80KIDZのₙC₅「Banane」「Alt A」「Faded Pink」「Agenda」ほか | A Flood of Music

80KIDZのₙC₅「Banane」「Alt A」「Faded Pink」「Agenda」ほか

 

はじめに

 

 自作のプレイリストからアーティストもしくは作品毎に5曲を選んでレビューする記事です。第1弾は【80KIDZ】を取り立てます。普通に読む分に理解の必要はありませんが、独自の用語(nの値やリストに係る序数詞)に関する詳細は前掲リンク先を参照してください。

 

 これまでに当ブログで80KIDZをメインとした記事は7本あり、そのうち以下の2本は特集的な内容なのでリンクカードを貼っておきます。

 

 

 

 その他関連のある言及をした記事や単に名前を出しただけの記事も読みたいという方は、当ブログのID指定ありの検索結果ページを以下にリンクしておくので辿ってみてください。なお、本記事の選曲に於いては過去にレビュー済の楽曲をなるべく除く形にしました。

 

 

 前置きは以上で、ここから80KIDZのₙC₅を書き始めます。現時点でのnの値は60/3[=20*3]、レビューするのは「Banane」「Alt A」「Faded Pink」「Agenda」「Take Me With You Now」の5曲です。
 

 

「Banane」(2020)

 

 

 当ブログでは未だ6thアルバム『ANGLE』(2021)にフォーカスしていなかったため、同盤からいちばんのお気に入り「Banane」をトップに据えます。デジタルシングルとして先行リリースのあったナンバーです。

 

 

 Maika Loubté(マイカ・ルブテ)をフィーチャーしたフランス語による歌唱が印象的で、そのウィスパーボイスの心地好さに延々と浸っていたくなる中毒性の高さを誇ります。特に好きなのはカウントアップの部分で、一語ずつ左右にパンするサラウンドな空間演出が素敵です。同種のアレンジには椎名林檎「ハツコイ娼女」(2007)のサビが思い当たり、ASMRじみたボーカル処理が昔からツボなのだと補足します。

 

 語りのパートは宛らゴダール作品のようでシネマティックな趣がありますし、中盤の最もメロディアスなところだけ英語にする変化の付け方もニクいです。トラックの流麗さも80KIDZが得意とする仕上がりで、往年のシンセベースのダンサブルなうねりに身を委ねているだけでもトリップできます。バッキングに甘んじない存在感のある鍵盤遣いも相変わらず巧くて流石です。

 

 

「Alt A」(2008)

 

 

 お次は一転して最初期の楽曲を。1stEP『Life Begins At Eighty』(2008)から「Alt A」をレビューします。当ブログで初めて80KIDZの名前を出した2010年の記事に於いて注目していたナンバーです。

 

 

 その一ヶ月半後に書いたEP全体への素直な感想を引き合いに出せば、「バースト上等って感じの荒いサウンド」こそが当時の80KIDZの魅力であり、2020年の楽曲を聴いた後で本曲にふれるとそのラフさに驚くでしょう。イントロのグリッチな質感がギーク的な嗜好に刺さって仰けから惹き込まれ、[0:54]までに一通りの展開を見せるためここからどう主題に入るのか期待が高まります。

 

 そして鳴り出すウワモノは緊迫感と寂寥感が同居したような響きを持ち、僕が80KIDZを語る文脈に頻出の「日本人らしさ」が能く現れた出音と旋律であると形容したいです。[1:56~]でややポップに動き出す進行にも妙があります。中盤のブレイクはとりわけ音が粗くブツブツ音が悪目立ちしているレベルだけれど、ノイズの霧中からメロディの輪郭が浮かび上がって来る[3:13~]がとても格好良く、ポップが翻ってクールに変化するのは技ありです。

 

 

「Faded Pink」(2010)

 

 

 続いては2ndアルバム『Weekend Warrior』(2010)収録の「Faded Pink」をピックアップします。「Alt A」のケースと同じく、当ブログ内で過去にふれているものの内容が不十分なのでフォローしようの精神です。リリース時のレビュー文を顧みるにおそらく当時から同盤随一のフェイバリットで、その後の言及は「Monologue」(2020)を語る際に類似の楽想を有した曲としての例示でした。

 

 

 3つのセクションから成るインスト曲で、通時的にアルファベットを振るならABACAという構成です。Aはリフ的な位置付けと解釈していますが、その実BにもCにも部分的に顔を覗かせるのでキーフレーズでもあります。Bはフィルターでじっくり魅せる展開で、こじつけるなら曲名の「Faded」感を覚えるのはここです。Cは後半の新機軸で、切ない音色で紡がれるワンフレーズの畳みかけに忘却のダンスを踊りたくなります。

