六人の嘘つきな大学生
浅倉秋成
2021/12/30
★ひとことまとめ★
私の「裏側」はどうなっているんだろう?
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
■■各種ミステリランキングで話題沸騰中!
『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編 8位
週刊文春ミステリーベスト 10(週刊文春 2021年 12月 9日号)国内部門 6位
「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン 2022年 1月号)国内篇 8位
『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング 4位
成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を
得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
『教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。
【感想】
こちらはお客様からいただいてから、読まずに本棚で温めていた作品です。
ずっと気になっていた本なのでいただいた時はとっても嬉しかったのですが、ここぞ!というときに読もうと決めていました
年末の今こそ、ここぞなのでは?と思って一気に読みました
この本のジャンルは、一言で言えば”就活ミステリー”。
作品は、「2011年の就活時に起こった『あの事件』についての調査をここにまとめる。」という波多野祥吾の文章から始まります。
リリースしたSNSが瞬く間に大ヒットし、今を時めくIT企業”株式会社スピラリンクス”。
2011年、満を持して新卒採用を開始した。初任給はなんと破格の”50万円”。
応募者は5000人以上に及び、その分選考のステップも多く設定された。
そんな選考を勝ち残った、6人の優秀な就活生たち。(画像はAmazonからお借りしました。)
■波多野祥吾
■九賀蒼太
■嶌衣織
■袴田亮
■矢代つばさ
■森久保公彦
スピラリンクスから告げられた最終面接の内容は
「一カ月後、グループディスカッションを行ってもらう。ディスカッションの出来によっては全員内定ということも有り得る。これはいわば”チームディスカッション”。当日までに最高のチームを作り上げてきてください。」
というものだった。
6人は毎週ディスカッション対策会議を開き、議論を通し各々の強みや弱みを知っていくことで徐々に最高のチームを作り上げていく。
親睦を深めるために開いた飲み会では、皆が心から「全員でスピラリンクスから内定をもらおう!」と一致団結していた。
そんな帰り道、スピラリンクスから届いた1通のメールで最高のチームはあっけなく壊れてしまう。
「採用枠は”1つ”にすることになり、当日のディスカッションでは”6人の中で誰が最も内定にふさわしいか”を議論してほしい。」
先ほどまで最高のチームだったメンバーが、ライバルに変わった瞬間だった。
最終選考当日。監視カメラの設置された会議室の中で「ある事件」が発生する。
会議室内から彼らが過去犯した「罪」について告発する6つの封筒が発見されたことで、ディスカッションの流れは大きく変わっていく。
最高だと思えていたチームメンバーの裏の顔が暴かれていき、互いの罪を罵り始める。
そしてディスカッションの流れは、事件を起こした犯人を暴く方向へと変わっていく……。
果たして誰がこんな事件を起こしたのか?というのを解明していく謎解きなのですが、私は複数回騙されました~
この人が犯人…?いやこの人なの…?え、実は…?!と。
一体誰なんだろう!?と犯人を推測していく気持ちが逸るのと、自身が就活の際思っていた気持ちがそのまんま代弁されていたのでページをめくる手が止まりませんでした~
2011年の就活のお話なので、時期的に自分が就活していた時と時代設定が近いので尚更話にのめり込みました。
就活って、なんでやらなくちゃいけないんですかね?
もちろん、社会人になるため、卒業したら働くため、行きたい会社で働くためetcだと思うんですが、いまでもあまり良いものとは思えません。
新卒で入社した会社の社長が、「アンケートや問診票などで、”会社員”に〇をするためにあなたたちは就活している」みたいなこと言っていましたが、まさにそんな感じ。
よっぽど「この会社で働きたい!!」と思っている人以外は、よくわからないままに、みんなが行うから流されるままに就活しているんじゃないんでしょうか?
