酒場ピアニストがんちゃんのブログ - 読書とお酒と音楽と-

酒場ピアニストがんちゃんのブログ - 読書とお酒と音楽と-

昼はジャズ・ラウンジピアノ講師 (江古田Music School 代表)

夜は銀座のBARピアニスト(ST.SAWAIオリオンズ専属)

コロナ禍ではジャズの独習用eラーニング教材を開発してサバイバル

そんな筆者が綴る、ブックレビューを中心とした徒然日記です。

今回から5回シリーズで人間理解に極めて有用な「SCARFモデル」について連載します。

 

「SCARFモデル」というのは、ニューロリーダーシップ・インスティテュート共同創設者のDavid Rock氏が2008年の論文で提唱した概念で、人間の脳に報酬と恐怖を引き起こす次の5つの要素の頭文字を取ったものです。

 

Status: 社会的地位

 

Certainty: 確実性(未来が明確か)

 

Autonomy: 自律性(自分で決められるか)

 

Relatedness:周囲との関係性

 

Fairness: 公平性 (フェアに扱われているか)

 

 

これらが満たされたれる事で、また脅かされる事で、人間がどんな感情を抱くかを考えれば、「SCARFモデル」が極めて実用性の高い概念であるかが良くわかると思います。ちなみに、この「SCARFモデル」を知るきっかけになった書籍『武器としての漫画思考』(前回ブログにて紹介)には、SCARFをビジネスシーンに置き換えた場合の分かりやすい説明がされているので紹介します。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

たとえば、あなたは上司として、

 

・部下の尊厳を傷つけるような発言をしていませんか? (社会的地位)

 

・実現性の高い計画を示せていますか? (確実性)

 

・裁量権を与えて自分で決めさせていますか? (自律性)

 

・チームの人間関係が良好になるよう配慮していますか? (周囲との関係性)

 

・人によって態度を変えたり、贔屓をしたりしていませんか? (公平性)

 

これらは、全て部下や周囲のSCARFに影響を与えています。

 

自分が部下だった時代に、上司がどのように接していたかを思い返してみると、特にイヤだったこと・良かったことの大半は、このモデルで説明できてしまうわけです。

 

(引用終わり)

 

・・・・・・・・・・・・・

 

さて、これから5回にわたり、SCARFモデルを構成する5つの要素、Status(社会的地位)、Certainty(確実性)、Autonomy(自律性)、Relatedness(周囲との関係性)、Fairness(公平性)について、毎回1つずつ紐解いて参ります。

 

まずは、SCARFの最初の頭文字”S”、Status(社会的地位)について考えていきましょう。

 

そのためのガイド本として用意させて頂いたのがこちら。

 

 

■人生が整うマウンティング大全

 

著:マウンティングポリス

 

 

タイトルを初めて見た時は、読み間違いかと思いましたが、そうではありません。

 

「マインドフルネス」ではなく、「マウントフルネス」とハッキリ書かれています。

 

気になる本書の章立ては次のようになっています。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

はじめに  世界はマウンティングで動く

 

第1章 マウンティング図鑑  

 ~一流の人こそ実践するマウントのパターンとレシピ~

 

・グローバルマウント

 

・学歴マウント

 

・教養マウント

 

・達観マウント

 

・虎の威を借るマウント

 

 

第2章 武器としてのマウンティング術

 ~人と組織を巧みに動かす、さりげない極意~

 

一流のエリートが駆使する

「ステルスマウンティング」5大頻出パターン

 

・自虐マウンティング

 

・感謝マウンティング

 

・困ったマウンティング

 

・謙遜マウンティング

 

・無自覚マウンティング

 

「マウントする」ではなく「マウントさせてあげる」が超一流の処世術

 ~おすすめの「マウンティング枕詞」11選~

 

Column オバマ氏に学ぶ「マウントさせてあげる技術」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ひとまず、前半の章立てはこの通りで、これだけでなんとなく内容がイメージできそうな感じです(笑)

 

予想通りというか、第1章は、いわゆる「あるある」のオンパレード。

 

「FBで良くみるなぁ、この手の投稿」とニヤリとしたかと思えば、「ヤバい、似たような投稿した事あるぞ。。。」と心を見透かされたようなバツの悪さを覚え、つくづくマウンティングというのは人間の性(さが)なのだなぁ・・・と時に笑いながら、時に考えさせながら読み進めていくワケでありますが、まあ所詮は気晴らしの読み物という感じです。

 

第2章になると、「ステルスマーケティング」ならぬ「ステルスマウンティング」という概念が登場し、「なるほど! これはお見事!」と思える小技の光ったマウンティングから、「いやいや、あざと過ぎでしょ・・・ないない」というレベルまで様々な事例が紹介されますが、これまた娯楽の範疇を出ない感じではあります。

 

しかし!

 

全206ページの本文の7割を過ぎた143ページ、「マウントする」ではなく「マウントさせてあげる」が超一流の処世術、の箇所から本書は「気晴らしのためのエンタメ本」から「実用性の高いビジネス本」へとシフトチェンジし、さらに第3章に入ると本書は、D・カーネギーの伝説的名著「人を動かす」(読んだ事がある方も多いはず)を彷彿とさせる「人間理解のために欠かせない1冊」へと一気にフェーズが変わります!!

 

 

第3章以降の章立ても見ていきましょう!

 

・・・・・・・・・・・・・

 

第3章 マウンティングはイノベーションの母

 マウンティングエクスペリエンス(MX)を売れ~

 

テクノロジーからイノベーションは生まれない

 

米国企業の競争力の源泉はマウンティングエクスペリエンス(MX)の設計能力にあり

 ~顧客の「マウント欲求」をハックせよ~

 

米国の事例紹介

 

・Apple

 

・Facebook

 

・Starbucks

 

・Tesla

 

・WeWork

 

マウンティングエクスペリエンス(MX)の設計に成功した国内事例

 

・NewsPicks

 

・東京大学EMP

 

・ForbesJAPAN30 UNDER30

 

・京都市

 

日本経済にはマウントが足りない

 

 

第4章「マウントフルネス」を実現するには

 ~「80億総マウント社会」を生き抜くための人生戦略~

 

マウンティングとともに生きる

 

マウンティングを味方にする戦略と技術

 

 

おわりに

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

このブログの読者層を代表する、教養レベルが高く、知的好奇心旺盛で、高いビジネスセンスも併せ持つ貴方なら、この章立てからピンとくるものが少なからずあるでしょうw

 

本書で提唱される概念「マウンティングエクスペリエンス(MX)」の理解は極めて重要なので、これに関する解説を引いておきます。

 

マウンティングエクスペリエンス(MX)とは、「マウンティングを通じて人々が得る至福感、多幸感、恍惚感」のこと。言い換えれば、「自分は特別な存在であると認識(誤認)させてくれる体験」のことを指す。』(本書P.164~引用)

 

 

先に言及したD・カーネギーの名著『人を動かす』には「人を動かす三原則」とか、「人に好かれる六原則」とか、「人を説得する十二原則」とか、「人を変える九原則」だとか色々な原則が紹介されていますが、正直多すぎて覚え切れないので(^-^;、個人的にはこれらを総合的にまとめてアレンジした以下の4つの指針を大切にしています。

 

①相手に対して誠実であること

 

②相手に心からの関心と興味を持つ

 

③相手の事情・立場の理解に努める

 

④相手に重要感を持たせること

 

個人的な経験則から言えば、この4つが実践できる相手とは極めて良好な関係を築くことができますし、何等かのネックがあってどれかが手薄になっている場合は、築ける関係性もそれらに比例した感じにはなってきます。

 

そして、④相手に重要感を持たせる上での実用性に優れた指針として、本書が提唱する「MXの設計」は極めて有効です。

 

スコット・ギャロウェイ氏の著作『GAFA 四騎士が創り変えた世界』で語られる次の一説もこの重要性を示唆しています。

 

『消費者の大半は平等であることを望まない。自分が特別であることを望むのだ。そして消費者のかなりの割合が、特別になるためなら余分な金額を払う。そのような層は可処分所得が最も多い層でもある。』

 

消費者心理の神髄に触れた名言であり、私はこれを職業柄特に感じる機会が多い気がしています。

 

たとえば私が毎週水曜日に演奏をしている銀座7丁目にあるST.SAWAIオリオンズはこんな空間です。

 

 

銀座の大通りの一つ「外堀通り」に面した店とは言え、ビルの10階という立地で目立つ看板もないので、通りすがりの一見さんが寄る事はまずない店です。したがって初めて来店される方の9割はお客様の紹介でいらっしゃいますが、皆様方の反応は大体共通していて「へえ、このビルにこんな空間があるんですね!」と言った趣旨のもので、連れてきた側もまんざらでもない様子です。これは空間から得られる特別感の一つでしょうね。

 

銀座のオリオンズ以外にも、歌舞伎町の某高級キャバクラで演奏する機会も月に何度かありますが、ここでは特別感の提供についてより深い気づきが得られます。ルックス抜群、露出多めの美女がわんさかいて、売値1本10万円以上のシャンパンの栓がポンポン開けられ、時には超高額のシャンパンタワーでリアルなトリクルダウンが行われる空間はまさに非日常!

 

その中で私はピアノ演奏の傍ら、キャストさん(=働く女の子)の様子もコッソリ観察しているのですがw、最近なんとなく分かってきたのは、いわゆるNo.1になるようなキャストさんは、美貌もさることながら、本書で言うところの「MX設計」が極めて秀逸であるとう事です。逆にいくら見てくれが良くても、ゲストへの興味・関心が希薄で、売り物が「色気」しかないキャストさんは長く続かない気がします。

 

そしてキャバクラでたまに演奏する中では、こんな事を考えずにはいられません。

 

「いくらAIが発達してロボティクスが普及しても、この業界は何らかの形で生き残るんだろうなぁ…」

 

そんな私の考えを強く援護してくれるような、社会の真理を突いた一説を本書より引用し、このブログの結びとさせて頂きます。

 

・・・・・・・・・・

 

本書P.200より~

 

ビジネスパーソンの中には、資格取得などのスキルアップに熱心に励む人がいる。MBA(経営学修士)などの学位取得にチャレンジする人も少なくない。そういった社会人による学び直しはキャリア形成にプラスに働く可能性があり、それ自体は否定されるべきものではない。

 

しかし、人口知能(AI)が発達し、英語、ファイナンス、プログラミングといったスキルが陳腐化するこれからの時代においては、そのようなスキルよりも、人間が抱える内面的な心理や欲求を深く洞察する「人間理解」のスキルの方が圧倒的に重要となる可能性がある。

 

そのようなスキルを身に着けるためにはどうすればいいのか。一番の近道は「マウンティングリテラシーを鍛えること」であると筆者は考える。なぜなら、「マウンティングを理解することは、人間を理解すること」そのものだからだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

ここまでお読み頂きありがとうございます<m(__)m>

 

次回は、SCARFモデルの2つ目の要素“C” Certainty(確実性)について考えていきます。

 

お楽しみに!

