家族じまい
桜木紫乃
2021/12/31
★ひとことまとめ★
家族とはなにか?家族の正しい"仕舞い"かたとは
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
【第15回中央公論文芸賞受賞作】
「ママがね、ボケちゃったみたいなんだよ」。
突然かかってきた、妹からの電話。
両親の老いに直面して戸惑う姉妹と、それぞれの家族。
認知症の母と、かつて横暴だった父……。
別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。
【感想】
2021年最後の1冊にこちらを選びました
今年は、「家族」について考える機会がとても多い1年でした。
自分の肉親についてという意味の「家族」もそうですが、そもそも「家族」とはなんなのかということを考えることもありました。
同じ年齢の同級生たちが結婚・出産(人によっては第二子も)して家族を作り上げていく中、自分はいまのままでいいのだろうか?
私はこれから先家族を作ることはできないのだろうか?
悩んでも結局明確な答えは出ませんでした。
最終的に行き着いたのは、「人と比べても仕方がない」ということ。
手に入らないものに思いを馳せて悶々としていても意味がないというか、その時間が勿体無いよなと。
私が羨ましく眺めているのって、SNSだけで繋がっている同級生なんですよね。
SNSだけで繋がっているということは、彼らの本当のところは何も知らないということなんですけどね。
SNSではキラキラした部分しか見えないしね…。
それでもどうしても人と比べて落ち込んでしまうときは…
いまも親交のある友人は別として、そういう同級生は"人生の一瞬を、偶然ともに過ごすことになっただけの人"と考えるようにしています。
"ほぼ"赤の他人。赤の他人の現状にやきもきしても仕方ないよなと。
自分が家族を作り上げていけるかは未だにわかりませんが、それでも毎日自分ができる精一杯をしていくしかないと思っています。
そんな「家族」について悩んだ1年だからこそ、こちらの作品を今年の最後に読みました。
5つの章で構成されていて、それぞれの話の登場人物は他の章の登場人物とどこかで繋がりがあります。
血のつながりなのか、偶然の出会いなのか違いはありますが、前の章の登場人物のその後を垣間見ることができます。
この作品に出てくる家族は、ファンタジーな家族ではなく現実的な家族です。
長年家族から逃げ続けたが、母の認知症がきっかけで家族と少しだけ向き合い始める長女。
"条件"につられ、自分の母と同じ年齢の男性と結婚する女性。
両親との2世帯住宅を購入したことで長女に勝った気になる次女。
フェリーで乗り合った認知症の老夫婦を通し、自身の家族との関係を顧みるサックス奏者。
娘から「情がない。あんたには家族なんてものはない」と絶縁を突きつけられ、久しぶりに認知症の妹に会いに行くことにした老婦人。
5つの作品に出てくる家族たちには、突如奇跡が起こって関係性が良くなることもなければ、病が治ることもない。
むしろ、経年とともに埋めることのできない溝が広がっていくこともあります。
小説の中では、ただただ現実的な家族の日常が続いていきます。
でも、だからこそ作品を読みつつ、家族とはなんだろう?とじっくり考えることができます。
私達の日常でも、突如奇跡が起こることはほぼありません。
奇跡が起きて病気が治ったり、宝くじが当たって金銭的な悩みが急に解決したり、それまであったわだかまりが嘘のように消えて仲良くなったり…
そんなことはめったにありません。(めったにないから奇跡って言うんですが…)
ただただ淡々と続いていく日常。
作品の中では、ちょっとした一筋くらいの光は差し込みますが、それでもやっぱり奇跡は起こりません。
だからこそ、読者はリアルさを感じつつ読むことができる。
そういう作品だと私は思いました
リアルだからこそ、胸にぐさっとくる一文もありました。
読み終わったあとでも、やっぱり思います。
家族って、なんなんですかね?
きっと答えはすぐに出るものではなくて…、もしかすると死ぬ瞬間になってもわからないのかもしれないなぁ~。
・ふたりを単位にして始まった家族は、子供を産んで巣立ちを迎え、またふたりに戻る。そして、最後はひとりになって記憶も散り、家族としての役割を終える。
人の世は伸びては縮む蛇腹のようだ。(P54)
・男のプライドにとことん付き合うには、忍耐と努力が必要だった。
お前のプライドを守るために捨てられるプライドの身にもなれ(P97)
・その夜、陽紅は言語化できない心もちを取り出し、改めて今日一日を眺めてみた―表面にうっすらとした気味の悪い粉がまぶしてあった。(P105)
→このあたりの表現、素晴らしすぎません?
どうしたらこんな表現ができるようになるんでしょう…。
・同じ時間の記憶でありながら、父親と娘が見たものは別なのだ。同じ時間同じ景色、同じことがらだったゆえ、まったく別の記憶となってしまう。(P208)
・お互い元気で死にましょう(P231)
・「なにをどうやったって、なんにもならない。毎日毎日、振り出しなんだ。あいつ本当に馬鹿になっちまった」ひとことずつ区切りながら、義弟は最後にぽつりと「年を取るって切ないもんだなあ」とつぶやき、泣き始めた。(P239)
→認知症の家族を持つ人なら、似た思いを抱いたことがあるのではないでしょうか。
私の祖父も、祖母に対して生前同じようなことを言っていました。
・人間は常温保存で賞味期限がまちまちの食べ物みたいなもんですからね。(P254-255)
認知症のサトミについても、
・持ちたい荷物だけ持てるようになったんだ
・心を旅させている
・抜き出した記憶が作り上げた別の時間が流れている
というような表現で…
帯の書評にあるように、まさに「文芸」だなと感じました。
本年読んだ本は90冊で着地!
どの本もとっても素敵だったのですが、強いて言うなら「ツバキ文具店 」が1番感動してボロボロ泣いた本でした
新年初泣きしたい人、おすすめです。
ミステリーなら、つい先日読んだ「六人の嘘つきな大学生 」ですかね~!
ミステリーとしても、就活への問題提起としても、良い作品だと思いました。
多くの部分がセリフなので、読みやすい!
読者登録してくださった皆さん、
縁があってブログを見てくださった皆さん、
本年も1年誠にありがとうございました。
来年もマイペースに書いていくので、お付き合いいただけると嬉しいです
2022年も、皆さんにとって、私にとって、良い1年でありますように。
それでは、良いお年を