「しつけに関する彼のすべての話で、彼は毅然としているが、決して懲罰的ではない」 P258
編 者 :シドニー・ローゼン
監 訳 :中野 善行、青木 省三
出版社:二瓶社 (1996/10)
日々のエントリーでもその物語を幾つか紹介していますが、今回はこと「しつけ」 に関してのレビューをしてみたいと思います。
本書はミルトン・エリクソン という稀代の催眠療法家が話した物語などを編集した逸話集です。
また彼は、その卓越した臨床実績から「魔術師」 の異名をとり、NLP でもその研究対象として挙げられた天才でもあります。
(NLPに関しては、以前別のエントリー でレビューをしています)
本書では様々な逸話が 「引き出し」ごとに分かれていますが、その中の一つに「価値と自己修養を教える」 と題される逸話達があります。
主に 「子どもへのしつけ」に関するもので、親としてとても参考になる逸話が収められています。
その中で自分も以前二つほどエントリーをあげていました。
「必要ないもん 」
「尻叩き 」
彼がしつけの際に重きを置いていることは「(本人の)学習の価値」 という側面です。
健全な良心を発達させる教育にあたり、彼は特に、“禁止” や “すべき : should” や “規則” を使うことを避けました。
目的は、子どもが独自の意志の感覚や自主性を手助けすることなので、怒ることなく楽しいやり方で教育を実践することを心掛けているからです。
それを表す逸話が下記のものです。
エリクソンのところにある夫婦が相談に来ました。
自分の6歳になる娘は窃盗癖があるというのです。
するとエリクソンはその娘へ宛てて手紙を書きました。
内容は、自分は6歳の子のための妖精で、いつもあなたのことを見守っている、というものでした。
あなたが色んなことをゆっくりと学んできたことを喜び、あなたが行動することを “いつでも” 見守っている、ということをその娘に伝えたのです。
エリクソンはその娘に必要なものは「内面化された超自我」であり、内面的な監視者ないしは番犬が自分には必要だということを、子どもに訴えかける手紙を通して「気づかせる」 方法をとったのです。
また先の 「必要ないもん 」では、してよいことと悪いことの境界線を引き、それを実践する「自制心」 を育てる重要性を述べています。
そして 「尻叩き 」では、要求されたものを与えるのではなく、むしろ必要とされたものを “適当なとき” に与えるという重要性を述べています。
更にもう一つ私たちが覚えておくべき重要な原則は、「子どもに不都合なときに、なにごとかをさせる」というものです。
それが一番 “記憶に刻み込ませる” ことができるからです。
それがわかるのが下記の逸話です。
エリクソンの孫が教育セミナーを行っているときに診察室に入ってきました。
孫に出て行くように言うと、孫は「ドアをバタンと閉めて」 出て行きました。
彼はドアをバタンと閉めるべきではなかったのです。
そしてエリクソンは、孫が絵本に夢中になっているときに「ドアをバタンと閉める」 ようにお願いをしました。
孫は不思議に思いながらも「ドアをバタンと閉め」 ます。
そうしてエリクソンはお礼を言い、もう一度「ドアをバタンと閉める」 ようにお願いをします。
孫は怪訝な顔をしますが、また「ドアをバタンと閉め」 ます。
そしてもう一度エリクソンは「ドアをバタンと閉める」 ように頼むのです。
孫は言います。
「でも、僕は本が読みたいのだ」と。
しかしエリクソンは手を緩めません。
「さあ、もう一度ドアをバタンと閉めなさい」ときつく言うのです。
孫はなぜエリクソンが「ドアをバタンと閉める」 ように言ったのかを尋ねます。
そうしてエリクソンは孫に伝えるのです。
「お前がドアをバタンと閉めたのをみて、お前がドアをバタンと閉めるのが好きだと思ったんだよ」と。
エリクソンは患者と向き合う際に、その “望ましくない” 行為を鏡のように写し出しましたし、症状処方として “繰り返し” やらせたりもしました。
しかし、それを皮肉や苛立ち、敵意に訴えることはしませんでした。
彼はほとんどの患者と友好的な関係を築くことができたといいます。
なぜなら、彼は常にユーモアを持って彼らと接したからです。
エリクソンをエリクソンたらしめる一つの資質が “好奇心” です。
彼は生涯、子どものような好奇心を持ち続けたのです。
私たちもそうあるべきではないでしょうか?
好奇心があるならば、子どもの良い面に目を向けることができます。
私たちはややもすると忘れてしまいがちですが、子どもが “私たち大人より” 優れている面も持ち合わせているのです。
そういった一面を伸ばすよう子どもたちに接することも必要なのかもしれません。
もちろん、彼らは “知識がない” ことから間違った選択をしてしまうこともあるでしょう。
その際に必要なのは「懲罰」 ではなく、“毅然とした態度” で彼らと接することなのかもしれません。
冒頭にも述べましたが、本書は催眠療法家の逸話集です。
しかし、単に精神医学の枠を超えて私たちに多くの気づきを与えてくれる一冊になっています。
特に子を持つ親にとっても例外ではありません。
是非、ご一読をお勧め致します。