彼の睡眠欲は、凄まじい。
 
 
 
人間の三大欲求の中でも
 
彼の欲は、ここに集中していると思う。
 
 
 
どこまで彼の睡眠欲が強いのかというと
 
昔、彼と大ゲンカをしていた深夜1時。
 
場所は寝室。
 
彼は、私との口論の最中に
 
寝た。
 
 
 
私)「そういう事言うと思わなかった」
 
 
彼)「言ってないし」
 
 
私)「言ってたよ…」
 
 
彼)「・・・・zzz」
 
 
こんな感じで、
 
”話しているほんの隙に寝る”
 
という恐ろしく器用な技を見せた。
 
 
彼はベッドに腰をかけ
 
頭をたらし寝ている。
 
 
 
"本当に寝たの?
 
それともふざけてる?"
 
私は疑う気持ちで
 
彼に「起きてるの?」と聞いたら
 
 
 
彼は、ハッと起きて
 
いきなり立ち出した。
 
 
 
 
「…起きてるし」
 
 
 
ベッドの横にむくっと立つ彼。
 
 
”…これは絶対寝てたな。
 
ってか、なんで立ったの?”
 
 
実は彼はこの時
 
眠ってはいけないと思いながらも
 
座ったら寝てしまうので
 
立つという手段に出るしかなかった
 
ということをあとから聞いた。
 
 
そんなことなんて私は知らないから
 
喧嘩の最中
 
私はとても悲しかった。
 
 
だって普通
 
大好きな彼女と喧嘩をしたら
 
全然眠れなくて
 
むしろ睡眠欲なんて無くなって
 
とにかく話し合いに必死になるものだと思ってから!
 
 
 
それが、彼はすっと・・・
 
それはもう、すっ・・・と寝てしまうなんて
 
「愛してない」と言われてる気がして
 
女心が少し傷ついた。
 
 
 
「こんな時に寝れるなんて凄いね!」
 
なんてイラつかせるセリフを
 
言ったりして、様子を見た。
 
 
 
 
 
 
しーん…
 
 
 
 
 
何も返事をしない彼。
 
 
私は更に攻める。
 
「何考えてるの?!なんで何も言わないの?」
 
強めに言い放ち
 
彼を見たら、なんと立ったまま寝ていた。
 
 
 
ゆら〜ゆら〜と体は前後しながらも
 
目は完全に瞑られていた。
 
 
 
 
私は、この時に初めて
 
彼の睡眠欲の強さを知った。
 
 
 
 
彼女と喧嘩をしながら
 
立ったままで
 
眠れる人がいる。
 
 
 
ここに。
 
 
 
 
 
私の中で喧嘩は終わった。
 
 
 
喧嘩の内容が折り合いつかなくても
 
寝ている人相手に
 
ぎゃーぎゃー言うのは
 
もはや喧嘩ではなく独り言になる。
 
 
 
そもそも喧嘩の内容も
 
キッカケは大したことではなく
 
意見の行き違いが原因だったので
(言ったとか言わないとか)
 
原因よりも更に上をいく
 
睡眠の行き違いを許せるのなら
 
喧嘩の内容が許せないわけがないのだ。
 
 
 
 
"もうやめよう"と思った。
 
 
 
 
私)「分かった。私が悪かったよ。
 
喧嘩をやめて、もう寝よう。」
 
 
 
私の言葉に意識を取り戻した彼は言った。
    
 
 
「こんな状態で眠れるわけないやん?」
 
 
 
私)「いや、今寝てたから!
 
充分に眠れてるから!!」
 
 
 
彼は、ふてくされた表情をしながら
 
布団の中に入っていった。
 
 
そして0.0001コンマの速さで寝た。
 
 
のび太もびっくりの速さだった。
 
 
 
よく、子供のいるママが
 
「うちの子は食べながら眠るの〜」
 
なんて言っているのを
 
聞いたことがあったが
 
私はそれを子供ができる前に経験した。夫で。
 
 
 
ちなみに、
 
翌朝も彼はまだ喧嘩モードだった。
 
 
私は仲直りしたつもりだったけど
 
彼は喧嘩の途中で意識を失ったために
 
私が謝ったことも
 
眠りに誘導したことも
 
覚えていなかった。
 
 
 
仕方がないので私はもう一度
 
「ごめんね。けんかをやめよう」
 
と言ってハグをした。
 
 
 
 
そこでやっと喧嘩は終わった。
 
 
 
 
 
“睡眠欲が強い”という視点で
 
彼のことを見ると
 
実は、あらゆる場面で
 
睡眠が優先されていたことに気づいた。
 
 
 
例えば、彼の朝イチのシャワー。
 
 
 
時々、
 
いつもなら20分でシャワーから出てくるところを
 
40分経っても出てこないことがある。
 
 
”どこ洗ってるんだろう?”と
 
お風呂場に見に行くと
 
彼はシャワーに寄りかかり寝ていた。
 
 
 
もう、
 
 
驚きもしなかった。
 
 
 
喧嘩中に立ったまま寝る人なので
 
シャワーを浴びながら寝ることも
 
彼にとっては容易なこと。
 
 
お風呂場のドアを”コンコン”と叩いて彼を起こす。
 
びっくりして起きる彼。
 
”見られちゃった”
 
という顔でにやけている。
 
 
 
・・・許してしまう私。
 
 
 
 
 
他にも彼は、
 
大勢の人と飲んでいる最中に
 
1人だけ寝ていたこともあれば、
 
 
私の親と初顔合わせという
 
普通の人ならば緊張する場面でさえも
 
話してる途中で寝た。
 
 
田舎から東京に遊びにきた
 
うちの両親が気を使い、すぐに解散した。
 
 
 
 
これはもう
 
仕方がない。
 
 
 
だって彼は眠たいのだから。
 
そしてその眠たさを
 
自分で抑制することもできないのだから。
 
 
 
嫁としての役目は
 
なんとか彼を起こすのではなく
 
なんとか彼の睡眠を確保することにあると思う。
 
 
みんなで飲んでいても
 
サッと解散するようにしたり
 
万が一途中で寝ても
 
"悪気はない"とフォローをいれたり。
 
 
 
彼の見ていないところで
 
あれこれ世話を焼くのは
 
はっきり言って・・・
 
 
 
 
 
幸せだ。
 
 
 
 
 
スヤスヤと眠る彼の顔を見たら
 
"この笑顔の為ならなんでもやるよ"
 
と毎晩思える私は
 
もしかしたら彼より幸せかもしれない。
 
 
 
 
 
 
***おしまい***