 

 

江古田Music School代表

 

ST.SAWAIオリオンズ(銀座7丁目) ピアニスト

 

そして、たまに歌舞伎町某高級キャバクラでも演奏w

 

岩倉 康浩

年間100冊読書をライフワークと定めて今年で9年目。

 

読書のメリットは様々ありますが、社会を見る上で便利な「レンズ」であったり、人生を考える上で便利な「補助線」になり得る概念が手に入ることは、読書から得られる最も大きな恩恵の一つでしょう。

 

もっとも「これは使える!」と心底思えるような本質的で実用性のある有効概念に出会える確率はさほど高くはありません。歴史の試練に耐えた有効な概念は広く人口に膾炙されているので、本から学びを得たとしても、それは未知の概念の獲得というよりは既知の概念に対しての新たな視座の獲得というケースも往々にしてありますし、極めて斬新でユニークではあるけれどエヴィデンスや汎用性に乏しいもの(いわゆるトンチキ系)も存在します。

 

そんな中で最近、抜群に「とれ高」の高い本に出会えました。

 

 

 

『武器としての漫画思考』 

 

 

 

著:保手濱彰人 (キャラアート株式会社代表取締役会長)

 

「漫画思考」とは、今抱えている課題を右脳と左脳をフル活用して解決していくこと、そして「実感を伴った学び」を得ることで成長のきっかけを掴むことである。(本書の帯より引用)

 

とありますが、本以上に漫画Loverでもある私にとって、こんな本に出会って放っておけるハズがありません! 

 

本書がとても読みやすく、わかりやすく、そして抜群に面白いことは保証しますが、私にとって本書が最も秀逸だった点は、今後の人生に役立つ「レンズ」や「補助線」の役割を果たす未知の概念に色々出会えた事であり、その中でも特に有効だと思えた3つについてこれからシェアさせて頂きます!

 

 

1つ目「インテグラル理論」という概念。

 

これは歴史や社会を捉える上でとても有効だと思えます。本書の「インテグラル理論」の説明を読んだ時の直観的な印象は、ベストセラーにもなった『ティール組織』に似ているな…という感じでしたが、調べてみたら、その『ティール組織』のベースになった理論が、この「インテグラル理論」との事でした。

 

 

 

※ティール組織

 

「ティール組織(自律分散型組織)」とは、これまでの経営層や管理者の指示によって動くヒエラルキー構造の管理型組織ではなく上下関係がないフラットな組織を指します。ティールという単語は「青緑」「鴨の羽色」を意味し、 色の名前が組織の形容詞になっているのは、ティール組織の提唱者であるフレデリック・ラルーが著書の中で既存の組織形態を下図のように色で例えたことに由来します。

 

 

 

これに対し、ネットで見つけた「インテグラル理論」の色ごとの段階イメージ図は次のような感じです。

 

 

まあ、良く似ています。インテグラル理論がベースになって「ティール組織」が生まれているので当然と言えば当然ですが(^-^;

 

書籍『武器としての漫画思考』の中では、上図のレッド(弱肉強食で個々の強さが絶対的な指標となる段階=英雄・昭和の家父長制)の漫画事例として「北斗の拳」ブルー(規律やルールを絶対順守する段階=官僚的であり、現在の日本社会)の漫画事例として「島耕作シリーズ」オレンジ(個々の自由や尊厳を認め、成功のために合理的行動をとる段階=起業家・米国での意識重心)の漫画事例として「ONE PIECE」を挙げています。

 

各時代の主要な漫画作品を見れば、当時の人々の意識段階とリンクした作品が見事にヒットを飛ばしていることがわかり、また自身が読んだことのない意識レベルを扱っている漫画を積極的に読むことで(ex. Z世代が「北斗の拳」を読み、60代が「鬼滅の刃」を読むなど)、その感覚を掴み、共感し、自由に操れるようになる有用性を説いた本書の記述には個人的に強く膝を打ちました!

 

このブログで興味を持った方は、ぜひ『武器としての漫画思考』を入り口に、「インテグラル理論」について学びを深めてみるのも面白いと思います。私もそうするつもりです!(^^)!

 

 

2つ目「認知的焦点化理論」という概念。

 

私の所感としては、この概念は商売や人生が上手く行っている人・行っていない人について観察・分析する時、あるいは自身の上手く行っている時・上手く行っていない時について考察・内省する場合において、大変役立つものであると思います。

 

この理論の要点を一言でまとめれば、人間の「運の良さ」を対人関係・時間軸の2つから説明したもので、具体的には下のチャート及びそれに続く説明を読めば、概要がすぐ掴めるでしょう。

 

 

 

 

 

縦軸は人が意識する(≒認知的な焦点になっている)時間軸の長さ横軸は対人関係の幅を表しており、上図で囲まれた面積が広い人(≒行為の影響について長期的な結果、幅広い人々まで想像を馳せられる人)ほど運に恵まれ、上図で囲まれた面積が狭い人(≒自己中心的、刹那的な快楽のみを求める人)ほど不幸になる傾向が強いという理論です。

 

個人的にはとても納得感のある理論だと思っています。この理論について、よりロジカルな解説を求める方は上図の参照元でもある該当ページのリンクを紹介させて頂きますので、そちらをご参照頂くことで本ブログでの説明は切り上げます。

 

 

そして、3つ目の概念「SCARFモデル」です。

 

この概念を知るきっかけになった本書『武器としての漫画思考』の説明を借りることにしましょう。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

本書P.190~ 引用

 

 

『これは、人間の根源的な強い欲求と恐怖に訴求する「一時的報酬と脅威に関する心理モデル」です。もう少しわかりやすく説明すると、「SCARF」とは、人間の脳に報酬と恐怖を引き起こす5つの要素のことで、具体的には以下となります。

 

Status: 社会的地位

 

Certainty: 確実性(未来が明確か)

 

Autonomy: 自律性(自分で決められるか)

 

Relatedness:周囲との人間関係

 

Fairness: 公平性 (フェアに扱われているか)

 

この5要素が、みなさんもよくご存じのマズローの欲求五段階説のうち、「生理的欲求」「安全の欲求」と同じぐらいに根源的で、人間の欲しがるものであり、また失いたくないものだということです。

 

(引用おわり)

 

・・・・・・・・・・・・・

 

本書では、この後にSCARFモデルがビジネスシーンにおいても如何に重要かを分かりやすく紹介していますが、個人的にもこの「SCARFモデル」からの知的連想がなかなか止まず、自身の経験に照らし合わせて妙に納得したり、過去に読んだ本のトピックと絡めて具体的な応用方法を考えてみたりと、脳がなかなか休んでくれませんでした(笑)

 

せっかく色々な知的連想をさせて貰えたので、その成果発表を次回以降のブログでさせてもらおうかと考えています。

 

具体的にはSCARFモデルのそれぞれの要素ごとに、参考図書を1冊ずつ紹介しながら各要素を深堀し、それぞれの書評も兼ねつつ、面白い読み物に仕上げられればと思っています。

 

ちなみに、それぞれの要素ごとの参考書籍のピックアップだけは済んでいます( ̄ー ̄)ニヤリ!

 

Status   では 『人生が整うマウンティング大全』

 

 

 

Certainty では 『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』

 

 

 

Autonomy では  『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』

 

 

 

Relatedness では 『サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用』

 

 

 

Fairness では 『隷属なき道』

 

 

 

ジャンルも難易度もバラバラな「超」恣意的なチョイスです(^-^;

 

既に本を読んだ事がある人の場合、「そのテーマに該当書籍がどう結びつくんだ?」と思う方もいるでしょう。

 

どう結びつくか・・・

 

正直、書いてみるまで私もわかりませんが(笑)、他にないオリジナルな企画になる自信だけはあります。

 

全5回シリーズ予定! 楽しみにお待ちください!(^^)!

 

それでは、また!

 

 

 

江古田Music School代表

 

ST.SAWAIオリオンズ(銀座7丁目) ピアニスト

 

岩倉 康浩

 

 

日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったかの画像

 

■日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか

 

著:上阪 欣史 (日経ビジネス 副編集長)

 

 

日本で1年に出版される本は年間7万タイトル以上。

 

個人的には年間100冊読書をライフワーク目標として定めていますが、古今東西の名著に加え、国内の新刊だけでもこれだけ膨大な数の選択肢の中から「何を、何のために、どう読むか?」は迷いの尽きない問題ではあります(^-^;

 

丁度良い機会なので読書目的を思いつくままに、ざっと次の5つのカテゴリーに分類してみました。

 

 

1)〇〇に役立ちそうだから読む (特定目的型 〇〇の中には仕事、趣味、健康、資産形成などが入る)

 

2)すぐに役立つ事はないが、長期的な修養のために読む (教養・人格基盤強化型

 

3)読書時間それ自体を楽しむために読む (気分転換・娯楽型

 

4)所属コミュニティでの話題提供や有利なポジション形成のために読む (コミュニケーション あるいは マウント型w)

 

5)何となく気になった or 人に勧められたから、とりあえず読む (偶発・セレンディピティ型

 

今回私が本書を読んだ理由は 5)の偶発・セレンディピティ型に該当します。

 

昨年Facebookを見ていたら、知人が興味深い日経ビジネスの記事をシェアしていて、その記者名に上阪欣史(うえさか よしふみ)と見覚えの名前がありました。実は高校時代の剣道部の同期の名前で、本名は欣史(よしふみ)ですが、仲間内では漢字を音読み?した「キンジ」の愛称で親しまれていました。

 

高校卒業後、私は新潟大学農学部、彼は京都の立命館大学産業社会学部と、地理的にも分野的にもまったく違う道に進みましたが、社会人になったばかりの頃に東京で一度だけ飲み、その時に日経新聞に就職したと聞きました。

 

「志望の道に進めて良かったね!」と祝いの乾杯をしたものの、日々の忙しさもあって以来あまり連絡を取ることもなく時は過ぎ・・・昨年20数年ぶりに彼の名前を再びFBで見かけ、懐かしさから再び連絡をとり(FBやXは自然消滅したつながりを復活させるには良いツール!)、彼の行きつけの阿佐ヶ谷の居酒屋で二度目の再会となりました。

 

そこでキンジから人生初の著書を日経BPから近々出すことになったから良かったら読んで!と言われて、「おう、絶対読むわ!」と約束したのが本書『日本製鉄の転生』を読む事になった経緯です。

 

とは言え、正直な話、自分の目的や興味のアンテナだけに従っていたらまず手に取ることがないだろうジャンルです(^-^;

 

私の収入構成は7割が音楽系(講師業・演奏業・eラーニング教材販売)、3割が物流会社の役員報酬(非常勤での人材開発や営業コンサル的な関与)というフリーランス特有の多様性のある働き方をしてはいますが、前者の音楽系の観点から本書を手にとる理由はほぼゼロであり、後者の物流会社の観点からも「製鉄」業界の知見が自身の仕事に直接役立つイメージはあまりありません。

 

要するに高校の剣道部の同期が執筆した本という「ご縁」のみで読んだ本と言っても過言ではなく、前述の読書目的の5類型の中で言えば、目的意識がもっとも薄い偶発的な理由による読書です。

 

ところがどっこい!

