ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典7(10人目)

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目21時~)~

【アリョーシャ一覧】

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(序)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目11時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目16時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目19時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目早朝~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目13時半~)

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目14時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目20時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目18時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日1)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日2)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判当日~)~

 

 

 ドミートリー:「おれをみろ、じっと見るんだ。見えるか、ほら、ここだ、ここだよ」

 1日目21時半:夜道を、急ぎ足で修道院へと帰っていていると、十字路のところで、駆け寄って来た男に、「さあ、命が惜しけりゃ、金を出すんだ!」と脅された。「なあんだ、兄さんか!」と驚きつつ、「あやうくお父さんを殺すところだったでしょう……しかも、呪い倒して……なのにまた……こんなところで……もう……冗談いったりして……命が惜しけりゃ、金を出せ、だなんて!」と、堰を切ったように泣き出した。カテリーナの家にグルーシェニカがいたことを伝え、その一部始終を話すと、陰鬱な険しい表情から一転、病的とも思える喜びの色を浮かべて、「結局、手にキスをしなかったんだな!」と叫んだ。そして、グルーシェニカは「トラ!」であり、「断頭台に送る」べきだというカテリーナの考えに同意しつつも、今から自分はグルーシェニカのところへ駆けつけるのだと言う。アリョーシャが「カテリーナさんは?」と悲しそうに叫ぶと、カテリーナが自分の力を過信して失敗したのだと楽しそうに笑っている。アリョーシャが、「兄さんは、どうもカテリーナさんをどんなに傷つけているか、少しも気にかけてらっしゃらないようですね」「『ご自分の美しさをえさに』って、これ以上ひどい侮辱はありませんよ」と問い詰めた(ドミートリーは、物語の最後になってようやく、自分がカテリーナを傷つけたことを理解する)。ドミートリーは、「そうだった!」と額をぴしゃんと叩いた。カテリーナを貶めて喜んでいるのではないかと疑ったが、そうではないようだった。

 カテリーナがドミートリーに金を借りたいきさつを、モークロエで酔っ払ったドミートリーは、グルーシェニカにしゃべってしまった。「彼女(グルーシェニカ)はあのときすべてを察して、そう、思い出した、彼女も泣いていた……なのにちくしょう! そうさ、こうなるしかなかったんだ! あのときは泣いた、でもそれが……それがいまは『短剣で心臓をぐさり』か! おんなってのはそういうもんなんだ」と、目を伏せて考え込んだ(伏線:ドミートリーの裁判では、「カテリーナ」の「短剣」によって有罪が確定することになる)。そして、「そうなのさ、おれは卑怯者なんだ!」と言い、「さあ、おまえは自分の道を行くんだ、おれはおれの道を行くから。おまえとはもうこれっきり会わないでいい、いつかなにか、いよいよってときまではな。じゃあな、アリョーシャ!」と言い残して、行ってしまった。と思ったら、すぐに戻って来て、「おれをみろ、じっと見るんだ。見えるか、ほら、ここだ、ここだよ、ほらここで……恐ろしいハレンチが行われようとしているんだ」と言って、自分の胸の高い位置を指さした(このときのことを、アリョーシャは裁判の証言台で思い出した)。そして、「このハレンチを、指一本で完全に思いとどまることもできる、思いとどまることも実行することも、おれの気持ちひとつなんだ。このことを覚えておけよ!」と言って、今度こそ行ってしまった(殺人や良心のことではなく、三千ルーブルを泥棒するかカテリーナに返すかの話をしていたことが、あとで明らかになる)。

 

 パイーシー神父:「軽はずみな快楽のためではないぞ」

 1日目22時半:兄と別れて、長老の庵室へたどりついた。ゾシマ長老の容態は悪くなる一方だと、パイーシー神父は言った。長老がアリョーシャを「いとおしげに心配していた」ことを伝え、「おまえが俗世に戻るにしても、それは長老がおまえに課した務めが目的なのであって、軽はずみな快楽のためではないぞ」と訓戒した。アリョーシャは、敬愛する長老がまさに亡くなろうとしているのに、「いっときとはいえその長老のことを忘れることがあった」ことに自責の念を抱きつつ、眠っている長老に、「床に額がつくほど深くお辞儀をした(長老がドミートリーにしたお辞儀を連想させる)」。

 寝室にもどって祈りを捧げていると、ポケットの中の手紙に気づいた。リーズの手紙には、「だれにも内緒でこの手紙を書いています」「大好きなアリョーシャ、あなたを愛しています。小さいときから、ずっと好きでした」「わたし、とうとうラブレターを書いてしまいました。ああ、なんてことをしてしまったのかしら! アリョーシャどうか軽蔑しないでくださいね」「わたしの評判は、もしかしたら永久に地に落ちてしまったのかもしれません」と書かれていた。アリョーシャは驚いて、二度読み返し、「不意に静かに甘い笑みをもらした」。そして、その笑いが罪深いものに思えたが、十字を切って横になると、心の動揺は消え、穏やかな眠りに落ちた。【⇒第3編:女好きな男ども10 もうひとつ、地に落ちた評判】