「おい・・ いい加減にせんか」
野人事務所の玄関を開けた時
何処からか声が聞こえた
中に入ろうとするとまた・・聞こえた
天の声 神様からの苦情かと思ったが・・
「あのな・・ そろそろ」
横を見ると・・フタと目がバッタリ合った
郵便受けではないか・・
「なんだ 郵便受け」
「・・・ ・・」
「早よ言わんね 夏は忙しいんだから」
「フタ・・開けて よく見ろ」
「見んでもわかるわい それくらい」
郵便受けには郵便物が溢れ はみ出していた
そろそろ限界に近いが まだ入る
「ど~せ~言うんじゃ 郵便受け」
「雨が降ったら 郵便物が濡れるぞ・・」
「そりゃあまあ 少々はな」
「今夜から台風だろうが ぜんぶ飛ぶぞ」
「・・・ ・・」
「何とも思わんのか バカタレ・・」
「郵便受けにバカタレと言われとうはない」
はみ出た郵便物を中に詰め込もうとすると・・
郵便受けが また 言った
「思いやりのかけらも・・ないのか」
「このほうが重いやりがあって飛ばんじゃろうが」
「毎日とは言わんが たまには整理したらどうだ」
「年に1回か2回 やっとるだろうが・・」
それから郵便受けは沈黙 何も言わなくなった
中に入り しばらくして気になり 様子を・・
押し込んだ郵便物がはみ出していたが
郵便受けは何も言わない
郵便受けが可哀そうになり 中身はすべて取り出した
詰め込み寿司詰め・・うじゃうじゃ出て来る
誰だ こんな詰め込んだのは
年賀状も出て来たから 今年はじめてのチェックだな
思えば郵便受けとは毎日顔を突き合わせている
入り口のすぐ横 顔の高さにあるから目に入る
しかし・・まったく意識したことがなかった
普通はマメに中を見るんだろうな・・
野人に郵便物をチェックする習慣は 皆無
送れと頼んだ覚えもないし 連絡があれば見る
こぼれ落ちるほど溢れていればすべて取り出すが
自分が困るからではなく 配達する人が困るから
それにしても 少しは感謝したほうがいいかも
一時預かり所 格納庫として・・ちゃんと
野人の為に仕事をしているのだから
郵便屋さんに呼び出されるのもたまらんが
玄関内に落とされたら片付けも大変・・
これは 道具 物 すべてに言えることだな
好き嫌いにかかわらず 目立たずとも
彼らは懸命に働いてくれる
疎遠になれば彼らも寂しがるだろう
そして最後は朽ち果て 捨てられる
お隠れになった郵便受けに 声かけてみるか
会社を興してから20年近い付き合いだし・・
「出かける」 とか 「帰ったぞ」 とか
「はあ~~い 行ってらっしゃあ~い」
とは・・言わんだろうな こいつ
無愛想だし
・・ ・・・ 勝手に・・行って来い スッキリ
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