわいい。

以上、二十五編でした。

一つのお話が短いぶん、サクサクと読むことができます。昔は『悪魔のすすだらけの兄弟』『千匹皮』『マレーン姫』『二人の兄弟』が特に好きで、そればかり繰り返して読んでいました。

 

本日も良い読書時間を過ごすことができました。

それでは今日はこの辺で。
 

 

 

 

 

 

【再読】  『グリム童話集 上』佐々木田鶴子訳 岩波少年文庫

 

ふと読みたくなり、本日はこちらの作品を再読しました。

ドイツ生まれのグリム兄弟が編纂した昔話集を元に作られた、子供向けの童話集になります。世界各国で多くの人に親しまれている有名なお話が多数収録されています。

岩波少年文庫から出ているので、字も大きく、漢字も少なく、非常に読みやすいです。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

ここからは収録作品について、感想などを簡単に書いていきたいと思います。

上巻には全部で二十五の作品が収録されています。

『オオカミと七匹の子ヤギ』
有名なお話です。オオカミのお腹に石を詰めるのがちょっとエグい。

『ブレーメンの音楽隊』
ロバ、犬、ネコ、オンドリが出てきます。保育園児だった頃に妹が劇でこれをやっていたのを思い出しました。懐かしい。ちなみに泥棒役でした。

『カエルの王様』
泉に落ちたまりを拾ってくれたカエルに対し、気味悪がって冷たい仕打ちをするお姫様。カエルが美しい王子だと分かった途端、コロッと態度を一変させます。正直だなー。

『おいしいおかゆ』
魔法の鍋のせいで、町中がキビのおかゆでいっぱいになってしまうお話です。

『白雪姫』
こちらも有名。胸紐や櫛で二度殺されかけているにも関わらず、毒リンゴを食べてしまう白雪姫。こびとたちからあんなに戸締まりには気をつけろと言われていたのに。割と欲望に忠実です。

『しあわせハンス』
逆わらしべ長者。目先の欲のために大きな金塊を馬と交換し、更にその馬を牛と交換し、そこから豚→ガチョウ→石とランクダウンして最終的には手ぶらになります。しかしそれでもずっと幸せそうなハンス。案外これくらい愚かな方が人生楽しいのかもしれません。

『ひょろひょろ足のガタガタこぞう』
こびとの本名を当てる、名当て系のお話です。その本名が「ひょろひょろ足のガタガタこぞう」。命を助けてやった見返りの約束を反故にされ、情けをかけたら自分の首を絞める結果になったこびと、哀れ。

『いばら姫』
あれです、「眠れる森の美女」。こちらでは魔女ではなく仙女という訳になっています。

『命の水』
父王の病を治すため、命の水を探しに出かけた王子たちのお話です。主人公の末弟は上二人の悪巧みで手柄を横取りされましたが、最終的には名誉を挽回できたのでめでたしめでたし。

『親指こぞう』
百姓の息子(親指サイズ)の、スケールの小さな大冒険のお話。

『ガチョウ番の娘』
お付きの女官に裏切られ、王子様の花嫁の座を奪われてしまったお姫様のお話です。ガチョウ番として働いていましたが、真実が明らかになったことで無事、王子様と結婚することができました。

『ものしり博士』
とあるお百姓が医者になりすまし、度胸と幸運で多額の金を手に入れるお話です。下巻にある「ゆうかんな仕立て屋さん」もそうですが、こういう勝手に周りの勘違いが加速していくタイプのお話は大好きです。

『歌いながらはねるヒバリ』
三人姉妹の末娘が、歌いながらはねるヒバリを欲しがったことから始まるお話。ヒバリと引き換えにライオン(中は王子)と結婚した末娘がかなり強かです。ハトに変わった夫を追って七年間も休まず歩き続けたり、夫と竜の戦いに参戦したり、夫を連れ去った王女から彼を奪い返したり。格好良すぎです。

『ホレばあさん』
継母に虐められている美しい娘が、ホレばあさんという不思議なおばあさんの家で働き、たくさんの金を与えられて帰ってくるお話です。継母の実子である怠け者の娘も行きましたが、真面目に仕事をしなかったのでコールタールまみれにされました。