 

 今まで曲名について深く考えたことがなく素直に「色褪せたピンク」と捉えていたけれど、改めて調べたら色のpinkには派生した意味が多くあるようです(以降はfadedも意訳しています)。例えばその原義に忠実に訳して「萎れた撫子」だったり、blueに対義する健康面のワードとして「過ぎ去りし全盛期」を表すとしたり、或いは共産主義の赤に比べて軽い状態を指す点(cf. pinko, pink tide)を意識して「衰退した左寄りの人」なんてのも導き出せます。しかし自分なりにしっくり来たのは上記の何れでもなく、そもpinkの意味を色に求めず船のそれと理解して(この場合の語源は伊語のpincoないし蘭語のpincke)、「姿の見えなくなった帆船」と置くのがナラティブで良いとインストを口実に勝手な情景描写を提案してみる次第です。

 

 

「Agenda」(2010)

 

 

 2ndアルバムからもう一曲、「Agenda」を掘り下げます。再びリリース時のレビューを参照して、Daft Punkの「Steam Machine」(2005)を彷彿させるとの所感は今尚変わりません。これはアシッドなマッシュアップが期待できるとのポジティブな評です。核たるサウンドと言えるバウンシーなそれはリードとベースを兼ねた振る舞いをし、別けても台詞パートのオケ(聴きやすいのは間奏の[1:06~1:22])に見られるアフロなラインは本曲を一層グルーヴィーにしています。ハードシンセでならホイールの取回しが上手いと表現したい、効果的なベンドのSawも雄弁です。

 

 歌詞内容*にも特筆性があり、ともすれば適当にサンプリングを並べただけかもしれませんが、各フレーズが意味深長に聞こえて独特の世界観を演出しています。都度"Talking about a miracle"で結ばれるところからテーマを「奇跡」とするなら、"Having much money"の俗っぽさも"Not spilling red wine"の神っぽさも、程度の差こそあれそのビジュアライズに映ります。一方で「予定表」という曲名に鑑みて"Pulling into the chamber"を会議室とすれば、プレゼン前の模様を描いている風にも見えて"Wearing heels/Adorned with black"は気を引き締める人の、"Undoing the first button"は緊張を解す人の動作です。もしくは話し手が男女である点と"Seeing each other"から、前述の場所や動作は全て性交渉に係るものにも思え、"Can't decide what to order"と困惑しつつも結局"Just shaking, swinging, wagging "と相成ったのではと妄想できます。

 

 * アルバムのブックレットは歌詞カードでないものの、本曲に限っては歌詞の全文が鏤められたページが存在するので、上掲の歌詞はそこを参考に自分で調整したものです。従って、大文字小文字の区別やカンマの有無や改行の位置は作詞者延いてアーティストの意図するところではないかもしれません。

 

 

 
 

「Take Me With You Now」(2022)

 

 

 最後はディスコグラフィーの最新から今のところアルバム未収録の、Nenashi(a.k.a. Hiro-a-key)をフィーチャーした「Take Me With You Now」を紹介します。

 

 トラックも歌もオシャレが過ぎるという雑な感想で〆てもいいくらいに、この良さは聴けば瞭然です。指し示すところが不明瞭なのであまり使いたくないジャンル名で表せば、リズムにもボーカルにも2ステップらしさがあると形容できます。とはいえ次第に元来のUKガラージそしてハウスのビート感に回帰していくため、気付けば素直にノってしまうハイブリッドなナンバーです。

 

 一般論としてジャンルは常にクロスオーバーし続けるもので、後年の楽曲ほど包摂関係が理解しにくくなると考えています。上記も他者が読んだら意味不明かもしれないので、ドラムマシン由来というか所謂ビートらしいサウンドと幾つかの短いループフレーズが重なって絶妙のグルーヴを奏でていると、ジャンル名に依らない表現も副えておきましょう。

 

 

おわりに

 

 以上、80KIDZのₙC₅でした。リストの1stに入れている楽曲の殆どが冒頭にリンクした2本の記事でレビュー済みであったため、当ブログ上にこれまで言及のなかった6thアルバム以降および10年以上前の拙いレビューがあるだけの2ndアルバム以前を対象にするしかなく、意外と選曲の幅が狭かったことを明かします。

 

 再レビューという形で殊更に好きな「Aqua」「Dusk」「Esquire」あたりを深堀りするプランもあったのですが、レビュー済みはなるべく除くルールを意識して後回しにしているうちに5曲が埋まってしまいました。またの機会ですね。