ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典4(10人目)

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目11時半)~

 

【アリョーシャ一覧】

 

~アレクセイ・カラマーゾフ(序)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目11時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目16時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目19時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(1日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目早朝~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目12時半)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目13時半~)

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目14時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(2日目20時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目18時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(3日目21時~)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日1)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判前日2)~

~アレクセイ・カラマーゾフ(公判当日~)~

 

 「場違いな会合」の始まり

 1日目11時半:この会合は、主要な登場人物が一堂に会して自己紹介を行う序盤の重要な一幕。会合の際には、長老にともなわれて庵室に入った。ミウーソフ、フョードル、イワン、カルガーノフ、いずれも長老の祝福を受けようとしなかったので、嫌な予感がして、頬を紅潮させている。予想した通り、フョードルが道化芝居を始めたり、ミウーソフが腹を立てて帰ろうとするそぶりを見せたりするので、泣きそうになりながらうなだれている。【⇒第2編:場違いな会合2 老いぼれ道化】

 

 

 

 
リーズ:「笑ったのは、あの人のことよ、あの人のこと!」

 中座した長老が、婦人たちに祝福を与えているとき、ホフラコーワ夫人の娘リーズ(リザヴェータ)に、「笑ったのは、あの人のことよ、あの人のこと!」と指をさされ、真っ赤になってうつむいた。ホフラコーワ夫人から、カテリーナが「自分のところによってほしい」と言っていたと伝えられ、ひどく面くらい、顔を曇らせた。アリョーシャが承諾すると、リーズが「なんてすばらしい人なの!」と褒める。さらに、ホフラコーワ夫人が、「リーズったら、気分のよいのはあなたと一緒にいるときだって、もう二度もわたしに申しておりますのよ」などと言うので、アリョーシャは顔を赤らめ、なぜか薄笑いを浮かべてしまった。その後も、リーズが自分を恥ずかしがらせようとして、見つめて来るので、長老のうしろに隠れてしまった。リーズは、アリョーシャが昔とちがって冷たく、自分の家に来てくれないことを長老に訴え、長老は、アリョーシャを必ずリーズのところへ行かせると約束した。【⇒第2編:場違いな会合4 信仰心の薄い貴婦人】

 

 ゾシマ長老:「悲しみのなかに幸せを求めよ」

 会合の部屋で、はらはらしながら議論の成り行きを見守っている。ふと扉の近くのラキーチンを見ると、興奮した様子で聞き耳を立てている様子だった。【⇒第2編:場違いな会合5 アーメン、アーメン】

 「場違いな会合」の前半。十字を切ろうとする長老にイワンが近づき、その手に口づけしたときには、アリョーシャは、ほとんど怯えに似た感情をいだいた(口づけしながらも、何ものも信じていないイワンの心の内が、ありありと見て取れたからだろう)。また、長老がドミートリーの足元にひざまずいたとき、アリョーシャは驚きのあまり、長老を支えることも忘れてしまった(おそらく長老は、ドミートリーに過去の自分を重ね合わせ、その未来に待ち受けている苦難を予見していた)。【⇒第2編:場違いな会合6 どうしてこんな男が生きているんだ!】

 寝室へ戻った長老は、アリョーシャに、「さあ、急いで。おまえには仕事がある。院長のところへ行きなさい」「向こうのほうがおまえを必要としてるんだよ。向こうには平和がないのでね」と言う。そして、争いごとが起こったら祈りを唱えるように、自分が死んだら修道院を出るようにと伝えた。アリョーシャは、ぎくりとしたが、長老は「ここはもうおまえのいるべき場所ではない」と言って、遺言として「悲しみのなかに幸せを求めよ」という言葉を贈った。アリョーシャの「唇の縁がぴくぴくと震えて」、母親ゆずりの「神がかり」の兆候が現れる。「どうした?」と長老は微笑み、「兄さんたちのそばにいてあげるのだよ。でも、一人のそばではなく、二人のそばにだよ」と、十字を切った。アリョーシャは、長老がドミートリーの前でひざまずいた理由を問いたかったが、長老に伝える意志があれば、自分から伝えてくれるはずなので、訊ねられなかった(アリョーシャは、何か神秘的な意味があると信じていた)。

 

 ラキーチン:「きみはやっぱりカラマーゾフなんだな」

 僧庵から修道院へは五百歩ほどだが、最初の曲がり角でラキーチンが待ち受けていた。アリョーシャは、ラキーチンの問いかけに対して、父と兄の間に殺人が起きることを考えたことが「ある」と低い声で答えた。また、兄がグルーシェニカを軽蔑しながらも離れられないでいることについて、「ぼくにもわかる」と口をすべらせた。ラキーチンは意地悪な顔をして、「きみはやっぱりカラマーゾフなんだな、正真正銘、カラマーゾフなんだ――」と言う。イワンの言葉を気にしているラキーチンをからかったり、グルーシェニカがラキーチンの親戚だと言って、ラキーチンを怒らせたりしている(実際に親戚同士だったことが明らかになるのは、物語終盤に入ってからである)。修道院にたどりついたときには、すでに事件が起きてしまっているようだった。【⇒第2編:場違いな会合7 出世志向の神学生】

 

 フョードル:「今日中にすっかりうちに引っ越して来るんだぞ!」

 修道院(会合後の会食が行われる)にやって来たアリョーシャに、そこから飛び出して来たフョードルが、「今日中にすっかり(修道院を引き払って、)うちに引っ越して来るんだぞ!」と叫ぶ。愕然とした。【⇒第2編:場違いな会合8 大醜態】

 父の命令が「調子にのった」過剰な演技であることを理解していたので、父が自分をまた修道院に戻してくれることを知っていた。恐れていたのは、ホフラコーワ夫人にぜひとも立ち寄ってほしいとたのまれていたカテリーナのことだった。アリョーシャは、カテリーナのことを初対面のときから恐れていた(大きな伏線)。彼女が、自分に対して罪を犯したドミートリーを救おうとする義侠心と寛大な心は認めざるをえないが、家に近づくにつれて「ますます背筋に寒気が走る」のだった。カテリーナに会う前に、ドミートリーに会っておきたかった。