『兄と妹』
魔法でシカに変えられた兄と、美しい妹のお話。妹は王様と結婚した後で悪い魔女に殺されてしまいましたが、最後には生き返り、兄の方も人間の姿に戻りました。

『テーブルとロバとこん棒』
とある三人兄弟がそれぞれ奉公先で、ごちそうを出すテーブル、金貨を出すロバ、勝手に悪人を叩くこん棒を手に入れます。兄二人は悪い宿屋の主人にその宝物を騙し取られてしまいましたが、こん棒を持つ末弟が相手を叩きのめし、無事にテーブルとロバを取り戻して兄たちに返しました。

『ラプンツェル』
妊娠中の女が魔女からラプンツェル(サラダ菜)を盗んで食べたことから始まるお話です。ディズニー映画の華やかな感じはあまりありません。美しい娘のラプンツェルが魔女に髪の毛を切られて荒野に放り出され、そこで双子を出産したり、王子の目が見えなくなったりします。
最後はハッピーエンドです。

『フリーダーとカーターリースヒェン』
常識人な夫とぼんやりした奥さんのお話。夫の方が始終奥さんに振り回されっぱなしです。戸締まりをしてこいと夫に言われ、「わかった、戸が大事なのね!!」と迷わず家の戸を外して持って行くカーターリースヒェン、やばいです。

『三本の金の毛のある悪魔』
お姫様と結婚するため、ある若者が悪魔の金の毛を取りに行くお話です。この若者すごい賢い。ラストの皮肉っぽいオチが好き。

『漁師とおかみさん』
一言で表すと、人間の欲には際限がない、というお話です。誰もが全知全能になりたいと思っているわけでもないでしょうが。

『白ヘビ』
白ヘビを食べたことで動物の言葉が分かるようになった若者のお話です。動物たちの手助けで試練を乗り越え、お姫様と結婚しました。

『ツグミひげの王さま』
父王の命で物貰いの楽師と結婚させられた、うぬぼれ屋のお姫様。その楽師が実は立派な王様だった、というお話です。高慢なお姫様が惨めな暮らしで心折られ、しかも貧乏楽師と思っていた夫はかつて自分が袖にした王様だったというシチュエーション、こういっては何ですが滅茶苦茶性癖に刺さります。

『鉄のストーブ』
鉄のストーブ(中身は王子)ととあるお姫様のお話です。わがままな箱入り娘かと思いきやどんどん勇ましくなっていくお姫様、愛する人のためとはいえ、三本の針でガラスの山を登っていくのには驚きました。すごいクライミング技術です。

『錘と梭とぬい針』
働き者の娘が、王子様の花嫁になるお話。ちなみに梭はシャトルのことらしいですね。

『六人の家来』
とある王子が、美しいお姫様と結婚するために六人の家来と協力して魔女の試練を突破するお話です。家来たちの個性が強め。

以上、全部で二十五編です。
最後の解説では、それぞれのお話の元となった各地の伝承や、時代背景、暗喩の解説などが簡単に纏められています。
『ひょろひょろ足のガタガタこぞう』のこびとの本名は原文では「ルンペルシュティルツヘン」だそうです。それから『フリーダーとカーターリースヒェン』はラストがここでは一部割愛されているとか。

私が上巻で一番好きなお話は『漁師とおかみさん』ですね。シンプルでやや教訓的。

下巻の方も読み直したいと思います。
それでは今日はこの辺で。

 

 

 

 

 

【再読】  ウィリアム・シェイクスピア シェイクスピア全集『リア王』小田島雄志訳 白水Uブックス

 

本日はこちらの作品を再読しました。

シェイクスピア四大悲劇の一つ、『リア王』です。

読み返すのは久しぶり。

それでは早速、感想の方を書いていきたいと思います。

 

以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。

 

舞台となる地域はリアが治めるブリテンです。

 

開幕からグロスター伯爵がゲスい。自身の私生児のエドマンドをケント伯爵に紹介するシーンですが、母親が美人で「さんざん楽しい思いをした」とか、「妾腹とはいえ、認知せざるをえなかった」とか、本人もいるのに全く遠慮せずに言っちゃってます。
正直者なだけで、悪い人ではないんですけどね。これでも作中ではかなり良い人の部類です。

