授業の枕に、生徒に日記を書くことを勧めています。「朝何時に起床……」などという「日記」ではなく、夜、風呂の入って、「今日の七時間授業のうちで面白かった内容は何か」を思い出し、それを書くこと、そして、必ず、そこから、もう一歩入ること。「それによって物事が立体的に見えるんだよ」と口をすっぱくして話しています。

 昨日、『超明解!』(以下文春新書『超明解!国語辞典』を略してこう書かせて下さい)を示して、「比較」とはどんなことかを話しました。「何らかの意味で次元が揃わなければ比較は出来ないんだよ」という話をしました。

 「では、その次、この話を面白いと思ったものは、どうするか」と聞いたところ、「認知症予防をやるしかないでしょう」というのがもっとも有力な意見でした。表になっている項目を、『明鏡』第二版で確認せよということです。

 今日、一日かけて、この『超明解!』の、「辞書比較」を、「認知症予防」だと唱えながら実行しました。以下その報告です。

 ❶ 「『岩波』の一一四七ページには「ねったい(熱帯)」から「ねばる(粘る)まで五十一の見出し項目が並んでいる。和語も漢語も外来語もある。この「ネッタイ(熱帯)」から「ねばる(粘る)」までの間に、それぞれの辞書がどのような見出し項目を置いているかということを対照してみよう。左には、八十四の見出し項目を掲げたが、その見出し項目があれば○、なければ×を附した。

 『明鏡』初版は、八十四の見出し項目の内、○47で、岩波と同数、七書中、五(六)位です。遥かに数少なかったのは、『角川必携初版(1995年版)』○34でした。

 ❷ 「カタカナ語にどう対応しているか」「これは各辞書が現代日本語をどの程度見出し項目としているかということを探るための調べであるので、筆者(今野)の判断でということにはなるが、わりあいと新しそうに思われるカタカナ語も含めて抜き出した。」

 『明鏡』初版は、一〇〇の内、五十七の立項があり、四・五位同数である。最下位は『角川必携』で40である。

 ❸ 「使われている漢語が『広辞苑』にとりあげられているかどうかを調べよう。高等学校の教科書にもとりあげられることが多い『舞姫』を素材としてみる。

 すべて、二十の内、『広辞苑』に示された語は、十六であるが、『明鏡』初版は、五であって、四書の比較の内三番目であった。

❶について、『明鏡』二版は、+4で「51」になり、三・四位同数となる。最下位は『角川』

❷について、『明鏡』二版は、+8で六十五項目となり、第四位になる。最下位は『角川』

❸について、『明鏡』二版は、+8で、総計十三となり、二位の『集英社国語辞典』第三版の七語を大きく引き離す。比較対象は他に『新明解』六、『三国』三のみである。

 私の勝手な推測を述べておきます。

 ① 『角川必携国語辞典』初版(1995年刊)は、すべてのデータにおいて、最下位であり、「当て馬」に使われたのではないでしょうか。(比較する『国語辞典』は他にいくらでもあるのにです)

 ② 筆者の姻戚関係にある、山田忠雄の『新明解』について、かなり辛口の評価で信用できるなどと、提灯持ちしている話があるようですが、ちゃんと、すべてのデータにおいて、二位・三位ぐらいを維持し、見事に書き切っています。

 ③ 『明鏡』初版・二版については、私の見るところはっきりしています。
 
 現在、恐らく、これら国語辞典の需要の殆どは大学生・高校生です。これらに受け入れられるのが、もっとも重要と筆者が考えたのは自然でしょう。ところが、現在書店にある辞書で、『明鏡』第二版は❸『舞姫』のデータに見るごとくダントツです。これを「辞書比較」に使いたくありません。だから、初版(2003年刊)を。

 ア 『明鏡』初版を、なぜ、他本、二〇一〇年以降のものに紛れこませて使ったのか。

 イ 『角川必携国語辞典』(1995年)をなぜ「辞書比較」の対象にしたのか。

 私は、ある答えを得たと思っていますが、筆者(今野真二)、あるいは、文藝春秋社の編集担当TNの弁明をぜひ聴きたく思っています。

 私の教える生徒は、次に、ぜひ、『山月記』と『羅生門』の「辞書比較」をしてくれと言っています。「もういいよ」と私は拒否していますが、「認知症予防だよ」と言われては、そういつまでも知らぬ顔も出来ないでしょう。
 
 また、いつの日か、『山月記』と『羅生門』の辞書比較が報告出来ることを楽しみにしておいて下さい。