 

これが想定外に面白く、馴染みのないジャンルの話にも関わらず素人にも読みやすく、「へえ!」とか「ほう!」とか唸りながら、わりと一気に読み終えてしまいました。

 

製鉄業界にまったく馴染みのないピアニストが読んで一体何がそんなに面白かったのか?

 

これについて語らせてもらうことが私なりに本書の魅力を伝える最も有効な手段になりそうですが、具体的なポイントは次の3点です。

 

①どん底からの逆転劇を人間を中心にリアルに描いたノンフィクションであること

 

②価格交渉、収益改善、組織改革といったジャンルレスなビジネス課題に役立つ生きた教科書になり得ること

 

③地球課題である「脱炭素」について技術的な知見から理解が深まること

 

本書は社員11万人、総資産10兆円の「日本製鉄」というグループの、まあとにかくスケールがデカくて、個人的には馴染みもない業界の話ではありますが、規模や領域は違えどビジネスを行う主体がいつだって人間である以上、そこで働く人間達のドラマをいかに上手く描けるかが読者にとって重要なポイントになります。

 

そこで働く人間の「目的」や「志」(あるいは野心、欲望)、人間同士や組織間の葛藤・対立・相克に読者が如何に共感できるか? そのドラマからカタルシスを感じるだけでなく自分の仕事のヒントになる学びが得られるか? 

 

私がこの手のビジネス書に期待するのはこうしたポイントですが、我らがキンジは実に見事な仕事をやってくれました!

 

なにせ門外漢のフリーランスのピアニストが読んでこれだけ面白いんです。一般的な会社組織、ビジネス領域の近いビジネスパーソンが読めば、より一層楽しめるのは道理というものでしょう!

 

また「高炉」、「粗鋼」、「コークス」など言葉は聞いた事があるものの、素人はよくイメージが湧かない単語も本書を読み進めるのに必要なレベルで過不足なく説明してくれている所も有難いです。日本製鉄が世界に誇る「超ハイテン(高張力鋼)」や、日本製鉄のライバルにあたるアルミを使った「ギガキャスト」の技術、これからの脱炭素に向けた取り組みである「水素還元製鉄」などの概念もわかりやすく学べるのも本書の魅力の一つでしょう。

 

(高校時代、必ずしも理系が得意なイメージはなかった文系のキンジが、いいオッサンになった今こんな分かりやすい文書を書いている事にも感動! 剣道部出身だけに「返す刀」「押っ取り刀」みたいな表現が所々に出てくる所も個人的にもツボです。( ̄ー ̄)ニヤリ)

 

私は日経新聞の読者ではありますが、今まで日本製鉄絡みの記事は眺めるだけで素通りしていました。最近はこの辺の記事もしっかり読むようになったのも本書あってこそ! USスチール買収の行方、「もしトラ」が実現したらどうなるのか? 先々の展開が気になる所ではありますが、こんな風に関心の幅が広がったのもキンジのおかげです!

 

必ずしも、自身の目的や興味の対象でない本であっても、「ご縁」や「オススメ」を機に読んでみることで広がるセレンディピティの素晴らしさを体感できました。

 

このブログを読んで本書に興味を持ってくださった方、ぜひキンジの力作を読んでみてください!

 

発売早々に4刷が決まり、大手書店のビジネス書コーナーの目立つ所に平積みされまくっている状況なので、簡単に見つける事ができるでしょう!!

 

 

 

江古田Music School代表

 

ST.SAWAIオリオンズ(銀座7丁目) ピアニスト

 

岩倉 康浩

 

 

■人類の物語 ~ヒトはこうして地球の支配者になった~

 

■人類の物語 ~どうして世界は不公平なんだろう~

 

著:ユヴァル・ノア・ハラリ

 

 

 

本書の著者、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ史は『サピエンス全史』(全世界で1200万部以上、日本国内でも累計発行部数100万部以上)でおなじみのベストセラー作家。

 

『サピエンス全史』が抜群に面白い本である事は保証しますが、上巻・下巻合わせて500ページ以上のボリュームもあるので、そこがハードルになり「読む人」と「読まない人(or 読めない人)」を選んでしまう点があるのは否めません。

 

遅まきながら、そのハラリ氏が子供向けの人類史の本を書いていた事を最近知り、居ても立ってもいられなくなりました。現時点でシリーズが2冊刊行されていたので早速購入し読んでみましたが、これは本当に素晴らしい仕事です!!

 

井上ひさしさんの名言に、「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」というものがありますが、この名言を見事に体現しているのが、ハラリ氏の「人類の物語」シリーズではないでしょうか。

 

個人的に人類史や進化心理学の本を読むのは好きで過去に色々な本を読んできましたが、その中でも特に私の知のバックボーン形成に役立ったのが次の3作です。

 

ジャレド・ダイアモンド氏の『銃・病原菌・鉄』(原語での初版発行1997年)

 

銃・病原菌・鉄 上下巻の通販 by けんもく|ラクマ

 

ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』(原語での初版発行2011年)

 

Amazon.co.jp: サピエンス全史 単行本 (上)(下)セット : 本

 

ルトガー・ブレグマン氏の『Humankind 希望の歴史』(原語での初版発行2019年)

 

 

Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章 上下巻 ...

 

いずれも相当な情報量があるので、読んだ内容の9割以上は記憶の遥か奥底に眠っている(≒忘れているw)というのが正直な所でしょう。その上で、記憶の篩(ふるい)をかけてなお残るエッセンシャルな部分というのもあるわけで、そうした部分がどうにか自身の精神的な血肉となり、歴史観・人間観を形づくり、色々な思考の礎となっていくのだと思っています。

 

今回紹介している『人類の物語』の何が素晴らしいかと言えば、上に挙げた名著のエッセンシャルな部分が、小学生でも読める内容で、実にコンパクトに、やさしく、ふかく、おもしろく纏まっている所です!

 

コスパ・タイパ重視の「ファスト教養」的な観点から、「これだけ読めばOK!」と言うつもりは毛頭ありませんが、人類最高クラスの知見を持つハラリ氏が語る人類史のキーポイントを自身の「知の大枠」を定めるにあたり参考にするのは十分に役立つでしょう。

 

そして、このシリーズの日本語版タイトル『人類の物語』が示すように、人間だけが持つ偉大な(同時に恐ろしい)力としての「物語」のパワーについて考察が深まるのも本書の魅力の一つです。

 

前回ブログでは、「物語」(≒ナラティブ)の「情報兵器」にも成り得るネガティブな側面ばかりを強調しましたが、影が光から生じるように、人類の持つスーパーパワーとしての「物語」の光の側面を強く感じさせてくれ希望を与えてくれるのも、この『人類の物語』なのです。

 

小学生でも読め、大人が読んでもエッセンシャルで深い学びが得られる『人類の物語』

 

ぜひ、多くの方々に一度は読んで頂きたい名著です。

 

なお、このシリーズは2巻(「ヒトはこうして地球の支配者になった」「どうして世界は不公平なんだろう」)が既刊となっていますが、シリーズ全体として4巻の予定だとの事。次回作が待ち遠しいです!

 

 

P.S.

 

おそらくこの記事をもって2023年のブログ納めとなるでしょう。ここまでお読み頂き本当にありがとうございます!

 

2024年の最初のブックレビューは『人新世の「資本論」』を予定しております。

来年もよろしくお願いします<m(__)m>

 

■人を動かすナラティブ

 

著:大治朋子(毎日新聞編集委員)

 

本書のレビューに入る前に、まずは余談からお付き合いください。

 

若い方から社会生活を送る上でオススメの本を尋ねられた場合、私は質問者の意図をもう少し深く探った上でいくつかの推薦図書を挙げますが、人生におけるディフェンス能力の強化という目的においては米国の社会心理学者ロバート・チャルディーニ氏による『影響力の武器』を推す事が多いです。

 

 

この本は承諾誘導の専門家(販売員、募金活動員、その他様々な説得上図な人間)が、どんな手段で相手にイエスと言わせるかについて、人間の行動を司る6つの原理ー返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性ーについて、その原理から応用例、防衛法まできわめて分かりやすく有用な形で書かれた、いわば人間の行動心理の実践的な解説書です。

 

私が本書に出会ったのは30歳を過ぎてからですが、もし20代の前半の頃からこの本に出会い、上記の6つの原理について実践的な知見を得ていたなら、その後の人生に大きな悪影響を及ぼした幾つかの事項はかなりの確率で回避する事が出来たのでは…というのが本書を初めて読んだ時の私の感想でした。(最近再読し、ますます本書の実用性を再確認しました)

 

まあ、過去をいくら悔やんだ所で起きた事を変える事はできませんし、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」とは良く言ったもので、失敗と強い後悔を経たからこそパワーアップできた部分もあります。しかし見えていれば絶対に避けるであろう落とし穴に進んで落ちる物好きはそうそういないでしょう。

 

そういった意味において、本書には社会生活において貴方に近づいてくる貴方を狡猾に利用しようという意図を持つ相手について防御力を大幅に高める事ができる強い効能があります。まあ、本書は使い方次第では悪用することも可能でしょう。すなわち自分が搾取的な要素が強いトレードを相手に持ちかける際に本書の示す心理的テクニックを使うことによって。しかしながら、私はそれはオススメしません。いささか道徳めいた表現になりますが、悪意的な試みは因果の連鎖を通じて往々にして自分の所に返ってくるものだと思っていますので。。。

 

まあ、時として善意的な試みの方がタチが悪いケースもあります。若い頃は今一つピンとこなかったけど、40代に入ってからその意味が身に染みる格言「地獄への道は善意で敷き詰められている」(”The road to hell is paved with good intentions”)が示すように。。。

 

さて、そろそろ余談から本題に移行して参ります。

 

社会生活を送る上でのディフェンス能力という意味で、私は長らく『影響力の武器』に記された人間の行動を司る6つの原理ー返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性―について折に触れて意識をしてきたわけですが、最近になってこの6つの原理に付け加えるべきもう一つの要素があるのではないか!? と強く思うようになりました。

 

それは、今回レビューさせて頂く書籍『人を動かすナラティブ ~なぜ、あの「語り」に惑わされるのか~』のテーマの核心でもある「ナラティブ」という要素です。

 

 

「ナラティブ」という言葉は、聞きなじみのある方とない方に大きく分かれる言葉かもしれませんが、「物語」「語り」「ストーリー」といった日本語がそれぞれ持つ意味やニュアンスを広く網羅する表現と捉えて頂けると良いでしょう。

 

なぜ『影響力の武器』のメイントピックである6つの原理に「ナラティブ」まで加える必要性を強く感じたかと言えば、本書を通じて、このナラティブが如何に私達の意思決定や行動に無意識レベルで絶大な影響力を持っているか、またそのメカニズムを知る人間によって「ナラティブ」が「情報兵器」として実際に悪用されている現実を知ったからです。

 

ここで「情報兵器」という不穏なワードを投入しましたが、この言葉が大袈裟なものではないことを物語る事例を本書より共有させてください。

 

ケンブリッジ・アナリティカという組織を皆様はどのぐらいご存じでしょうか? 私は本書を読むまでその存在を知らず、私の身の回りの中でも教養レベルが高そうな方々に何人かヒアリングした所、ケンブリッジ・アナリティカについて知っている人は少数でした。しかし「トランプ大統領の当選」や、英国のEU離脱いわゆる「ブリグジット」が現実になった過程において、SNS上での世論操作を通じて暗躍したコンサル機関こそがケンブリッジ・アナリティカであると聞かされればどうでしょう?