そしてリア王登場。
第一幕第一場、財産分配に際して、彼は三人の娘たちに自分への愛情の深さを尋ねます。
姉二人は言葉の限りを尽くして父親への愛の言葉を並べ、見事に肥沃な領土を勝ち取りましたが、末娘のコーディーリアは、自分に夫ができたら愛を父親のみに捧げるわけにはいかなくなる、と正直に伝えます。それを聞いてリア王は激おこ。可愛さ余って憎さ百倍の典型例です。期待を裏切られて傷ついた彼は娘を憎み、与えるはずだった財産も取り上げてしまいました。

コーディーリアの誠実さは立派ですが、ちょっと言葉が足らなかったかもしれません。
【コーディーリア
私はお父様を愛しております、子の務めとして。それ以上でも以下でもありません。】
なんでこんな素っ気ない言い方したんです?
お世辞を言わない正直さは確かに美徳ではありますが、可愛い娘から世界で一番大好きだと言われたかったパパの気持ちも、もう少し汲んであげても良かったのでは。それに老いた父親(癇癪持ち)、しかも王様なんて、爆発したら大惨事になるのは分かりきっていたでしょうに。

父王から見放されたコーディーリアをあえて妻に迎えたフランス王は格好良すぎて震えます。
【フランス王
美しいコーディーリア、あなたは富をなくして

もっとも富み、見捨てられてもっとも見なおされ、

愛を失ってもっとも愛されるようになられた!

あなたのその汚れなき心ともども抱きしめよう、

捨てられたものを拾うのだ、罪にはなるまい。

ああ、神々よ、冷たい仕打ちを受けたものが、

不思議なことに私の胸に熱い愛の火をつけた。

ブリテン王、財産もなく私の手に飛びこんだ姫を、

私の、わが国民の、わがフランスの妃に決めます。】
こんな熱烈なプロポーズ他にあります?
コーディーリアのもう一人の夫候補だった(それまで熱心に求婚していたにも関わらず、持参金がないと分かった途端あっさり彼女を見捨てた)バーガンディ公とは大違いです。
フランス王これ以降出てきませんけども。

全体的に、気の短い人が多いです。姉二人やコーンウォール公爵も根っこから邪悪なわけでは決してないはずですが、言うことなすことがどんどん苛烈になっていき、最終的にはだいぶ外道っぽくなってしまいます。まあこの辺りはほぼエドマンドが悪い気もしますが。彼の野心のせいで多くの人間が人生を滅茶苦茶にされました。

全てを失い狂気に取り憑かれたリア王が終盤でコーディーリアと再会し、父娘として和解したシーンは何度読んでも感動します。
それだけに第五幕は本当にキツい。
コーディーリアが死んじゃうのは絶対おかしいって。何でよー。ケント、エドガー、オールバニの良心組が生き残るならコーディーリアだって生きてて良いでしょうよー。
グロスターも姉二人もエドマンドもリア王も死にました。
リア王の最期はかなり壮絶で、流石に一番印象に残ります。この王様は基本的にずっと嘆いていましたが、コーディーリアを失った、死に際のこの嘆きが最も悲痛そうです。こっちも辛い。

戯曲作品としての見所は、嵐の荒野を彷徨うリア王の狂乱ぶりなのかもしれませんが、個人的には姉二人やエドマンドが悪巧みをしている場面の方が好きです。
我ながら浅い。
好きな登場人物はこの三人と王の道化です。道化の悪口は切れ味が鋭くて大好き。それからコーンウォール公爵に斬りかかった召使い1と、グロスターの手を引いてくれた老人も好きです。義理堅い人たちでした。

以上。
相変わらず、本編後の解説が面白いです。演劇としての上演史や批評史、材源である『レア王』についての説明などがあり、こちらも合わせて読むことでより作品への理解が深まるような気がします。
シェイクスピア作品の中でも割と読みやすい部類に入ると思うので、読んだことのない方は、ぜひ。

それでは今日はこの辺で。