【再読】 ウィリアム・シェイクスピア シェイクスピア全集『リア王』小田島雄志訳 白水Uブックス
本日はこちらの作品を再読しました。
シェイクスピア四大悲劇の一つ、『リア王』です。
読み返すのは久しぶり。
それでは早速、感想の方を書いていきたいと思います。
以下、内容についての記載あり。未読の方はご注意ください。
舞台となる地域はリアが治めるブリテンです。
開幕からグロスター伯爵がゲスい。自身の私生児のエドマンドをケント伯爵に紹介するシーンですが、母親が美人で「さんざん楽しい思いをした」とか、「妾腹とはいえ、認知せざるをえなかった」とか、本人もいるのに全く遠慮せずに言っちゃってます。
正直者なだけで、悪い人ではないんですけどね。これでも作中ではかなり良い人の部類です。
そしてリア王登場。
第一幕第一場、財産分配に際して、彼は三人の娘たちに自分への愛情の深さを尋ねます。
姉二人は言葉の限りを尽くして父親への愛の言葉を並べ、見事に肥沃な領土を勝ち取りましたが、末娘のコーディーリアは、自分に夫ができたら愛を父親のみに捧げるわけにはいかなくなる、と正直に伝えます。それを聞いてリア王は激おこ。可愛さ余って憎さ百倍の典型例です。期待を裏切られて傷ついた彼は娘を憎み、与えるはずだった財産も取り上げてしまいました。
コーディーリアの誠実さは立派ですが、ちょっと言葉が足らなかったかもしれません。
【コーディーリア
私はお父様を愛しております、子の務めとして。それ以上でも以下でもありません。】
なんでこんな素っ気ない言い方したんです?
お世辞を言わない正直さは確かに美徳ではありますが、可愛い娘から世界で一番大好きだと言われたかったパパの気持ちも、もう少し汲んであげても良かったのでは。それに老いた父親(癇癪持ち)、しかも王様なんて、爆発したら大惨事になるのは分かりきっていたでしょうに。
父王から見放されたコーディーリアをあえて妻に迎えたフランス王は格好良すぎて震えます。
【フランス王
美しいコーディーリア、あなたは富をなくして
もっとも富み、見捨てられてもっとも見なおされ、
愛を失ってもっとも愛されるようになられた!
あなたのその汚れなき心ともども抱きしめよう、
捨てられたものを拾うのだ、罪にはなるまい。
ああ、神々よ、冷たい仕打ちを受けたものが、
不思議なことに私の胸に熱い愛の火をつけた。
ブリテン王、財産もなく私の手に飛びこんだ姫を、
私の、わが国民の、わがフランスの妃に決めます。】
こんな熱烈なプロポーズ他にあります?
コーディーリアのもう一人の夫候補だった(それまで熱心に求婚していたにも関わらず、持参金がないと分かった途端あっさり彼女を見捨てた)バーガンディ公とは大違いです。
フランス王これ以降出てきませんけども。
全体的に、気の短い人が多いです。姉二人やコーンウォール公爵も根っこから邪悪なわけでは決してないはずですが、言うことなすことがどんどん苛烈になっていき、最終的にはだいぶ外道っぽくなってしまいます。まあこの辺りはほぼエドマンドが悪い気もしますが。彼の野心のせいで多くの人間が人生を滅茶苦茶にされました。
全てを失い狂気に取り憑かれたリア王が終盤でコーディーリアと再会し、父娘として和解したシーンは何度読んでも感動します。
それだけに第五幕は本当にキツい。
コーディーリアが死んじゃうのは絶対おかしいって。何でよー。ケント、エドガー、オールバニの良心組が生き残るならコーディーリアだって生きてて良いでしょうよー。
グロスターも姉二人もエドマンドもリア王も死にました。
リア王の最期はかなり壮絶で、流石に一番印象に残ります。この王様は基本的にずっと嘆いていましたが、コーディーリアを失った、死に際のこの嘆きが最も悲痛そうです。こっちも辛い。
戯曲作品としての見所は、嵐の荒野を彷徨うリア王の狂乱ぶりなのかもしれませんが、個人的には姉二人やエドマンドが悪巧みをしている場面の方が好きです。
我ながら浅い。
好きな登場人物はこの三人と王の道化です。道化の悪口は切れ味が鋭くて大好き。それからコーンウォール公爵に斬りかかった召使い1と、グロスターの手を引いてくれた老人も好きです。義理堅い人たちでした。
以上。
相変わらず、本編後の解説が面白いです。演劇としての上演史や批評史、材源である『レア王』についての説明などがあり、こちらも合わせて読むことでより作品への理解が深まるような気がします。
シェイクスピア作品の中でも割と読みやすい部類に入ると思うので、読んだことのない方は、ぜひ。
それでは今日はこの辺で。