今日の一曲!電気グルーヴ「スーパースター」 | A Flood of Music

今日の一曲!電気グルーヴ「スーパースター」

 今回の「今日の一曲!」は、電気グルーヴの「スーパースター」(2008)です。9thアルバム『J-POP』収録曲。肝心のレビューに入る前に、外堀を埋める文章の挿入をご容赦ください。

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 上掲Amazonリンクの異常な価格設定もその影響と言えるでしょうが、昨年の3月2日にインディーズ時代の電気にふれた記事をアップした頃には、まさかその十日後に「瀧の一件」が起ころうとは当然ながら予期していなかったため、更新のタイミングにジンクスめいたものを感じていた次第です。自分のプロフィール記事の「好きなテレビ番組は?」の項にも書いてある通り、電気の外で活躍する瀧のことも僕は好いていたので、『ピエール瀧のしょんないTV』の破局的な終了も中々にショックでした。元々DVD化されていない番組ではありますが、録画したDVD-Rが尚更に貴重な映像資料になったと言えます。

 また、世に出ていた作品に対する徹底的な回収ムーブメントも別の意味でインパクトが大きく、当時方々で散々議論されていたことに鑑みて今更多くを語るつもりはないものの、この記事で「物理的所有のメリット」を語る文脈の中で、本件に係る事例を取り上げた点(1.1.2の最終パラグラフを参照)は特に強調しておきます。というのも、これから本記事に書こうとしている内容にも前出の利点を意識した部分があるからです。



 さて、色々と儘ならなかったであろう2019年を経て、今再び電気にふれようと思い立った理由は、先月に発売されたムック本『電気グルーヴのSound & Recording PRODUCTION INTERVIEWS 1992-2019』を読了したことにあります。同書は過去のサンレコ本誌および別冊の内容に新規インタビューを追加して新たに編纂されたもので、ミニ形態を含むオリジナルアルバム15枚について、主に機材面から制作過程を詳細に掘り下げた一冊です。「瀧の一件」以降の二人が30年の音楽活動を振り返る〆のインタビューも必見ながら、リリース当時にサンレコ側が取材を行わなかった作品に関しても卓球による振り返りインタビューが掲載されているため、過去の刊行物は全て揃えているという方であってもマストバイなアイテムとなっています。

 ただ、アマゾンの商品説明欄に書いてある「※本書に掲載されているアルバム・ジャケットは手書き模写です。」との文言が切なくも現状の厳しさを物語っていて、この先新規で電気の音楽を聴こうとする潜在的なファンが、過去の作品にアクセスしにくい状況は依然変わっていません。だからこそ、僕は現物で作品を所持していてつくづく良かったと実感しており、文脈は異なれど『25』(2014)のインタビュー中で卓球が語っている「フィジカルの感触は重要」という意見にも大いに賛同出来ました。「感触ありき、物欲込み。」は至言です。

 同インタビューは2019年の9月に振り返られたものゆえに、先述したフィジカルの話の流れで「瀧の一件」への言及もあるのですが(この表現は卓球由来なのでこれまでも鍵括弧を付していました)、曰く「3カ月弱しか売ってなかった超レア・アイテム」であるところの『30』(2019)の初回限定盤に付属していた不思議カードも、尚のこと大切に保管しておこうと肝に銘じました。同盤はタワレコで買った記憶があって、その際に店頭に初回盤しか置いていなかった幸運に感謝します。笑




 当ブログ上に生じていたブランク埋めは以上で、ここからが肝心の「スーパースター」を語るセクションです。僕は元々サンレコの愛読者ではありますが、とりわけ熱心に購読を続けていたのは2009年~2013年頃に限られるので、ムック本に再掲載された過去のインタビューには初見のものが多くありました。2008年の5月号に掲載されていた『J-POP』発表時のインタビューもそのひとつで、そこに僕が長らく同曲に対して不思議に感じていたことの解となり得る記述があったので、レビューの好機と判断したわけです。

 その「不思議に感じていたこと」とはトラックメイキングに関する部分で、「どうしてこの曲はこんなにも絶妙にジワジワとした盛り上がり方をしているのだろう?」といった素直な疑問から出発しています。もう少し具体的にすれば、楽想的には単純であるはずの同曲が、漸次的な変化によってここまで表情豊かなアウトプットを見せていることに、何か特別な秘密があるのではないかという好奇心です。結論から言いますと、その答えはRolandのシンセサイザー「SH-2」に特有の機能「AUTO BEND」に求められるため、以下にプラグアウトで再現された同機の紹介ムービーを埋め込んでおきます。



 「AUTO BEND」の名称から想像が付くように、これはオートでピッチが上昇していく機能のことです。「スーパースター」ではメインのシーケンスに使用されており、その独特な質感は卓球によって「生き物っぽい」と形容されています。「ポルタメントとも違う(中略)有機的になる」との言い換えもあって、僕の「絶妙にジワジワとした盛り上がり方をしている」および「漸次的な変化によってここまで表情豊かなアウトプットを見せている」との感想を、よりクレバーに表せば卓球の言になるとしていいでしょう。ポルタメントやグリッサンドの作為的な速度感(滑らかな音移行の必要性が明白なケース)とは異なり、危なっかしい音程の上がり方に一層の人間味が感じられ、それが機械によって為されているという矛盾に面白みがあります。


 同曲で個人的に最も好きな瞬間は1:02~の数秒で、そこまでの1分間に提示された各サウンドの感動的なまでの深い空間処理に酔い痴れていた感覚がこの時点で一度フラットになって、その先に控えし有機的な展開を受け容れる下地が整ったと表現したい着実な布石の打ち方が披露されているところに、卓球の高度なトラックメイク術が窺えて非常にツボでした。その後は徐々に揺らぎを増していくシーケンスを堪能すれば良くて、否応なしに踊り出したくなる或いははみ出したくなる心持ちが芽生えてくえば、楽典的なことはわからずとも本曲の魅力を真に捉えていると言えるでしょう。

 歌詞も地味に好きで、とりわけ"誰かをふるわせた 木霊した/誰かを騙した 振り回した/誰かふるわせた 木霊した/誰かふるわせた スーパースター"のスタンザは、良くも悪くも「スーパースター」の本質を突くフレーズで構成されていて、「瀧の一件」後の電気を投影すると更に響くものがあるなと思いました。ムック本をご覧になった方にしかわからない締めをしますが(未読でも文脈から予想可能でしょうが)、『31』の完成がとても楽しみな僕にとって、電気は未だに「スーパースター」で在り続けています。


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