 

おそらく心中穏やかではいられないと思います。しかし同時にこんな疑問が頭をかすめるでしょう。

 

「ナラティブを利用した世論操作といっても、具体的にどう行うんだ?」 と。

 

そのノウハウが示された箇所について、本書から引用します。

 

・・・・・・・・・・

 

「狙った集団の心に刺さるナラティブとは、どのように創られたのですか?」

 

「ケンブリッジ・アナリティカはSNSの投稿や性格診断テストなどで収集された膨大な情報を、アルゴリズムを使ってタイプ別に分類し、プロファイルを作った。それに基づき、内部の心理学者のチームがそれぞれのタイプごとに最も効果的だと思われるナラティブを創って試験的にSNSに流し、反応を見た。こうした作業を繰り返し、このナラティブはよく拡散された、これはダメだったと吟味しながら、どういう人々にはどのようなナラティブが利くのか、写真を付けるのか、この言葉を入れるのか、といった判断と調整を繰り返した。その意味では人間とコンピューターの作業を組み合わせた半自動的なプロセスだ。ただナラティブを創る作業は人間でなければできない。クリエイティブな言葉やイメージを考えつくのは人間だからね。」

 

本書P.188~189より引用

 

・・・・・・・・・・

 

英誌「エコノミスト」は2017年に『データは石油をしのぎ、世界で最も価値のある資源だ』と指摘しましたが、実際にデータが経済価値を持つに至る上記の過程を知ると、何やら背筋に寒いものを感じます。本書の一節によれば、『ある人のFBの「いいね」を10個分析するとその人の職場の同僚より、150でその家族より、300個で配偶者より正確にその人の性格や思考、考え方を把握できる』という実験結果も存在するようです。我々は「個人情報」という観念を、より包括的に、よりディフェンシブに見直す必要があるかもしれません。

 

なお、ケンブリッジ・アナリティカについてより具体的に知りたければ、本書を読んで頂くか、あるいはNETFLIXの会員であれば、下記のドキュメンタリー映画を観て頂くと良いでしょう。

 

 

 

 

ハリー・ポッターが「闇の魔術に対する防衛術(DADA: Defence Against the Dark Arts)を身に着けたように、スマホを通じてインターネットやSNSが生活の隅々まで浸透している情報過多社会を生きる我々も、「ナラティブ」の基本知識を身に着け、そのポジティブサイド、ネガティブサイドの両面について認識し、我々が陥りがちな脳や心理的なクセ、いわゆるアンコンシャスバイアスに対し意識的な防衛線を張っておく事は、これからの社会を生きる上での重要なディフェンススキルだと考えます。

 

Harry Potter DADA Art: Canvas Prints, Frames & Posters

 

本書『人を動かすナラティブ ~なぜ、あの「語り」に惑わされるのか』は、情報社会における我々のディフェンスを高めるために重要な情報が詰まっています。

 

気になった方は是非!

 

そうでない方も騙されたと思って是非ご一読頂ければ幸いです<m(__)m>

 

■DIE WITH ZERO

 

著:ビル・パーキンス

 

訳:児島 修

 

突然ですがチャック・フィーニーという人物をご存じでしょうか?

 

名前でピンと来なくても、海外旅行の際にこのロゴは見た事がある方は多いはず。

 

 

DFS グループのプレスリリース|PR TIMES

 

 

私たちの歴史| 沖縄 DFS | T ギャラリア

 

 

デューティーフリー・ショッパーズ・グループ(空港などで良くみかける免税店)の創設者であり、世界をリードするラグジュアリートラベルリテイラーとして莫大な財を成した彼は若い頃からその資産を(匿名)で寄付し始め、80代になった時には通算で80億ドル以上を寄付していたそうです。

 

そのチャック・フィーニー氏は、現在どのような暮らしをしているのでしょう? 本書から該当箇所を引用してみます。

 

『フィーニーは今80代で、妻と共にあえて賃貸アパートに住んでいる。その純資産は現在、これまでに寄付した額のほんの一部でしかない約200万ドルに減っている。だが、残りの人生を生きるためには十分な金だ。フィーニーはビル・ゲイツやウォーレン・バフェットなど、多くの大富豪に影響を与えてきた。』

 

いやはや、なんともすごい御仁がいらっしゃるものです。そんなチャック・フィーニー氏の哲学は、「生きているうちに与える(giving while living)」。寄付をするにせよ、財産の一部を譲るにせよ、それは生きているうちに行動に移すべき。本書によれば、財産分与の場合は「死後にもらうと、うれしさ半減、価値は激減」、寄付については「死後では非効率すぎる」。現金な話で恐縮の極みですが、受け取る側の感覚をイメージすればこれは至極納得です。

 

本書の主張は、タイトルの通り”DIE WITH ZERO

 

生きているうちに金を使い切ること、つまり「ゼロで死ぬ」を目指して欲しい。

 

これこそが本書の核となるメッセージで、様々なデータやファクトを示しながら、リスクも最大限に考慮した上で、いかにこれを実践するかを指南した実用書が本書です。

 

よく言われることではありますが、あの世にお金を持っていくことはできませんし、生前の資産総額を墓碑に刻んだという話も寡聞にして知りません。

 

とは言え「老後資金2000万円問題」ではありませんが、転ばぬ先の杖など要らないという人は稀です。資本主義社会を生きる上では、よーく考えるまでもなくお金は大事であり、何かあった時の支えは多いに越した事はないと思うのは人情です。

 

しかしここで問題なのは「富」と「人生」、大事なのはどっちなのか? という話です。

 

お金には「価値交換機能」「価値保存機能」「価値尺度」という3つの機能(役割)がありますが、重要なのはお金は「価値」そのものではないという事です。

 

一方で人生に価値をもたすものは「経験」であり、今しかできない経験のために、必要以上に今を我慢して貯蓄に励む必要が本当にあるのか? というのは極めて大事な着眼点だと思います。

 

これに関して、本書から示唆に富んだ箇所を抜粋引用させて頂きます。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

P.81~88から抜粋引用

 

多くの人が、死ぬ前に金を使い果たすのは怖いと考えている。私もそれには同意見だ。晩年を金の心配をしながら過ごしたい人などいない。

 

誤解しないで欲しいのだが、私は将来のために貯金すべきではないと言っていない。

 

必要以上に貯め込むことや、金を使うタイミングが遅すぎるのが問題だと言っているのだ。

 

遠い未来の年老いた自分のために、必要以上に今の自分から経験を奪ってはいないだろうか。その金を使い切れるほど、長生きしないかもしれないのに。(中略:本書のこの部分で色々な統計結果やエピソードが示されています)

 

このように、年を取ると人は金を使わなくなる

 

「年をとるにつれて、生きているうちに金を有効に使い切りたいと思うようになるはずだ」と考える人もいるかもしれないが、現実にはそれとは逆のことが起こっているのだ。

 

それはデータにも表れている。アメリカ労働統計局が実施した消費者支出調査によると、世帯主が55~64歳の世帯の2017年の年間平均支出は6万5000ドルだ。それが 65~74歳になると5万5000ドルに、さらに75歳以上の場合は4万2000ドルに下がる。これは年齢とともに高くなる医療費も含めた支出額だ。

 

(少し遡った形で引用)

 

退職金計画の専門家の間では、この消費パターンの変化を表す専門用語さえある。リタイア直後の意欲的に行動をする期間を「ゴーゴーイヤーといい、それが数年続いたのち、行動が穏やかになる「スローゴーイヤー」が来て、最後に行動しなくなる「ノーゴーイヤー」になるというものだ。

 

(再び本の進行順に従って引用)

 

ファイナンシャルアドバイザーはこのパターンを熟知していて、退職者へのアドバイスでも、当然のように「スローゴーイヤー」や「ノーゴーイヤー」について言及している。だが、世間一般には「高齢になるほど金を使わなくなる」という考えは、あまり知られていない。

 

(引用終わり)

 

・・・・・・・・・・・・・

 

本書のテーマは「富」の最大化から「人生」の最大化へのシフトす。

 

上の引用から何か感じる所があれば、ぜひ本書を読んでみてください。

 

人生を充実させるためのマインドセット(ex.「記憶の配当」…経験はその瞬間の喜びだけでなく、尽きることのない思い出を与えてくれる事を「配当」に例えた概念)から、その後ろ盾となるファイナンシャルな知見ex. 生命保険とは反対の性質をもった金融商品「長寿年金のあらまし)まで、総合的に得られる所が多い良書だと思っています。

 

以上で本書「DIE WITH ZERO」の紹介書評をまとめます。

 

本ブログはアメブロでの3つの書評 (『なぜヒトだけが老いるのか』『老後とピアノ』『DIE WITH ZERO』)とnote記事を関連させた企画です。もし良ければ、そちらもご笑覧頂ければ幸いです。

 

note記事:「敬老の日」に紹介したい3冊

 

アメブロ書評:『なぜヒトだけが老いるのか』   『老後とピアノ』

 

■老後とピアノ

 

著:稲垣えみ子

 

リンダ・グラッドン氏が著書『LIFE SHIFT(ライフシフト)』の中で、「人生100年時代」という概念を説いたのが2016年。当時は斬新に響いたこの言葉も今やすっかり市民権を得て、長い老後のステージを充実させるべく、中年以降から新しい趣味を見つける大人も増えてきました。

 

大人に人気の趣味や娯楽といえば、料理・スポーツ・旅行・DIYなど色々ありますが、楽器演奏は根強い定番カテゴリーの一つであり、中でもピアノは人気楽器のベスト3に入るのではないかと思います

 

本書『老後とピアノ』は、朝日新聞を50歳で退職した稲垣えみ子氏が、小学生時代に習っていたピアノを40数年ぶりに再開し、試行錯誤、悪戦苦闘しながらピアノと向き合う日々を綴ったルポルタージュです。

 

大人になって昔の習い事を趣味として再開したり、新しい趣味にチャレンジする人自体は特に珍しくもない時代であり中にはその取り組みや上達の過程を日記に残している人もいるでしょう。

 

しかしそれが商業出版に耐えるクオリティを持ち、ただの面白おかしいエッセーではなく、プロ目線から見ても「なるほど! 深いな・・・」と唸る所があり、シロウト目線から見ても「そうだよねー! わかるわかる・・・」と共感できる所を兼ね備えた読み物となると、かなり稀有な代物になるのではないでしょうか。

 

そんな稀有なルポルタージュが本書『老後とピアノ』なのであります。「大人になってからやるピアノ」の魅力が本当に瑞々しく豊かに描かれているので、大人のピアノ愛好家には是非一度読んで欲しいと心から思いますし大人になって何かを始めようと思っているけど踏ん切りがつかない方の背中を押してくれる心強い存在にもなると思います。

