ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典6(10人目)

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目19時)~

 

【アリョーシャ一覧】

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(序)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目11時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目16時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目19時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目早朝~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目13時半~)

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目14時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目20時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目18時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日1)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日2)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判当日~)~

 

 カテリーナ:「あのお嬢さんは天使ですよ!」

 1日目19時ごろ:カテリーナの家に到着。二・三人の女があわてて広間から出て行ったので、来客中にぶつかったようだと、眉をひそめた。カテリーナとは、ドミートリーと一緒に三週間前にはじめて会ったが、高圧的な印象が強く、話がはずまなかった。しかし、今はそのときの印象が一変し、彼女の表情が「偽りのない素朴さと、率直で燃えるような誠実さ」に燃え、「光と未来への大きな信念に満ちあふれている」ものに感じられ、アリョーシャは魅了された。そして、カテリーナが、異様な興奮にかられているのを見て取った。ドミートリーが「くれぐれもよろしく」と念を押したことを伝えると、カテリーナは「わたしを助けてほしいの」と頼み、ドミートリーは興奮してわれを忘れていただけかもしれないと言う。アリョーシャも、「そうなんです、その通りなんです!」と熱くなってうなずいた。カテリーナは三千ルーブルをドミートリーが使い込んだことをすでに知っていた。そして、「あの人に恥と思わせないようにする」にはどうすればよいか心配しているのだと言う(ミスリード:カテリーナは、ドミートリーに三千ルーブルを手渡すとき、あなたはあの女と一緒になるための金を、自分が裏切った許婚から受け取れるほど恥知らずかしらという目で見つめた。ドミートリーは、その目を見つめながら、恥知らずの卑怯者であることを自覚しつつ受け取った。物語のクライマックスで明かされる)。カテリーナは、自分だけは友としてあの人に信頼してもらいたいのだと言い、「わたしはそれに値しないのかしら?」と涙を浮かべて語った。兄がグルーシェニカに夢中になっているという噂についてカテリーナに伝えると、カテリーナは「あなたのお兄さんは、その人と結婚なさいませんわ」と言う。「たぶん結婚すると思います」とアリョーシャが悲しそうに伝える(伏線)と、「あのお嬢さんは天使ですよ」と、部屋のすみに隠れていたグルーシェニカを呼び出す。

 

 グルーシェニカ:「ご自分の美しさをえさに……」

 イワンは彼女を「ケダモノ」と言っていたが、グルーシェニカは「世間なみ」の美人だった。アリョーシャには、その甘ったるいしゃべり方が、子どものような素朴でうれしそうな表情や目の輝きとは、「およそ相いれない、ありうべからざるもの」に思われた。カテリーナは、グルーシェニカをほめたたえ、将校への一途な愛と、将校からのプロポーズのことをしゃべり、手に三度キスをする。その姿を見たアリョーシャは、「ひょっとしたらあまりに夢中になりすぎているのかもしれない」と思った。その後、グルーシェニカはカテリーナとの「約束」を破り、さらに、「あなたはわたしの手にキスをした、でも、わたしはしなかった」と言い、「美しさをえさに」ドミートリーに四千五百ルーブル借りたことをからかう。カテリーナが、半狂乱になってわめきながら、グルーシェニカにつかみかかろうとするのを、アリョーシャが「何もしゃべらないで、何も相手にしないで」と止めた。グルーシェニカは、「アリョーシャさん、送ってったら! 帰り道、それはそれはすてきなことを教えてあげるから! アリョーシャさん、わたしが一芝居打ったの、みんなあなたのためよ」と言う。アリョーシャが背を向けると、グルーシェニカはけらけら笑いながら走り去った。泣きじゃくるカテリーナが、断頭台でグルーシェニカの首をちょんぎってやると言うので、思わずアリョーシャは後ずさりした(これ以降、カテリーナとグルーシェニカは、永遠の宿敵となった)。カテリーナは、ドミートリーが、「ご自分の美しさをえさに」とグルーシェニカに言っていたことにショックを受け、「あなたのお兄さまって、ほんとうに卑怯者よ!」と言う。アリョーシャは胸を痛めながらも何も言えず、よろめくように通りに出た。後を追って小間使いが出てきて、ホフラコーワ夫人から預かった手紙だといってリーズの手紙を渡した。アリョーシャは心ここにあらずで、無意識にポケットにしまった。【⇒第3編:女好きな男ども10 二人の女】