美容整形で人生を変えた女性が、かつて自分を馬鹿にした同級生たちに復讐していく物語。

 

評価3/5

読みやすいのだけれど、主人公の嘆きや怒り、そしてかなしみを見ていると苦しくなって、なかなか進まなかった。気になったのは主人公が英検一級をあっさり取得した点。終始知力があるのか、ないのかよくわからない子だった。個人的には女性作家が描くブスの方が実体験込みになっていて共感できる。

 

 <要約>

小さい頃から醜くて、親からも気味悪がられてきた和子。そんな和子に人生で唯一、親切にしてくれたのは、幼稚園時代、迷子になったときに助けてくれた「エイスケ」という男の子。しかし彼はそれからすぐに引っ越してしまい、次に再会したのは二人が高校生になってからでした。

 

久しぶりに会ったエイスケは、秀才のイケメンに成長しており、女子生徒からモテモテ。しかも彼の初恋が「幼稚園時代に一緒に迷子になった、もう名前も顔も忘れてしまった女の子」だったことが発覚します。しかし、醜い和子には、自分がその女の子だと告げることができません。

 

そうこうしているうちに、他のクラスの美女が「その女の子は自分だ」と嘘をつき、エイスケと付き合い出します。怒り狂った和子は、「もし自分が美人だったのなら、迷うことなく真実を告げてエイスケと付き合えるのに」と嘆き、「それが無理ならエイスケを失明させてでも奪ってやる」と計画します。

 

結果、和子はメチルアルコールを混ぜたお酒をエイスケに飲ませますが、途中で「変なニオイがする」とバレてしまい大変な騒ぎになります。こうして地元にもいられなくなった和子は、家族からも縁を切られ、ひとり上京することに。しかし、そこでも地元以上の容姿差別に遭い、ついには美容整形を決心します。

 

さっそく和子は整形資金を稼ぐために風俗で働こうとしますが、どこにいっても「そんなブスは雇えない」と断られてしまいます。結局、和子はSMクラブで暴力を受ける専門の仕事を得て、そこで最低限の整形を済ませてから、もっとお給料の高い店を転々とすることにします。

 

苦労を乗り越え、ようやく理想の美に近づいた和子ですが、その頃はハードな仕事と整形の影響で体はボロボロ。若くして腎臓、肝臓がやられ、ついにはくも膜下出血まで起こしてしまいます。自分に残された時間は少ないと悟った和子は、最後にもう一度エイスケに会うため、地元に戻りレストランを経営します。この頃既に、美帆という名前に改名していた和子は、見た目も別人になっていたことから、誰からも正体がバレません。案の定、噂の人気店にお客としてやって来たエイスケは、美帆が和子だとは知らずに一目惚れし、妻子がいる身でありながら平気で口説いてきます。

 

和子は憧れのエイスケの残念な姿に失望する一方で、ようやく初恋の人を手に入れられる喜びに舞い上がります。しかし、深い仲になるうちに、どんどん「美帆」としてではなく「和子」として受け入れてほしいと願うようになり・・・。最後は、真実を告げる和子ですが、その途中で再度くも膜下出血になり、命を落としてしまいます。

 

 読書ポイント

おブス時代は和子に見向きもしなかった男たちが、美人になったとたんチヤホヤするところにご注目を。けれども、美人になったら今度は「容姿以外に価値を求められていない遊び用の女」としかみなされていない現実を理解します。

 

実は和子は一度体を壊して入院してから、大橋という普通のサラリーマン男性と結婚しています。美人になってからの和子には、体だけの関係を求める男しかいなかった中で、彼だけは心から彼女を心配し、毎日お見舞いに来てくれたのです。

 

しかしそんな大橋も結局は、地味な部下と不倫をして、和子に離婚を迫ってきます。こうして和子はブスのままでも、美人になっても、誰からも必要とされず、ただ老いて容姿の価値がなくなるまで悪あがきするしかなくなっていったのです。切な~。結局、外見だけで勝負できるのは極わずかな期間なので、和子には内面も磨く必要があったということです。

 

 感想

和子には「バケモン」や「モンスター」というあだ名がありました。ひとつは顔がバケモノのように醜いから、もうひとつは飲み物に毒を盛るようなモンスターだからという理由で。もしかすると整形後も別な意味でモンスターだったかもしれません。