 

せっかくなので、稲垣氏の案内による「大人のピアノの世界」を少し覗いてみる事にしましょう。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

本書コラム 大人のピアノのはじめかた① より引用

 

(前略)確実に言えることは、子供の頃にやっていたピアノと、大人になってからやるピアノとでは全く別物ということだ。子供の頃はピアノと言えば「やらされる」ものであった。つまらない地道な練習に耐えねばその先はないのだと思い、いつになったら「その先」が来るのかよくわからぬまま、兎にも角にも恐ろしい先生に見張られながらビクビクと練習するしかないというものであった。

 

でも大人のピアノは違う。誰かに強制されるわけでもなく「弾きたいから弾く」ことがこれほど気持ちいいものかと誰もが驚くだろう。ゴールがないというのもいい。言うまでもなく、いい年こいた大人が今更熱心に練習したところで、言っちゃあ何だがたかが知れているのである。

 

それでも弾くのが楽しいというのは実に新鮮な世界である。それを経験してしまった身としては、このような素晴らしい世界を独り占めしておくのもどうかと思うのであります。

 

なので当コラムでは、一人でも多くの方が勇気を出してこの世界に飛び込むきっかけになればと、不肖私が実際にどのようなピアノライフを送っているかを書いてみたく思う。(中略)

 

まず、安心していただきたいのは、おっそろしい先生というのは、現代ではほぼ絶滅したらしいという事実である。

 

原因は単純で、経済の論理というやつだ。昔は女の子といえば猫も杓子もピアノを習っていた。つまりピアノの先生のもとへはいくらでも生徒が集まってきた。だが今や世の中は多様化し、ピアノは数ある習い事の一つ。しかも子供の数そのものが減っている。かくして、ピアノの習い手といえば、私のような「人生に先の見えた中高年」が主流となりつつある。そんな中でガミガミとレッスンなどしていたら生徒なんて一人も集まりませんというのが先生方の共通した証言である。(後略)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

まあ、軽快な文体で、よくもまぁここまで明け透けに語るものだな・・・と感心・驚嘆しつつも、私自身が大人を中心に教えているピアノ講師の一人なので、先生方の共通した証言というのには大いに納得であり、何なら追加票を差し上げたいぐらいです(笑)

 

本書の中には実際のレッスン風景の描写も出てきます。著者の稲垣氏が教えを受けている米津真浩さんとは、私自身も個人的に面識がありお人柄のイメージもあるので、イケメン先生が褒めながら優しくレッスンをしてくれるという本書の記述は掛け値なしに本当なんだろうなと納得がいきます。

 

とは言え、手放しに甘ったるいだけのレッスンではなく、米津さん自身が東京音大の大学院を首席で卒業され、日本音楽コンクールのピアノ部門第2位の受賞経験がある本格的な奏者なので、本書を介して伝わる米津さんの言葉の端々に理想の音楽を追求する求道者としての姿勢や音楽への深い愛情も感じられ、米津さん本当に良いレッスンしているなぁ・・・と講師の立場からも得られるものが大きいのも本書の魅力の一つです。

 

さて、本ブログは「敬老の日」にちなんで、人生後半の良い生き方を模索する目的で書いています。本書の中にこの目的にジャストミート(古いか?)する箇所があるので、こちらも是非シェアさせてください。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

P.193~  老いを生き抜くレッスン

 

人はその一生を、脳の機能の大半を使うことなく終えていくというのは有名な話だ。ならば、老化していくことは避けられないとしても、思い込みを捨て、希望を捨てず、日々地道に努力を続けていれば、どれほど年を取っても、またどれほどのろいスピードだったとしても、頭も体もちゃんと「伸びていける」のではないか。ある回路が衰えていても、別の回路を活性化させることはいくらでもできるんじゃないか。

 

ということをですね、実際に指が少しずつ動いていくと、まざまざと実感せざるをえない。我が脳内のシナプスがヨロヨロしながらもそのかわいらしい指を伸ばして隣のシナプスとつながっていく映像が私の頭の中をよぎる。そうなのだ。我が脳、ほんの少しずつだけれど、きっちりと前身しているのである。がんばれがんばれーと思うのである。ということが、毎日の「指の分離」の訓練で、手に取るようにわかるのである。これが楽しくなくって何が楽しいというのだろう?

 

そうなのだ。まだまだ私にはやってないこと、やらなきゃいけないことがたくさんあるではないか。力を抜くこと。使っていない脳を開発すること。衰えていくものを受け入れつつ、まだ使っていない自分の可能性を粘り強くトコトン掘り起こしていくことは、たとえどれほど掘るスピードが遅くなろうが、チャレンジはいくらでもできる。そうだよ、それって、老いを生き抜くレッスンなんじゃないだろうか。肝心なのは結果じゃない。自分をとことん使い果たして、死んでいくこと。それでいいのだ。そのことをピアノが教えてっくれているんじゃないだろうか。(後略)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

いやぁ、こんなに勇気づけられる文章には久しぶりに出会った気がします(拍手喝采!)。

 

繰り返しになりますが、大人のピアノ愛好家、人生後半に新しく何かをチャレンジしたい方には、大いに参考になり励みになる書籍なので、気になったら是非読んでみてください!

 

本ブログはアメブロでの3つの書評 (『なぜヒトだけが老いるのか』『老後とピアノ』『DIE WITH ZERO』)とnote記事を関連させた企画です。もし良ければ、そちらもご笑覧頂ければ幸いです。

 

note記事:「敬老の日」に紹介したい3冊

 

アメブロ書評:『なぜヒトだけが老いるのか』   『DIE WITH ZERO』

 

 

 

■なぜヒトだけが老いるのか

 

著:小林武彦 (講談社現代新書)

 

帯にもあるとおり、本書は2021年4月に第一刷が発刊された講談社現代新書『生物はなぜ死ぬのか』の続編です。

 

仏教では「生・老・病・死」を人が避けられない四つの苦しみ「四苦」と説きますが、この「死」の必然性について生物学・遺伝学的な見地からの科学的な解明を試みたのが本書の前編にあたる『生物はなぜ死ぬのか』です。

 

生物はどこかの段階で、同じ個体内での新陳代謝を繰り返しながら不老不死形態になるという選択肢もあったのかもしれません。しかし結局は「変化と選択」を繰り返す「進化のプログラム」が採用され、私達はその結果「死」が不可避なものとなっているというのが、『生物はなぜ死ぬのか』という問いに対する、超大雑把な答えになります。

 

まあ、これだけで伝わるとは思えませんので、少しだけ補足します^_^;

 

実は、生物は世代交代の度に、ごくわずかな遺伝子の偶発的なマイナーチェンジが起こるようにプログラムされていて、外界の環境変化があったとしても、その変化に有利な遺伝情報が発現された種が生き残ってきたという説が現代では有力です。

 

マイナーチェンジと言っても侮ってはいけません。チンパンジーとヒトは、見た目はずいぶん違いますが、遺伝子はなんと98.5%が同じです。ヒトとチンパンジーは約600万年前に共通の祖先から分かれたと考えられていますが、1世代が約20年として、600万年は世代数では30万世代に相当します。30万世代という途方もない世代交代を経て蓄積された1.5%の違いが、ここまで大きなものになるのです。

 

さて、前置きがやや長くなりましたが必要性を感じての事につきご了承くださいませ…

 

前著『生物はなぜ死ぬのか』が生老病死の「死」にスポットライトを当てたの対し、本書『なぜヒトだけが老いるのか』は「老」に対しての科学的考察、そしてそれを踏まえた上での社会的提言を行った書籍です。

 

なぜヒトだけが老いるのか?

 

このタイトルは実に上手いと思っています。裏を返せば、人間以外の生物は老いずに死ぬ、という事になりますよね。

 

飼い犬や飼い猫の老衰を見た経験がある方からは反論が来るかもしれませんが、それは飼われている状態での話であり、本書によれば野生の生き物は基本的に老化しないそうです。

 

考えてみれば当然なのですが、サバンナのシマウマが老衰で弱っていたらあっという間にライオンの餌食になりますし、ライオンが老衰で弱っていたらハイエナの餌食になるかもしれません。野生動物の場合、捕食者に喰われる以外の死因は心臓が弱って死ぬ心不全が多いそうで、人間で言えば「ピンピンコロリ」の理想状態に近いとも言えます。(では、野生動物に倣ってどうすれば「ピンピンコロリ」の理想に近づけるのかと言えば、死ぬ直前までよく働いて、心臓をよく使うことが必要だそうです。個人的にはこの部分に、良い生き方、老い方、死に方の重要なヒントがある気がします。)

 

本書が面白いのは、生命科学のエキスパートである著者が、自然界の様々な事例を元にユニークな考察を重ねながら、一般人にも分かりやすく説明してくれている所であり、本書で紹介される事例は思わず人に話したくなるような「え! そうなんだ!」と思えるネタの宝庫でもあります。

 

過度なネタバレは控えつつも、本書に興味を持って頂くために、そのエッセンスを少しシェアさせて頂こうと思います。

 

その一つが本書の中の「ヒトの寿命は本来55歳!?」という箇所(P.79~81)です。本書の雰囲気を掴んで頂くために、少し引用させて頂きます。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

『チンパンジーやゴリラに比べると、ヒトの寿命は飛びぬけて長いです。ヒトは老化および寿命に関して、非常に特殊な生き物なのです。

 

日本人の平均寿命は最近100年間、毎年平均0.3歳ずつ伸びており、大正時代に比べてほぼ2倍になりました。生物として何かがこの短期間に変化したわけではなく、社会の変化、つまり栄養状態や公衆衛生の改善により若年層の死亡率が低下したおかげです。

 

では、本来の生物学的なヒトの寿命はどのくらいでしょうか? 私は50~60歳ぐらいではないかと考えています。そう考える根拠はいくつかあるのですが、中でも強いものを3つ挙げてみます。

 

1つ目は、ゴリラやチンパンジーの寿命からの推定です。ゴリラやチンパンジーの最大寿命は大体50歳前後です。ヒトとゴリラやチンパンジーや、見た目はかなり違いますが遺伝情報(ゲノム)はほぼ同じ(チンパンジーは98.5%同一)です。ヒトはちょっと賢い(?)だけで、同じ大型霊長類の仲間なのです。ですので、ヒトの肉体的な寿命も彼らと似ている、つまり50歳前後、と考えるのはありだと思います。(後略)』

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

ね! なかなか分かりやすく、面白いと思いませんか?

