ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典11(10人目)

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目13時半

 

【アリョーシャ一覧】

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(序)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目11時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目16時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目19時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目早朝~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目13時半~)

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目14時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目20時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目18時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日1)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日2)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判当日~)~

 

 

 2日目13時半

 アリョーシャ:「ぼくの心って底が浅いんだな」

 2日目13時半:アリョーシャは、カテリーナに事の顛末を伝えようとして、ホフラコーワ夫人の家へ向かう。夫人が言うには、カテリーナがひどく衰弱して正気にもどらず、ゲルツェンシトゥーベ先生が来るのをみんなで待っているとのことだった。そして、手が離せないので、ちょっとリーズの相手をしておいてほしいと言う。「早くリーズのところへ行ってあの子を元気づけてくださいね」「ほうら、あなたがあんなにいじめたアレクセイさん、ここにお連れしましたよ」と、リーズの部屋へ案内された。

 リーズは恥ずかしいのか、まるで無関係なことをやたら早口で話し出し、二百ルーブルの行方を問う。アリョーシャも、同様の思いからつとめてそっぽを向き、無関係なことを話そうとした。しかし、話し始めるとすぐに夢中になり、すっかりリーズを魅了した。「二人とも、ふいにまた二年前のモスクワ時代に戻ったような気分になった」。二等大尉は、お金を受け取るときに、あまりに正直に喜んでしまい、「自分の心をすっかりさらけだしてしまったことが、急に恥ずかしくなった」のだ。それに加えて、自分が「お金は必要なだけ貸してあげられますから」と、恩着せがましくしゃしゃり出たこともいけなかった。でも、「あの人はもう自分の高潔さを証明して、お金を踏みにじって見せた」のだから、このあと彼に二百ルーブル受け取らせるのは実に簡単なことだ。「明日の朝になれば、すぐにもぼくのところへ駆けつけてきて、心から詫びを入れたい気持ちになるでしょうね。そこへねらいすましたように、ぼくがいきなり現れるわけです」などと、酔ったような口ぶりで得々として語った。それに対して、リーズは、「どうしてあなた、そんなふうに何もかもわかるの? そんな若さで、人の心が読めるなんて……」「あたしたちの考えに、あの、かわいそうな人に対する軽蔑のようなものってまじってないかしら……あたしたち、さっきあの人の心のなかをあれこれ穿鑿したでしょう、一段高いところから見下すみたいに、ねえ? あの人はお金を受け取るって、はっきり決めつけたでしょう、ねえ?」と問うと、アリョーシャは待ち構えていたように、しっかりした口調で、軽蔑ではない、「ぼくの心って底が浅いんだな」と言った。

 

 リーズ:「お坊さんのくせに嘘を言ったのね?」

 リーズは、「ママが立ち聞きしてないか」見てきてほしいとささやく。だれもいないと答えると、真っ赤な顔で、「すごくだいじなことを告白しなくちゃいけないの。昨日のあの手紙、冗談じゃなく、本気で書いたの……」と言って、とつぜんアリョーシャの手をつかみ、三度はげしくキスをした。「ああ、リーズ、それならよかった」「あなたが本気で書いたってこと、ぼくも絶対に信じていましたけど」「確信してたですって、そんな!」「ぼくはいつも、あなたに好きでいてほしいんです、ぼくが信じてたってことが、ほんとうにいけないんですか?」「あら、アリョーシャ、そうじゃなくて、とってもいいことなの」。幸せそうに手を握るリーズの唇に、アリョーシャはいきなりキスをした。どぎまぎするアリョーシャに、「あたし恐いぐらい幸せなの」と言う。アリョーシャは、「世の中に出て、結婚しなくちゃいけない。それはぼくもわかってます。あの方もそう命令されたんですからね。あなた以上の人は他に見つけられませんし」とどこから他人事のように説明し、自分は「カラマーゾフ」であり、あなたは「心のなかでは殉教者みたい」だとも言った。

 そのあとも、「じつを言うと、君がぼくを……好きらしいことはわかってたんです。ただ、愛してないって言葉を信じているふりをしたんです」「もっと悪いわ! でも、最低だけど、最高でもあるわね。アリョーシャ、あなたのことがほんとうに好き」と、二人は幸せな時間を過ごした。「手紙」は実はポケットにあると言って取り出して見せるアリョーシャに、「お坊さんのくせに嘘を言ったのね?」「きっと嘘をいったんですね」と言い合った。

 

 アリョーシャ:「わかっているのは、ぼくもカラマーゾフの一人だってことです」

 リーズが、「ママが立ち聞きしてないかしら」と言うので、アリョーシャが見に行く。リーズが言うには、「娘を気づかって立ち聞きするのは、はしたないどころか母親の特権でしょう」ということらしい。ここでリーズが、アリョーシャに、最近の心配事以外に、「なにか特別に悲しみがおありなんでしょう。きっと、秘密の。でしょう?」と問う。「ええ、リーズ、秘密のもあるんです」と答え、後で話しますよと言う。兄たちが自分自身をだめにしようとしていること、ゾシマ長老がこの世を去ろうとしていることも心配だが、「わかっているのは、ぼくもカラマーゾフの一人だってことです」「ぼくはひょっとして、神さまを信じていないのかもしれない」と言った。リーズが「ねえ、わたしにキスしてくださらない、わたし、許してあげる」というので、アリョーシャがリーズにキスをして、部屋を出る。気まずいので、ホフラコーワ夫人のところへは行かない方がいいと思って、そのままこっそり家を出ようとすると、どこからともなく夫人が現れた。アリョーシャは、「わざと待ち伏せしていた」のだと悟った。

 

 ホフラコーワ夫人:「そこのところをよろしく」

 「アレクセイさん、ひどいですわ。あんなの子どものお遊びですよ」と言う夫人に、「まじめに話をしたんです」と答えると、「第一、わたし、あなたのことは今後ぜったい家にお通ししませんし、第二に、わたし、じきにあの子を連れてここを出ていきます、そこのところをよろしく」と怒っている。「あのお芝居でも娘の恋は母の死、とかありましたわね。さっさと棺桶に入りたい心境ですよ」と言う。さらに、手紙を見せろと迫って来る。アリョーシャは、カテリーナのことへと話をそらす。体の具合は相変わらずだということで、「その手紙を見せてくださいな。アレクセイさん。息絶えんとする大長老様の御名にかけて、母親のわたしに!」などと迫って来るので、「じゃあ失礼します!」と、逃げ出した。【⇒第5編:プロとコントラ1 婚約】