ブイヤベースは、中国のフカヒレスープ、タイのトムヤンクンスープと並んで世界三大スープの一つとされている。フカヒレそのものには味はなく、独特の歯ざわりが好まれている。トムヤンクンは、辛くて酸っぱい海老のスープで、エスニックな技法が特徴だ。ブイヤベースはトマトやサフランで仕上げてはいるが、その真髄は魚介のスープにある。フランス、マルセイユの田舎町を発祥とするブイヤベースは、もともと白身魚のスープを楽しむ素朴なものだった。魚は主にカサゴ、ホウボウ、アナゴなどが用いられていた。やがて貝や海老、蟹などが加えられフランスを代表する料理となった。確かに貝や甲殻類を入れるとコクが深まり美味しい。生まれて初めてブイヤベースをいただいた時、「こんな美味しいスープが世の中にあるのか」と思ったほどだ。
海辺で育ったせいかカサゴには親しみがあり、よく釣ったり突いたりして食べていた。地域によっては、体の割に頭が大きいからガシラ、また、赤みを帯びているところからアカウオとも呼ばれている。鹿児島ではアラカブ、大分の地方ではホゴと呼ばれる。湾内のテトラや磯から100m以上の深場まで生息している。カサゴはメバルと並び、煮魚の王様とされているが、刺身、吸い物、から揚げにしても美味しい。日本の鍋も旨いがブイヤベースは異次元の食べ物に思えた。日本の魚介鍋は中身を食べることが目的だが、ブイヤベースはスープが目的だ。そう考えると世界一贅沢なスープとも言える。ご飯にブイヤベースのスープをかけるとブイヤ雑炊になるが、本当に旨い。20代の時、初めてブイヤベースを食べたのが鳥羽のホテルで、それから様々なところで食べたが、いまだそれ以上のブイヤベースにはお目にかからない。新鮮で豊富な食材、洗練された技術が完成度を左右している。