 

この後2つ目の根拠として「哺乳動物の総心拍数は一生でほぼ20億回仮説」からの推定(私が大学生の頃に話題になった中公新書「ゾウの時間、ネズミの時間 ―サイズの生物学」の中心トピックでもあるのでご存じの方も多いかもしれません)、3つ目の根拠として「がん」、すなわちヒトは55歳くらいからがんで亡くなる人数が急激に増加するのに対して、野生の哺乳動物でがんで死ぬものがほとんどいない、という推論が紹介されています。

 

本書がユニークなのは、こうした生物学的なトピックからの推論にとどまらず、これらを踏まえて「最高の老後の迎え方」についての社会的な提言までしっかり踏み込んでいる点です。この部分こそ、多くの方々に実際に本書をお手にとって読んで頂きたい所ではありますが、この部分も少しばかりシェアさせてください。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

(P.181~192 抜粋引用)

 

社会の力で元気を保つ

 

死ぬ間際まで老いの期間を元気で過ごすために、生命科学分野でできることについては私も含めた研究者が日々努力しています。それ以外にも方法があります。

 

ヒトは社会性の動物です。社会の中で進化して、メンバーとしての役割を担うことで生きる活力を得てきました。言ってみれば、ヒトは本来、みんなのためなら張り切れる動物なのです。少し生物学的に表現すると、進化には目的はないので、集団生活に適応した、他者と協力できる裸のサルだけが「選択され」、生き残ってヒトになれたのです。(中略)

 

シニアが「集団」の中で自らの寿命を延ばしてきたのも「公共=集団のため」という人の社会の中に居場所を見つけられたからです。居場所は、社会性の動物にとって生きるために必須な要素なのです。(中略)

 

悩ましいのは、平均寿命の延びとともに健康寿命も延びていますが、その差は若干小さくなっているものの、あまり変わらないということです。つまり、寿命が延びても「不健康」期間が相変わらず10年程度あります。この差を縮める、つまり健康寿命を延ばしてピンピンコロリに近づけることが重要です。そのために、シニアになっても体を動かしたくなるような活動を続けるのが大切です。社会の中で役割を担い、公共的に活動するのは、体を動かしたくなる動機としては、最高だと私は思います。

 

これまでお話ししてきたように、今後の日本の再興にはシニアの力が非常に重要だと思っています。そのためには何よりシニアが元気に活躍できることが必要です。制度的な制約をなくすことはもちろんのこと、「老い」をネガティブではなく、一つの「変化」と捉えて精神的にも肉体的にも「老いずに生きる」ことができれば素晴らしいと思います。(後略)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

本書終盤の10ページ余りの箇所を、極めていい加減な継ぎ接ぎで引用した形で恐縮ですが、こちらで興味を持って頂き実際に読んで頂く方が増えるのを祈るばかりです。

 

本書には、生命科学分野からの興味深い推論だけでなく、良い生き方、良い老い方、良い死に方のヒントにつながる良質なエッセンスが色々と詰まっているので、「敬老の日」のタイミングで読むのにふさわしい本だと思い、拙ブログにて紹介させて頂きました。

 

本ブログはアメブロでの3つの書評 (『なぜヒトだけが老いるのか』『老後とピアノ』『DIE WITH ZERO』)とnote記事を関連させた企画です。もし良ければ、そちらもご笑覧頂ければ幸いです。

 

note記事:「敬老の日」に紹介したい3冊

 

アメブロ書評:『老後とピアノ』    『DIE WITH ZERO』

 

 

 

■資本主義の再構築 

 

著:レベッカ・ヘンダーソン

 

訳:高遠 裕子

 

 

結論から書けば、ここ最近に読んだ本の中で一番書評を書く使命感に駆られた本です。

 

現代現代社会の抱える問題点を構造から浮き彫りにし、複雑に絡み合った諸問題に対して役立ち得る先行事例を紹介し、先立つ問題を予見して処方箋まで提示した本書は、現代の資本主義に対して何らかの危惧を抱いている人にとって希望の書となるでしょう。

 

本音としては、このブログを読んだ後に一人でも多くの人に実際に本書を読んでもらうのが一番であり、本書の内容がいわゆる常識になり、一般市民がこれからの社会を考える上での認識基盤となる状態が理想です。

 

普段のブログでは、これから読む人の楽しみをしっかりと残しておくために、要約的な書評はなるべく書かないようにしていますが、本書については、できるだけ多くの人に問題意識を共感してもらいたい想いが強いので、今回は敢えてその禁を破ります。

 

今回のブログは、本書の内容をコンパクトに伝え、問題意識を高めてもらう事を目指します。

 

本ブログだけで、ある程度のエッセンスを伝える関係上、それなりの文章量になります。

 

文字数約7,800文字なので、こちらを読むだけでも10分ぐらいの時間がかかりますが(^^;)、私がこの本を読むのに4時間使い、ブログを書くのに2時間使っている事を考えれば、ずいぶん美味しい話だとも思います( ̄^ ̄)

 

まず本書の骨子は、シンプルにまとめればこんな感じです。

 

・・・・・・・・・・

 

現代社会の主要課題は次の3つ

 

1)大規模な環境破壊

 

2)経済格差

 

3)社会の仕組の崩壊

 

これら全てに現在の短期利益追求型の資本主義スタイルが関わっており、事態の改善のためには次の5つのピースがカギになる。

 

①共有価値の創造

 

②目的・存在意義(パーパス)主導型の組織を構築する

 

③金融回路の見直し

 

④協力体制をつくる(自主規制)

 

⑤包摂的な社会の構築(社会の仕組を創り変え、政府を立て直す)

 

・・・・・・・・・・

 

本書は第一章から第八章まで順番に読んでいけば、上記の骨子について具体的な事例と共にしっかり理解できるようになっていますが、これから本ブログで、これらについてもう少しイメージが湧くような形で簡単なオリエンテーションなような事ができればと思います。

 

まず現在社会が抱える問題について、分かり易く示されている本書の冒頭部分を引用します。

 

・・・・・・・・・・

 

『資本主義とは何か。

 

人類の偉大な発明の一つであり、史上最高の豊かさをもたらした最大の源泉なのか。

 

地球環境を破壊し、社会を不安定化させかねない脅威なのか。

 

資本主義とは何かという問いは、こうした質問を通して筋道を立てて考える必要がある。

 

議論の格好の出発点となるのが、現代の三つの主要課題、すなわち、大規模な環境破壊経済格差社会の仕組みの崩壊という日増しに重要性を増している問題である。

 

地球は炎上している。現代の工業化を牽引してきた化石燃料の燃焼によって、多くの人々が死に追いやられている。同時に、気候は不安定化し、海洋は汚染され、海面は上昇している。地球の表土の大半は痩せ、清浄な水の需要に供給が追いついていない。放置すれば、気候変動によって国内総生産(GDP)は大幅に減少し、沿岸部の主要都市は浸水し、数百万人の人々が食料を求めて移住を余儀なくされるだろう。昆虫の個体数は激減しているが、その理由も、その結果どうなるかも誰にもわからない。誰もが依存している自然のシステムの持続可能性を、私たち自身が破壊するリスクを冒している。

 

富は急速にピラミッドの頂点に集まっている。世界で最も豊かな50人が、会半数を上回る資産を保有する一方、60億人が1日16ドル未満で暮らしている。数十億の人々は十分な教育や医療を受けたり、まっとうな職業に就いたりする機会がないが、その一方で、ロボティクスと人工知能(AI)の発達で多くの雇用が脅かされている。

 

歴史的に市場の均衡を保ってきた社会の仕組み ー家族や地域社会、伝統の尊重、政府、そして人類共同体としての共通意識- までもが崩れつつあり、非難の的にすらなっている。多くの国で、子どもは親ほどいい暮らしができる保証はないとの見方が増え、マイノリティや移民に対する反発が強まり、世界各地で政権の安定が脅かされている。いたるところで、社会体制は圧力にさらされている。新世代の独裁的なポピュリストは、憤怒と排他性という社会に有害な要素を利用して権力を固めようとしている。(以下略)』(引用おわり)

 

・・・・・・・・・・

 

こうした問題については本ブログをお読みの方にとっては既に認識済みの事柄であると思いますが、この機にあらためて意識を深めて頂ければ幸いです。

 

経済格差の問題については、昨年映画化された『21世紀の資本』(by トマ・ピケティ)のドキュメンタリーを観るのも良いかもしれません。

 

 

 

21世紀の資本の本質は「r > g」に集約されるというのはそれなりの知識人にとっては常識的な話だと思いますが、格差の下位で苦しむ人ほどこの不等式の意味を知らない気がしています。「本来こうしたメッセージは既得権益を持たない層や世代にしっかり届けられ、そういう人達が社会の仕組みに興味を持って声を上げる事が大事なのでは?」と思っていたので、この作品の映画化は嬉しく思います。まあ、脱線しましたので話を戻します。

 

次に事態改善の5つのピースについて ①共有価値、②目的主導、③金融回路の見直し、④協力体制(あるいは自主規制)、⑤包括的な社会の構築について、本ブログでは、①、③、⑤について簡単な補足解説をさせて頂きます。

 

第一のピース - 共有価値の創造

 

『人は呼吸しなければ生きていけないが、生きる目的は呼吸することではない。今の世界で、資本主義を創り変えるには、企業は収益を上げるだけではなく、居住可能な地球と健全な社会という枠組みの中で繁栄を築き、自由を確保することを目指すべきである。そうでなければ繁栄はありえない、という考えが浸透する必要がある。

 

※エリックの経験は、社会をより良くするビジョンが、大きな力をもちうることを物語っている。こうしたビジョンがあったからこそ、「共有価値」を生み出し、高収益のビジネスを構築し、正しいことをしながら、同時に、リスクを減らし、コストを削減し、需要を増やすことができた。 (本書P.48より引用)』

 

※「エリックの経験」というのは、ノルウェー最大の廃棄物処理会社ノルスク・ジェンヴィニングのCEOエリック・オズムンゼンによるビジネス事例です。勇気と希望にあふれた事例につき、本書に興味を持って頂いたなら、ここだけでも是非読んで頂きたいと思います。

 

エリックの事例に限らず、現実世界における具体的で役に立つ先行事例が数多く紹介されているのが本書の特長です。きれいごと、あるべき論も大切ですが、残念ながらそれだけでは世の中は変わりません。現実を変える叡智がたくさん詰まっているからこそ、本書が多くの人々に読まれる事を願ってやみません。

 

第三のピース - 金融回路の見直し

 

『資本主義を再構築する上でまさに最大の障害となるのは、伝統的な金融かもしれない。投資家が自身の収益最大化だけを気にして、簡単に計測できる短期指標だけに注目するかぎり、企業はわざわざリスクをとって共有価値を創造し、※王道を行く労働慣行を取り入れようとはしないだろう。現代の大問題に取り組むことは、法に則り、道徳的に求められていることかもしれないが、そのことで投資家にクビを切られるとすれば、企業経営者が問題の解決をみずから担う気はなくなる。本気で新しい資本主義を考えるなら、資本主義システムの見直しが不可欠である。(本書P.51より引用)』

 

(※本書が意味する「王道を行く労働慣行」とは、人間を機械の邪魔をする存在やモノとして扱うのではなく、人間を尊厳と敬意をもって扱うことを指しています。)

 

企業の資金調達については個人的にも深刻な病巣が潜んでいると思います。最近読んだ書籍『金融バブル崩壊』の中に、関連する記述があったので合わせて紹介させて頂きます。

 

 

『最近は企業経営に株主利益の最大化ばかりが求められる。それが、なにがなんでもの収益力強化と短期利益の追求に集約される。

 

ノーベル経済学者ミルトン・フリードマン教授などに代表される自由経済主義者が二言目に口にする、「企業は株主のもの」が行き過ぎた結果である。株主の利益につながるのなら、なにをやっても構わない。とにかく株価を上げろ、配当を増やせの株主圧力で、ひたすら利益追求を企業に迫るわけだ。

 

株主利益をトコトン追求すると、おそろしくいびつな企業経営となり、経済全般や社会にとっては大きなマイナスとなってしまうのだ。

 

いびつな企業経営とは?