 

少し前にXで若い子からとても共感を得ているポストを見つけました。そこには「二十代になってからダイエットしたり、メイクを頑張ったりしても、どうせ”もっと早くやっておけばよかった”という後悔しかないのだから、そうなる前にためらわず整形をしたほうがいい」と書かれてありました。

 

さらに「女として貴重な二十代前半を容姿磨きに使っていたら、あっという間に旬が過ぎる」的なことも言っていたのですね。むしろ二十代前半は完成系の容姿で勝負し、人生を謳歌すべきという意見に、多くの若い子たちが目を覚ましていたようでした。

 

実はこれ、和子が言っていたことと同じなんですよね。本書は十年以上前の作品ですが、いまだにこのような考えが日本社会にはあるのだなぁと、何だか複雑な気持ちになりました。

 

確かに美人は有利です。どこにいってもブスより有利。けれども生まれつきそうでない人は、天然モノと同じレールに立つまでにお金がかかります。そのお金を稼ぐためには体を酷使する必要があります。そのアカウントでもさっさと夜職で稼いで、老後の資金なんて気にせず、整形に費やせと言っていました。大事なのは現在で、未来など考えるな。現在がハッピーなら、未来もハッピーだろうと言うのです。

 

しかし、本書には残酷にもそのポストの果てが描かれています。美しさとは、本当に一瞬だけなのです。ましてや体を酷使してきた彼女たちは、例外なく老いるスピードが早いです。飲酒、薬、不規則な生活リズム、睡眠不足、整形の後遺症で流動食しか食べられない、ストレスなどが特有の老化を招きます。そして男たちも彼女たちを本命には選びません。見た目(若いに限る)だけの女は、その魂胆も筒抜けで、最初から侮られているのです。

 

和子は、こういうことを美人になってからようやく気づき、さらに心を病ませていきます。本当はそんな彼女の人生を丸ごと受け入れてくれる男性がいたのですが・・その頃には何が正しいのか判断できなくなっていたようです。

 

 

かつては美人はどく一握りの存在だったと思う。しかし現在は違う。世の中が豊かになり、多くの女性が皆、美人を目指し始めた。本来、世の中に一握りしかいないはずの『美人』を誰もが目指し始めたんだ。また個性の時代と言うことで、美人の範囲が拡大されたことも大きい。その結果、ほとんどの女性はランキングされることになったと思う。そしてすべての女性が自分はどの位置にランクされるのかを強く意識するようになった(P103から一部抜粋)

 

美人の枠が拡がれば、多くの男性たちも美人を手に入れることができる。(略)社会が豊かになって、庶民というか、中級階級の地位が上がってくると、美人のバリエーションが増えてくるんだ(P98)

 

社会が豊かになり、女性の地位が上がると、美人の枠も拡大するという話には納得。今や容姿◎学歴◎知性◎愛嬌◎家庭的◎家柄◎高収入◎みたいな女性がカーストの上にいて、なかなか容姿だけというジャンルの人がいなくなったように思います。女優の整形はわからないレベルで自然だし、素材がいいからか、ほんの数ミリ治しただけであんなにキレイになっていますが、一般人の整形はほぼ不自然だから失敗した感じに見えちゃって、本人も周りに指摘されて何度も繰り返すパターンになっているようですね。

 

本書にもありましたが、やりすぎる患者が多いし、モンゴロイドの顏にコーカソイドの顏を描こうとするからチグハグで人工的になっちゃうのですよね。和子の担当医はそこをきちんと説明してくれて、ナチュラルに見える顔をつくってくれました。この美容外科医と和子の会話は、整形を考えている人には参考になる部分が多いと思うので要チェックです。

 

長くなりましたが、私としては整形は否定しないけれど、それだけではどうにもならないからねということをお伝えしたいレビューでした。美人は人それぞれの好みまで存在しますが、とびきりの美人なんてものは昔からそういません。芸能界ですら顔だけでやっていける人は一握りです。整形したって、なかなか世紀の美女とまではいかないので、顔だけでなく性格も良くしておこうというお話でした。

 

 

整形やコンプレックスについて描いたオススメ小説4選

 

 

 

容姿の悩みを吹き飛ばしてくれる本2選