社会人になってもう何年も経ちますが、会社側の立場になり、面接に同席する側になっても思います。
数回の面接で、その人が会社に合うかなんてわからないなと。
書類やテストはわかりやすくて足切りにできるけれど、面接は正直あの短時間ではその人の裏側までは見ることはできない。
いかにその人の裏側を少しでも垣間見えるような内容の質問をするか、という会社側の技量にもなるかもしれませんが、ほぼ無理だと思う。
履歴書上・面接で印象が良くても、一緒に働いてみるとビックリするような人もいる。
実際この人がどんな働きをしてくれるのかなんて、インターンくらいしないとわからないんじゃないの…。
大人数の新卒採用している会社って、とりあえず基準は満たしている(と思う)し、数年後に何人か残ってくれてたらいいな~くらいの感じだと思うんですよね。
実際私の新卒入社した会社もそうでしたね~。大人数とりあえず雇って1年目で半数以上残ればいっかな~くらい。仕事がハード(というかブラックに近い)だったってのもありますが。
活躍を期待した人がすぐ辞めちゃうこともあるし(優秀な人ほどこの会社やべぇな…で辞めたりするよね)、すぐ辞めそうだな~って人がいざ働き始めたらすごく良い仕事をすることもある。
もう、賭けですよね。賭け。。。。
なんか、そんな会社の感覚に対して、就活生の負う精神的な負担が大きすぎると思うんですよね。
続々届くお祈りメールだって精神を病むし、自分のどこが悪かったのかわからないままに次へ次へと進まないといけない。(教えてくれる会社もあるようですけどね)
面接では嘘か本当かわからないやり取りや、時には精神をえぐるような圧迫面接も。耐性があるか、いかなるときでも冷静な判断ができるかを見ているようですが、無理でしょ
というか、そんな圧迫に耐えないといけない機会が御社ではそんなにあるんですか?って思っちゃう。
それが社内なのか社外なのかわからないけれど、社内だとすればハラスメントだし、社外だとしたらカスハラだと感じてしまう。
作品を読んでいても思いましたが、就活しているときの”人事”ってものすごく偉大な存在に見えていたんです。この人に自分の運命が全てかかっているというか。天国行きか地獄行きかジャッジされているような。神様ってよりは閻魔様に近い…。
とにかく、同じ人間とは思えませんでした
けれど、社会人として働いてみると人事もただの人間だなということが当たり前ですがわかりました。
文中でも書かれていましたが、就活時には人事こそが花形というかエリート部署だと思っていたのですが、入ってみればそんなことはなく。
会社のお金を稼いでくる部署ではないので、会社内の扱いとしてはそうなりますよね。
今の会社に入った時がそうでしたが、私を担当した人事も実は入社したばかりで会社のこと知らないままに面接やっていた、とかもありました。別にそれが悪いとかそういう話ではなく、人事も”人事役”を演じているだけなんだなと。
看守役と囚人役に分かれたスタンフォード監獄実験では、状況の力が人間の行動にもたらす影響というものが証明されたように、”人事”という役割がその人の行動や言動にまで影響を与えてるんだな~と。
人事>就活生 が当たり前になってしまうのかなと。
この逆で、就活生は人事が偉い存在だという前提の行動・言動をしてしまう。。。
だって普通の状態で圧迫面接っぽいこと言われたら「は?」ってなりますよね
面接だから、自分は人事だから、相手は就活生だからしていい、はオカシイと私は感じるんです。
転職活動してる時もそうでしたね。時間にめちゃくちゃ遅れてくるのに謝りもしない人事がいた会社がありましたが、「人としてお前のその行動はどうなんだ?」って思いましたね。
なぜこんな礼儀すら守れない人にジャッジされないといけないのか?と感じました。
今後こんな礼儀も守れない人と一緒に働いていくことかこちらから願い下げなんですけど…って
私は、人事も就活生も対等であるべきだなと思います。
人事には、就活生からも同時にジャッジされていることを忘れないでほしいし、就活生も自分が会社を選んでいるんだという気持ちを忘れないでほしいな~。。。