 

企業が社会に生み出す価値を付加価値という。株主利益に直結する最終利益なんてものは、付加価値のほんの一部にすぎないのだ。企業にはもっと多方面にわたって、多くの富を生み出すことが求められる。

 

付加価値の中には、人件費・減価償却費・研究開発費・賃貸料・支払利子・租税公課といったものが入ってくる。これらは企業にとって費用項目となるが、経済や社会にとっては大事な富の創出である。(中略)

 

しかるに、株主利益を最大化させるということは、付加価値額における費用項目を目一杯削った経営をもって良しとするわけだ。すなわち、人件費や設備投資などをギリギリまで抑えこんで、とにかく利益を出せと経営陣に迫ることになる。(中略)

 

ところが、企業経営において人件費を削れば削るほど経済全体では個人消費を圧縮することになる。それは、まわりまわって経済活動を縮小させて、その企業の売り上げにもマイナス要因となる。完全なる悪循環である。(以下略)』

 

まあ書籍を同士を比較すると、アカデミックな上品さを纏う『資本主義の再構築』に対し、『金融バブル崩壊』は煽情的でチャラい感じはありますが(笑)、この部分についてはどちらもメッセージの本筋は似ていると思います。カラーはかなり違いますが、メッセージを効果的に伝えるために敢えてこちらも引用してみました。

 

 

第五のピース - 社会の仕組を創り変え、政府を立て直す

 

著者のレベッカ・ヘンダーソン氏は、本書第7章の一節「私たちが必要とする政府をつくる」において、「包摂的」VS「収奪式」な仕組み「開放的」VS「閉鎖的」な体制という対立概念を上手に使いながら論旨を展開しています。これについて、引用していきます。

 

『体制が基礎とすべき重要な柱については、驚くほど一貫したコンセンサスが形成されている。学会では現在、ドイツ、チリ、韓国、アメリカなどの「包摂的」な仕組みに基づいた「開放的」な体制と、ロシア、ベネズエラ、アンゴラ、北朝鮮、トルクメニスタンなどの「収奪的」な仕組みに基づいた「閉鎖的」な体制に分けている。

 

包摂的な仕組みと収奪的な仕組みの区別を最初に強調したのは、ダロン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンの共著『国家はなぜ衰退するのか』である。

 

 

包摂的な経済の仕組みとは、市場の効率的な機能を支えるもの、包摂的な政治的仕組みは、国民が政治プロセスに参加し、政府を監視できるものと定義されている。これに対し、収奪的な体制では、政治と経済の権限がエリートに集中する。

 

収奪的な体制は専制政治である。収奪的な社会では、政治力と経済力が一握りのエリートに集中する。法の支配は気まぐれにしか行使されず、少数派の権利は虐げられ、投票権は-あったとしても、組織的に操作され管理されている。収奪的な仕組みのなかで、自由市場が栄えることはない。(中略)

 

包摂的なレジーム(体制)はオープンで、民主的で、行為には説明責任が求められる。誰でも -親が偉くなくても- 政治活動や経済活動に参加することができる。特徴的な仕組みが二つある。

 

一つは参加型政府であり、二つ目は自由市場である。前述のように、両者は補完的であり、存続するために互いを必要としている。どちらも脆弱である。政府はたえず権力と富、管理を拡大しようとする。市場も同じように、制約を課すルールを弱体化させようとする。常に規制の緩和・撤廃・税率の引き下げ、権限の拡大を狙っている。

 

政府と市場は互いを必要としている。そして、両者が均衡のとれた状態であるためには、ほかにも必要な自由社会の仕組みがある。具体的には公平な法の支配、労働者の発言権、マイノリティの権利保護、自由で機能する報道、そして活発でオープンで実効性のある民主制、といったものである。(以下略)』

 

ここで引用させて頂いたのは抽象的な話ですが、本書では中世のヴェニスでの包摂的な政治が経済成長を刺激して繁栄を築いた歴史的実例(その後排他的な富裕な商人のグループが議会へのアクセスを制限し、富豪一族が政治と経済を支配したことでヴェニスの腐敗と衰退がはじまった事も興味深い)、包摂的な社会を築く上で産業界が重要な役割を果たした事例として、第一次・第二次世界大戦後のドイツ、19世紀末のデンマーク、1960年代のモーリシャスの3つケースを取り上げており、こうした具体的事例に多くを学べるのが本書の魅力である事を、ここに重ねて強調しておきます。

 

 

現代社会の抱える3つの課題と、資本主義を再構築するための5つのピースについて論じた後、本書では個々の読者一人ひとりが取り得る実際のアクションこそが重要であると説きます。

 

『「私に何ができるでしょうか?」。よくこう聞かれるが、これが最も重要な疑問に違いない。このとき陥りやすい罠が、世界を変えられるのはヒーロー(やヒロイン!)だけだ、と考えてしまうことだ。公民権運動について語るときは、マーチン・ルーサー・キングやローザ・パークスについて話す。ニューディールについて語るときは、フランクリン・D・ルーズベルト大統領について話す。(中略)

 

だが、こうした焦点のあて方は、私たちの頭の中にある固定観念と現代のコミュニケーションの性格を反映したものであって、実際に変化がどう起きるかを伝えるものではない。騒々しく雑多で複雑な現実世界を理解するために、私たちは物語を使う。そして物語には主人公が必要だ。主人公は、私たちが共感を覚え、賞賛することのできる一個人だ。

 

だが、現実世界はそのようには動かない。影響力のあるリーダーは、自分の周りに湧きおこる変化の波を見つけ、その波に乗る。

 

マーチン・ルーサー・キングだけが公民権運動を起こしたわけではない。その背景には大勢のアフリカ系アメリカ人とその同胞の何十年にもわたる活動があり、一人ひとりが危険で困難な役割を引き受け、変化を起こすべく立ち上がった。

 

ローザ・パークスはたった一人のヒロインなどではなく、ある日の夜、バスの席を立たないと決めただけだ。パークスは公民権運動を熱心に支持する労働者で、この夜の決断はベテランの女性活動家ネットワークとの連携に乗ったものだった。(中略)

 

一人ひとりこそが重要であり、できることはたくさんある。具体的に説明しよう。』

 

 

本書ではこの後に、変化を起こすための6つのステップとして、以下のように示されます。

 

 

ⅰ 自分自身の目的・存在意義(パーパス)を発見する

 

ⅱ 今、何かやる

 

ⅲ 仕事に自分の価値観を持ち込む

 

ⅳ 政府で働く

 

ⅴ 政治を動かす

 

ⅵ 自分自身を大切にして、喜びを見つける

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

本書についての要約、引用は以上です。

 

久しぶりにこのスタイルでブログを書きましたが、引用が多くなると文字数が嵩みますね。既に6,000字を超えています。

 

大変すばらしい書籍で、ぜひ多くの人に読んで欲しいと思いつつも、現実問題として本書を読む層はある程度限られる気もしています。

 

それであれば、多少ボリューミーでも、本書の重要箇所を摘まみ食いしながら、問題意識を共有できるような要約スタイルのブログもアリかなと思い、今回はこのような形をとらせて頂きました。

 

今後個人的に何をするかについては、できる事を少しずつ積み重ねて行こうと思います。

 

まずは、本書の共感者、理解者を増やす意味で、このブログを書いた事で最初の一歩を踏み出した事にさせて頂きます(笑)

 

自身の行動について改めるべきであると強く思ったのは、資産運用のスタイルについて。

 

数年前より資産の一部を株や投資信託の形で保有しており、それなりに運用益を出しながら賢く運用しているつもりでいたのですが、本書を読んだ事で自身の運用が間接的に与えている影響について大きく考えさせられました。

 

投資信託は自分で考える手間を削減してくれるのでラクではありますが、裏を返せばその内実が不透明でファンドマネジャーの采配に全てを委ねている事とイコールです。なので、投資信託については時期を見て引き上げて、自分の意志が明確に反映されるアクティブ運用に切り替え、スタイルとしても短期リカクを繰り返す投機的運用ではなく、長期保有を前提とした形に切り替えるつもりでいます。

 

ブログによる書籍のシェア、資産運用スタイルの見直しに加えて、自身の中でもっともワクワクするのは変化を起こすための6つのステップの3番目

 

ⅲ 仕事に自分の価値観を持ち込む

 

これに尽きます!!

 

私事にはなりますが、昨年コロナ禍を乗り切るために、自身の仕事の再構築を行いました。

 

具体的には自身のレッスンコンテンツを分解し、知識集約的な部分を動画に落とし込み、60本の動画(1本あたり平均18分、計18時間)で専門学校履修レベルのジャズ理論・ピアノスキルについて独習可能な教材を作成しました。

 

この動画で生徒さんに予習をしてもらった上で、実技的な内容や色々な楽曲へスキルを応用する部分についてリアルレッスンで発展的に扱うという「ハイブリッドレッスン」というスタイルをつくった事で、教える側、教わる側、双方にとって時間が有効に活用できて、いわゆるコスパも良い形で、自身のレッスン業務を再構築できました。

 

この動画教材“Jazz Essence -for Lounge Pianist”のネット販売が新たな収入源につながり、コロナのピンチをチャンスに変える事ができた良い事例だと思っています。専門学校レベルの内容が月々2,900円のサブスク方式で学べる事もあり、利用者数も増えてきました。

 

しかし、本書を読んで思いました。

 

「そんな所で満足しているような低い志ではいかん!」 と。

 

 

今考えているのはこんな事です。

 

現代社会の抱える3つの課題

 

1)大規模な環境破壊 2)経済格差 3)社会の仕組の崩壊

 

に絡めて、 自身のスキル・ノウハウを有効活用する形で、ビジネスの再定義はできないものかと。

 

1)については、現状のフィールドからは距離がありそうですが、今回レッスンコンテンツのデジタル化により限界費用が相当縮小したことで、経済格差の解消に資する取り組みは何かしらできそうな気がします。演奏や音楽コンテンツの企画次第で、コミュニティーの創造、再生に役立つ形で自身の力を役立てることもできるでしょう。

 

そうした取り組みを通じて、変化を起こすための6つのステップの他の項目

 

ⅰ 自分自身の目的・存在意義(パーパス)を発見する

 

ⅵ 自分自身を大切にして、喜びを見つける

 

の部分にもつながり、それらが他者、社会とうまく絡み合いながら、互いに豊になれる働き方こそが、サスティナブルなあり方であり、これを目指すことが本当の意味での「働き方改革」なのかもしれません。

