【店長のうんちくコラム その20・コーヒー豆の選別やハンドピックについて】 | 丸市珈琲~銀座駅前の隠れ家カフェ~

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【店長のうんちくコラム その20・コーヒー豆の選別やハンドピックについて】

コーヒーの専門書や特集雑誌を読むと頻繁に見かける「選別」や「ピック」という言葉。

大量に収穫されるコーヒー豆は、全てが完熟していて美味しい状態というわけではないので、美味しくないものを取り除く過程がこの「選別」や「ピック」という作業になります。

 

1.収穫するとき

まず初期段階で行われる選別方法は収穫されるその瞬間。

自然に近い形(自生コーヒーや山の斜面に植えられたものなど)で栽培されたものは手摘みされることが多いため、目で見て判別しながら収穫することが多いです。

※ペネイラと呼ばれる篩(ふるい)で、葉っぱや軽い豆を飛ばす伝統的な方法。大量に収穫する場合はコーヒーの木の枝をしごくように実をとるため、どうしても葉なども含まれることから編み出された技術

 

それとは対照的に大規模農園の場合は一斉に完熟させることが多いため、振動を使った収穫機械で一気に完熟豆を選別・収穫します。

※フランスのぶどう畑でしばしば見られる収穫機。機械が通れるようにコーヒーの木を一列に植え、そこを挟み込むように収穫していきます

 

 

2.収穫後

全ての農園にある施設ではないのですが、水洗式比重選別法というものがよく使われます。

収穫されたコーヒーの実を水槽のような装置に投入すると、浮力の影響で未熟な実や過熟して発酵した実、その他葉っぱだったりゴミだったりが浮くため、その余分なものを取り除き、沈殿した完熟豆だけを取り出します。

 

 

3.乾燥・脱穀後

収穫の後にいろいろ精製され、乾燥・脱穀後に生豆(種の部分)の状態になった後。

機械を使うときは色で振り分ける「光選別機」、人の手を使うときは「ハンドピック」という作業に入ります。

光選別機は巨大な滑り台からコーヒー生豆を滑らせ、完熟豆の色以外のものをはじく大型機械です。

10年以上前に南米の人に、この機械はいくらくらいか聞いたら、「一台一億円だ」と答えが返ってきたのが衝撃的だった記憶があります。

かつて1億円なら、今ではいくらなのか…

 

また、ハンドピックとは視認しながら人の手で選別する方法で、「不良豆」(形が悪いものや、欠けのあるものなど)と言われるコーヒーの味わいを損なう豆を取り除いていきます。

 

 

4.輸入後

まだまだ選別作業は終わりません。

日本に輸入された後も選別作業は続きます。

個人店などは、現地では取り切れなかった不良豆を一個一個丁寧にハンドピックで取り除くところが多いです。

 

ちなみに中規模以上のコーヒー屋の場合はピックしなければいけない生豆が大量のため、輸入前に生産国のハンドピック工場に回して取り除いてもらいます。(南蛮屋の豆もそうして取り除いているものがあります。また、同じ豆を工場に複数回依頼してさらに厳密に取り除くこともあります)

 

 

5.焙煎時

さていざ焙煎、という段階まできても、まだまだ選別は続きます。

小型焙煎機では通常ついてはいないのですが、中規模以上の焙煎機の場合、焙煎し冷却されたコーヒー豆を取り出す過程で、空気(風)の力を使った比重選別によって異物を取り除きます。

重いものは落ち、軽いものは飛ばされ、適した重さのものだけを集める装置があります。

また、何らかの金属類がコーヒー生豆に誤って混入していたり、焙煎工場で何かのはずみで部品が落下していたりする場合に取り除くために、冷却層の出口には超強力磁石が付いています。

 

 

6.焙煎後 ←※過去のハンドピックの記事もご覧ください

これが最後の選別工程です。

焙煎後は新たに焦げが発生してしまう可能性があるため必ずピック作業をします。

それ以外にも成分(特に糖分)が不足しているコーヒー豆は色づきが悪いため、見つけ次第取り除きます。

また、ほとんどないと言っていいのですが、本当にたまにコーヒー生豆と色も形も重さもそっくりな「トウモロコシ」などの雑穀が混ざることがあります。

これは焙煎後にポップコーン状態になって見分けることが容易になったりします。

 

 

ざっと解説しただけでも6工程もある選別作業。

「どれだけコーヒーに適していない豆が混入しているんだ…」と思った方も多いと思いますが、一番混入が多い銘柄では、収穫されたものの約半分を取り除くことがあります。(取り除けば取り除くほど売価が上がるのですが…)

もちろんこれは極端な例ではあるのですが、異物混入の可能性がゼロではない限り、工程の最後まで気を抜くことができません。

 

 

最後に蛇足ですが、実は今回はどうしても言いたいことがあってコラムを書いておりました。

私が南蛮屋入社2年目くらいの時に店にとあるコーヒー屋の社長さんが来店されました。

「今度コーヒーの本を出す」とおっしゃっていたその方から、なぜか当店のコーヒーの製造過程について事細かに聞かれました。

それこそ取材と言っていいほどの長い時間ずっと質問に答え続けたのですが、最後はとてもこちらを馬鹿にした態度だったため、ある意味不思議に感じていました。

ですが後日、出版されたその本をたまたま本屋で見かけたので、購入して読んでみたらとてもびっくりしました。

当店の焙煎方法は炭火焙煎で、いろんな焙煎方法の中でも「一番難しい」と質問に答えただけなのですが、「炭焼きは一番優れている焙煎方法だという意見があるがそれは間違いだ」と書かれていました。

そしてそれ以上に衝撃的だったのは、「焙煎した豆を店舗でビンに移す際にハンドピックをする」と説明したとき、その瞬間も「は?」と言われてしまったのですが、本の中では「焙煎後の豆に手を突っ込んでハンドピックするなんて不衛生だ」と書かれてしまいました。

当たり前ですが、ハンドピックと言っても焙煎後はレードルかトングを使ってピックをするのです。

それはコーヒー屋なら誰でも知っている当たり前のことなのですが、本当にそれがとてもショックで「いつか公に反論するぞ!」と心に決めて早15年。

そんなわけで、この機会に書かせていただいた次第です。

言うまでもないですが、商品の衛生状態については選別など他の何においても絶対に最優先事項なのです。