もちろん、この気持ちをずっと保てているしっかりした人もいるんだろうけれど、多くの人は就活という大きな流れに翻弄されるまま流されるままになってしまっていると思います(人事・就活生ともに)
就活で悩んでいる人に読んで欲しい作品だな~。私も就活始める前に読みたかった作品だった…。。。
以下、私が大共感した文章で終わります
・大学三年の後半になれば就職活動が始まる。就職は当然しなければならない。だから頑張らなくちゃいけない。しかし、やるべきことの指針は悲しいほどに曖昧だった。何をしたら内定 が近づき、何をしたら内定が遠ざかるのか、何もわからない。(P33)
・ しかしやっぱり「どうやらうまくやれているらしい」という以上の手応えはなかった。透明な銃で透明な敵を撃ち続けていたら、思いのほか悪くないスコアが 手元に表示されていたというような話で、そこに喜びはあっても具体的な根拠や確信は存在しない。(P33)
・本当、嘘ばっかりついてたよ、あの当時は。
どこまで嘘つけるかって勝負してるとこあったよな、正直。 居酒屋でバイトリーダーやってますってのと、ボランティアサークルで代表やってますって嘘ツートップで乗り切ってたのは覚えてるわ…え、そうそう、全部嘘よ。(P72)
→自分をよくするために嘘つく気持ちもわからなくないけれど、嘘つく人がいることで本当のことを言っている人が霞むのもどうにかならんのかな…。深堀してボロが出る人ならわかりやすいけれど、嘘が板に付いちゃってる人だと嘘かどうか見破れないよ。。。
むしろ本当のこと言ってる人が緊張でどもっちゃったりした方が怪しまれそう。。。
仕事では嘘も上手くつかないといけない場面もあるけれど、その適性を見られてるのか~!?
・会社も会社だと思わない?
弊社の光学センサーを使ってどんな事業にチャレンジしたいですかーって、知らねぇよ、って。そんなのお前らが考えろよ、って、私、内心ものすごく思ってたなぁ………。
無茶振りする企業に、期待に応えようと思ってとんちんかんな知ったかぶりをかます学生。バッカじゃないの、こんなやりとりに何の意味があるのって馬鹿にしてやりたいんだけど、でも参加せざるを得ない。最悪の時間だった、本当にね。(P110)
・企業に気に入られるために学生はみんなして嘘ついて、一方の企業だって自分たちにとって 都合のいいことしか伝えようとはしない。(P146)
・嘘つき学生と、嘘つき企業の、意味のない情報交換―それが就活。(P147)
・当時、どうだった?大げさに言うわけじゃなく、僕は人事っていうのは、会社の中でもエリート中のエリート、選ばれた社員の中の一握り中のたった一握りだけが配属されることを許される部署だと信じて疑わなかったんだよ。
今思えば笑い話だけど、だって、そうだと思わない?就活生を前にした彼らの、あの尊大な態度。 そうでもなければ説明がつかないでしょ。
入社してからびっくりしたよ、社内での人事部の立ち位置。誰一人として人事部を花形部署だとは認識していなかった。(P226)
・ええ、それで、何でしたっけ・・・・・・面接官をやる上でのコツと、相手の本質を一瞬で見抜くテ クニックでしたね。 これはもうね、本当に簡単に一言で言い表せますよ。
そんなものない。これに尽きますね。(P247)
・「将来的に何をやらせるのかは決まっていないけど、向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選ぶ」日本国民全員で作り上げた、全員が被害者で、全員が加害者になる馬鹿げた儀式です。 完璧なんて目指せるわけがないです。(P250)
・当たり前だが、彼らは全員、完全な善人ではなかったかもしれない。でも完全な悪人である はずがなかったのだ。
おそらく完全にいい人も、完全に悪い人もこの世にはいない。
犬を拾ったからいい人。
信号無視をしたから悪い人。
募金箱にお金を入れたからいい人。
ゴミを道ばたにポイ捨てしたから悪い人。
被災地復興ボランティアに参加したから絶対に聖人。
健常者なのに優先席に遠慮なく腰かけていたから極悪人。
一面だけを見て人を判断することほど、愚かなことはきっとないのだ。 (P266)