 

ここまで読み頂き、本当にありがとうございます。

 

 

 

江古田Music School代表 

 

銀座ST.SAWAIオリオンズ 専属ピアニスト

 

 

岩倉 康浩

2016年に、個人目標として年間100冊の本を読むことを定め、なんとか5年続ける事ができました。

 

毎年目標を達成する度に、読書全般について考察する記念碑的なブログを書いていましたが、昨年分はまだ書いていなかったので、遅まきながら書いてみようと思います。

 

5年という一つの節目を迎えたので、今回は少し大きなテーマから考察します。

 

題して

 

人生100年時代の読書観

 

「読書術」の方がわかりやすいかな? とも思いましたが、なんだか烏滸がましい気がして・・・

 

あくまで、私の読書についての考え方、という事でよろしくお願いします。

 

さてご存知の方も多いと思いますが、「人生100年時代」という言葉はロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが著書『LIFE SHIFT(ライフシフト) 100年時代の人生戦略』の中で提唱したものです。

 

 

 

 

本書の第4章は『見えない資産 -お金に換算できないもの』、すなわち無形資産についての考察に充てられており、次の3つのカテゴリーに分類しています。

 

1)生産資産

 

2)活力資産

 

3)変身資産

 

以下、本書P.127より簡単に引用します。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

1)生産資産

 

人が仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ要素のことだ。スキルと知識が主たる構成要素であることは言うまでもないが、ほかにもさまざまな要素が含まれる。

 

2)活力資産

 

大ざっぱに言うと、肉体的・精神的な資産と幸福のことだ。健康、友人関係、パートナーやその他の家族との良好な関係などが該当する。長期追跡調査によれば、パートナーやその他の家族との良好な関係などが該当する。長期追跡調査によれば、活力資産を潤沢に蓄えていることは、よい人生の重要な要素の一つだ。

 

3)変身資産

 

100年ライフを生きる人たちは、その過程で大きな変化を経験し、多くの変身を遂げることになる。そのために必要な資産が変身資産だ。自分自身についてよく知っていること、多様性に富んだ人的ネットワークをもっていること、新しい経験に対して開かれた姿勢をもっていることなどが含まれる。このタイプの資産は、旧来の※3ステージの人生ではあまり必要とされなかったが、マルチステージの人生では非常に重要になる。

 

※3ステージの人生・・・教育、仕事、引退の3ステージ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題。

 

これから上記の資産の3分類について、読書と絡める形で考察を進めていこうと思います。

 

先の3分類を読書の目的に照応させると次のようになります。

 

 

1)生産資産を高めるための読書

 

2)活力資産を高めるための読書

 

3)変身資産を高めるための読書

 

 

これらについて私のイメージを簡単に補足します。

 

 

1)生産資産を高めるための読書

 

もっともわかりやすい有形資産「お金」に直結する知的投資で、仕事の情報収集のためにビジネス書を読んだり、知識武装目的で専門書を読むのがこれに当たります。

 

質・量ともに大切ですが、スピードと効率も求められるので、生真面目に精読するだけでなく、時には斜め読み、飛ばし読み、トピックの拾い読みなど混ぜつつ、短時間で要領よく読む事も必要です。

 

情報が氾濫する世の中では、informationをintelligenceに高める読み方がカギになります。

 

どちらも日本語では「情報」の一語で扱われていますが、informationが生の一次情報であるのに対し、intelligenceには意思決定を下すために分析・加工した情報のニュアンスがあります。ようするに、単なるファクトの羅列ではなく、So what ? (で、どうすればいいんだ?)に対して、分析・解釈・具体的アクションのレベルで応えられるかが重要です。

 

米中央情報局の英語も Central Intelligence Agency。単なるinformationの収集ではなく、大統領の意思決定に資するintelligenceを届けるのが彼等の本分である。

 

 

2)活力資産を高めるための読書

 

「お金」には直結しないが、幸福や健康や豊かな人間関係に資する読書です。

 

1)が「できる仕事人」を目指す読書とすれば、2)は「良い人間」になるための読書と言っても良いかもしれません。

 

自分で書いていながら、あまりのモヤモヤぶりに苦笑していますが、個々の価値観、大切にしている信条は異なるので、各々が自分の理想と照らし、読みたいものを、読むべき必要があると思うものを、じっくり味わいながら読めば良いと思います。

 

このように書くと些か生真面目な感じもしますが、文学を味わい、哲学書と向き合うような時間だけでなく、娯楽や脱力目的の読書も心の余白を保つ上では重要だと思っています。

 

 

3)変身資産を高めるための読書

 

ここ最近、自分の中で一番重要性を感じているのは実はこのタイプの読書です。

 

世の中の変化スピードは益々速まっており、不可逆的な流れに抗って生きるより、自分自身を上手く変容させられる柔軟さを持ち合わせている方がエネルギー効率の良い生き方ができます。(コロナ禍の現在、これを実感されている方も少なからずいらっしゃるでしょう)

 

変身資産と読書を結びつけて考えるきっかけになったのは、劇作家の平田オリザさんのこんな言葉です。

 

『ディベートは、話す前と後で考えが変わったほうが負け。

ダイアローグは、話す前と後で考えが変わっていなければ意味がない。』

 

哲学者の鷲田清一さんが、朝日新聞の連載「折々のことば」で取り上げたのをネットニュースで見て知ったのですが、このフレーズに自身の思考スタイルの変遷が集約されている気がしたのです。

 

「昔はディベート一辺倒だったが、最近は結構ダイアローグを楽しめるようになったな・・・」

 

自分が若い頃は、自らの主張を通す事こそが最優先事項で、理路整然と論点を整理するためにロジカルシンキングを鍛え、論証を強化する有利な材料を集めるために本で知識武装をし、教養ある話者を演じるために古典を引用し箔付けする、みたいな事に血道を上げていました。

 

当時の自分にとって、読書はその目的に叶った最高のツールであり、自身の「説得力」や「論破力」みたいなモノを強化したく、色々と読んでいたように思います。言わば、賢い自分になる事で優位に立ちたい願望が過剰に表れた読書スタイルであり、上の3つの分類に当てはめれば1)の生産資産の向上しか眼中にない状態です。

 

面白いもので、そんな読書スタイルでも量が質に転ずるとでも言うのでしょうか。なんとなく「教養」という言葉に憧れて名著や古典と呼ばれるものに挑んだのも良かったのかもしれません。賢い自分を演出したいという不純な動機が中心でありつつも、背伸びは成長の大事な要素の一つ。色々な良書に触れるうちに、それらのエッセンスが少しずつ自分に取り込まれ、考え方や心の在り様も少しずつ変わってきました。

 

読書を通じて大きく変わったのは、自分自身を客観的に見る力(いわゆるメタ認知)、そしてロジックに過剰な重心を置くことがなくなり、かつては憧れた「論破」という行為を愚かだと考えるようになった事です。

 

物事を知れば知るほど、「正しさ」なんていうものは、時・場所・状況・集団の性質に大きく依存している事が分かりますし、相手の退路を断つ形で理詰めで無理矢理YESと言わせた所で、その後に続く良い関係は築けず、相手のベストパフォーマンスを引き出す事など望むべくもない事は、人生の経験値が高い人ほど心得ているでしょう。

 

それよりも、自身の中で譲れない部分と譲れる部分をしっかり認識し、相手の言い分に耳を傾け、相手の自尊心をケアしつつ、譲れる部分については気持ち良く譲った方が物事ははるかに上手く進みます。

 

「ディベートの相手が人であるのに対し、ダイアローグの相手は問題である」

 

このように捉えても良いかもしれません。

 

相手を言い負かそうと争うよりも、相手と協力してより優れた問題解決をはかる方がエネルギー効率としては遥かに生産的。

 

互いのエネルギーをぶつけ合って相殺させるより、ベクトルを統一し、力を合算させた方が大きなパワーが得られるのは自明です。

 

またディベートの授業はいざ知らず、リアルの説得のシーンにおいては「何を言うか」より「誰が言うか」の方が極めて重要だったりします。

 

アリストテレスの弁論術に則して言えば、「ロゴス」(論理-話の内容)よりも、「エトス」(人格-話者の権威、実績)、「パトス」(感情-話者の信念・熱意、聞き手の心情・気分)の方がモノを言う場面は多く存在します。

 

 

 

 

一例として、新入社員と部長の発言力の違いを考えるとやすいでしょう。仮に両者が全く同じ内容を提案したとして、部長の提案はスムーズに通っても新入社員の場合は聞いてすらもらえない事もあります。

 

この場合の違いはどこにあるかと言えば、「ロゴス」(論理-話の内容)ではないんですね。発言力の源泉は話者の組織における実績にあります。

 

では、実績のない人間は発言力において一切希望がないのか? と言えば、必ずしもそうではありません。

 

人格(エトス)を高めて自身が受け入れられ易い環境を整え、聞き手の感情(パトス)に意識を払い、相手の自尊心をケアしつつ気持ちの良い対話の道を探れば希望は見えてきます。

 

いずれにせよ、「何がなんでも自分の主張を通す(≒論破)」という視野狭窄から自分を解き放ち、高い視座、広い視野で物事を眺め、自身の可謬性(かびゅうせい-間違っている可能性)を忘れず、相手と敵対せず、協力する事でより良い解決の道を探る、というスタンスを保つことが、諸々が上手くいくコツであるというのが最近よく思う事です。

 

世の中の変化スピードは加速してきています。

 

ネット化とグローバル化が進めば進むほど、自分を取り巻く環境の多様性は増してくるでしょう。

 

多様性にはアップサイドもあればダウンサイドもあります。かつてない面白い経験ができるチャンスも増えるかもしれませんが、それは現状の自分では理解しがたい事、受け入れがたい事が増える事と切り離せません。

 

こうした世の中を気持ちよく生きていこうと思えば、自身の変身資産を高めていくことは極めて重要です。

 

1)生産資産を高めるための読書

 

2)活力資産を高めるための読書

 

3)変身資産を高めるための読書

 

 

自身の最近の読書は、3)の比重を高める事を意識しています。

 

無論これは簡単ではなく、長く生きて色々な経験を積めば積むほど、自分の型というものが出来てくるので、変身資産を高めるにはより意識的な努力が求められます。

 

ただし、いたずらに変化を求めれば良いというものではありません。

 

変えるべきもの、変えるべきでないもの

 

これについてはしっかりと熟考する必要があり、これに関してアメリカの神学者ラインホールド・二ーバーの「祈り」という詩が示唆に富んでいるので、最後にこちらを紹介して終わろうと思います。

 

 

神よ

 

変えることのできるものについて、

 

それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。

 

変えることのできないものについては、

 

それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。

 

そして、

 

変えることの出来るものと、変えることのできないものとを、

 

識別する知恵を与えたまえ。

 

 

 

 

年間100冊読書、5年目の記念碑ブログにつき、少々ボリューミーになりました。

 

ここまでお読み頂きありがとうございます。

 

 

江古田Music School代表 

 

銀座ST.SAWAIオリオンズ 専属ピアニスト

 

 

岩倉 康浩