作者: 拓末司
出版社: 宝島社
初版: 2008年12月

柴山幸太は西洋レストラン〈ビストロ・コウタ〉のオーナーシェフ。
料金はリーズナブルだが、質はこだわっていることもあり、店は連日大賑わいである。
が、デザート料理が、他の料理に比べて印象が薄いことが柴山を悩ませている。

そんな折、人気スイーツ店〈テル・カキタ〉の柿田シェフが柴山の店を訪れ、
「自分がコース料理のデザートに満足出来ない理由がわかった」と言い出した。
理由の真意を確認する為に、柴山は家族で柿田の店を訪れることになるが・・



お話は神戸を舞台にしたデザートミステリーです。
柴山が柿田と出会ったことにより、人気店に次々と謎の食中毒事件が起きていることを知り、
それを解決していくという流れになっています。

物語の大きな要がデザートなものですから、美味しそうなデザートがいっぱい出てきます。
パリ・ブレスト、ミルフィーユ、シブースト、フォンダン・ショコラetc・・。
どれも魅力的に描かれており、読み終わった後には美味しいスイーツが食べたくなります。


個人的に気になったのは、食品偽装についてと卵アレルギーについて。

食品偽装について柴山は、
「人の口に入るものを扱っている人は、食べる人の生命を預かっていると同じである。
 故意に行っている人には罪の意識が欠けすぎている」と意見を述べていました。
消費者である自分が、普段そこまで考えていなかっただけに、感慨深くなりました。

卵アレルギーについては、柴山の子供が卵アレルギーになり、
治療法として除去食料法、
「一定の期間アレルギー反応が出ているものを口にせず、進行を遅らせ、免疫も付き、
アレルギー反応が出なくなるように経過をみるという療法」を行う設定で描かれています。

子供は大好きなオムライス、マヨネーズ、ケーキ類など一切の卵製品が食べられなくなり、
奥さんは、自分が幼少時に卵アレルギーだったことが原因だと落ち込んでしまいます。

自分も幼少期に卵、牛肉アレルギーだったので、色々と考えてしまいました。
特に、奥さんが涙を流して子供に謝っていた姿は、心が痛みました。

全く物語の核心部分に触れていませんが、軽いタッチで描かれているミステリーなので、
とても読みやすい作品ではないかと個人的には思います。
2000年度「このミステリーがすごい!」 ベスト9選出作品
作者: 多島斗志之
出版社: 角川文庫
初版: 平成15年

街から離れた岬の上の病院に、榊は精神科医として赴任する。
精神科医としてキャリアがあった榊だが、自分の担当患者、亜左美には苦労する。
榊には、亜左美が榊の医療行為を、故意に邪魔しているように思えたのだ。
そんな折、事故死と聞かされていた前任の沢村先生の死因が「自殺」であると聞かされる。
しかも亜左美は沢村先生の遺体を見たというのだ。

一方、東京都博物館の学芸員である瑶子は、ある噂を耳にする。
「この博物館に保存されている狛犬は贋作らしい」



物語は、病院勤務の榊医師と学芸員である瑶子の話が軸に進んでいきます。
一見関連が無いような、精神科の病院と美術の贋作問題が結びついていきます。

鍵となる人物が、
患者である亜左美、臨床心理士の広瀬、以前は学芸員で現在は榊の担当患者である五十嵐。
何といっても、広瀬がかなりの重要キャラに途中からなります。
亜左美は亜左美でそうなるか・・って感じですが。

医師が主人公、しかも、精神科が舞台だけあり、さまざまな病名が出てきます。
分裂病、鬱病、離人神経症、多重人格etc・・。
よく聞く病名も多いですが、あまり詳しい違いがわかっていなかった自分にとっては、
改めて理解した部分も多かったです。

読んでいて考えたのは、医者と患者の距離の取り方について。
物語の中でも、榊は以前の患者のストーカー行為により、離婚をした設定になっており、
他の医師も離婚はしていないものの、家庭は不和になっている状況が描かれていました。
もちろん、全てがそうではないでしょうが、特に精神科医と患者は、
普通の医師達よりそこの部分が大変なんだろうなと改めて感じました。

ただ、自分としては、榊が違うアプローチで亜左美や広瀬に接していく片鱗の所で、
終わってしまったので、少しでいいからその後について触れてほしかった気がします。
特に、亜左美がその後どうなったのか気になります・・。
第52回江戸川乱歩賞受賞作品
作者: 早瀬乱
出版社: 講談社
初版: 2006年8月

明治25年、東京の神田が大火事になり、火は二日に渡って燃え渡った。
見物に行く者、自分の家財や家の心配する者、様々な人がいる中、奇妙な人を目撃する人もいた。
火の街を疾走する人力俥夫の姿である。

一方、田舎で暮らしていた内村実之には、昔から勉強が出来た兄がいた。
兄は東京で帝国大学の大学生・・。
のはすが、急に怪我をして田舎に帰ってくる。しかも大学も辞め、田舎で就職すると言い出した。
そして兄は、「三年坂で転んでね」という謎の言葉を残して死んでいった。



物語は主人公の内村実之の話と、
東京の塾講師である高嶋鍍金(メッキ)と共に行動する立原総一郎の話が軸になり進みます。

実之は、自分の兄の死の理由、失踪している父の事、
兄の残した「三年坂で転んでね」のことを調べるために東京に上京します。
同時期に、ひょんな理由で神田大火事を調べることになった鍍金と立原。

「誰が神田大火事の犯人なのか」、「内村の兄はなぜ死んだのか」、「三年坂に隠された意味とは」。
どのように問題が解決し、実之と鍍金、立原はどこで関係してくるのかも一つの見物だと思います。


「三年坂」が重要な鍵となっているだけあって、東京の坂がいっぱい出てきます。
東京の地理や地名もたくさん出てくるで、わからない方には読みづらいかもしれません。
私は、東京の坂が物語の鍵となり扱われたことが面白かったです。

後は何といっても「スラム・クリアランス問題」。
近代的な街並、建物、水道整備問題を解決するためにはどうすればいいか?という問いに、
偏った考えで解決しようとした若者や知識人。

今回の作品とは関係ありませんが、大正時代の関東大地震を思い出しました。
天災が原因で街並が近代的になるのは復興になりますが、
人為的な要因により街並をつくり出そうとするのは、意味が違う自分としては感じました。


余談ですが、江戸川乱歩賞受賞作品なので、後ろに選考評価も記載されています。
他の候補作品の評価も記載されていますが、プロの方の選考評価は凄いなとまじまじ感じました・・。
この時の選考委員は、乃南アサさん、大沢在昌さん、真保裕一さんなどです。